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辰に翼。
今は昔、平成22年。
「はて」
辰子はとある先輩男性芸人の言葉に首を傾げました。
当時は今程コンプライアンスが厳しくなく、所謂「ブスいじり」を舞台上でされたのです。
「ブスやないか!」
しかし、それに対して首を傾げたのではありません。
その時は辰子が上手く返し、お客様も演者もみんな大爆笑でした。
それまでは良かったのです。
問題は、舞台後ー
辰子が「(イジって下さり)ありがとうございました」と御礼を言うと、先輩男性芸人は「おう、全然ええで」と返しました。
『おう、全然ええで…?』
辰子の眉間に深いシワが寄ります。
「はて…。私のツッコミがウケただけで、あなたのイジりはお笑いになってなかったですよ?それなのに何故、そのように上から目線な対応を?助けてくれてありがとうの間違いでは?」
と、問い詰めたいのをスンッと堪え、先輩芸人の背中へ中指を立てる辰子なのでした。
当時は今よりずっと“イジる側”の権力が強かったのです。
それから激動の時代を生き抜き…
数十年後ー
世はまさに大コンプライアンス時代。
辰子は相も変わらず、売れないお笑い芸人でした。
辰子自身の人生はさほど変わっていなかったものの、お笑い界はとても大きな変貌を遂げておりました。
性別、性的マイノリティ、LGBT、学歴、国籍、出身、その他も差別に繋がったり、いじめを助長しそうな事は全て禁止されました。
「はて」
良い事なのだけど、何だか窮屈な部分もある。
でも、それはただの言い訳?
そりゃ昔は良かったなんて言いたくない!
だけど…だけど…!
てか、男女平等なのに女性芸人だけの賞レースって何!?
いや私としては全然有難いけど、男性芸人だけの賞レースがあったら炎上しない!?
いや…それを言ったら出場資格が限られている賞レースは全てそうなっちゃう。
主催側がそうしたいって言ってるんだから、それ以上でもそれ以下でもない…!
日々変化して行く世の中の流れに、戸惑いながらも必死に順応しようとする辰子なのでした。
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自分のコンプレックスを武器にするネタはもはや諸刃の剣となってしまい、例え自身で考えた自虐ネタであろうと、間接的に誰かを批判していると捉えられてしまう時代です。
エンターテインメントは扇と同じ🪭
あらゆる方面に気を使い、配慮を広げ過ぎたらパタンと倒れてしまう。
しかし、かと言って誰かを傷つけ 笑い者にしたい訳じゃない。
「はて」
自分が面白いと思う事と、世間の求めているお笑いの狭間で、悩み格闘する辰子なのでした。
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M-1グランプリ 05参加規定
『とにかくおもしろい漫才』
キングオブコント 審査基準
『とにかくおもしろいコント』
THE W 審査基準
『とにかくおもしろい芸』
賞レースのもと、お笑い芸人は皆平等であり、ただそのおもしろさだけを競い合う。
そこには性別、年齢、国籍、何一つ関係ない。
何なら賞レースだって出なくても良い。
時代が変われば、人間も変わる。
変わらないのは、お笑いはこの世界になくてはならない!って事はないけど、あった方が絶対に楽しいって事だ。
そう強く思う辰子なのでした。
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おやすみ、マム。
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