人生初手術が尻① 〜プロローグ〜
※本記事では筆者実体験の痔の手術について出来る限りおもしろおかしくレポをしておりますが、経験者の方やこれから経験する方を貶める目的のものでは決してありません。また、上記のような目的としての記事の流用は決して容認致しません。
「手術だね。一週間は入院が必要」
思わず、えっ、と声が出た。
30代女。独身である。普通に仕事もしている。サービス業でまとまった休みも基本ない。一週間の入院というのは少々長すぎる。
しかも、痔の手術で。
「手術したとして、痛みはどれくらい続くんですか」
「まぁ一ヶ月くらい。二週間くらいまでがピークでそこからちょっとずつ楽になっていくと思うよ」
医者の先生は寺脇康文さんにちょっと似ていたので亀ちゃん先生と心の中で呼ぶことにした。彼が困った笑顔で発したのは私の理想の返答ではなかった。
「普通9割くらいの患者さんが投薬だけで治るんだけどね」
いやそれは言わなくてよくない????
それはそうと、二週間尻が痛い?しかも切り傷。亀ちゃん曰く、腫れてる部分に意図的に切れ痔を作り出すみたいな原理の手術をするらしい。現代医療ってもっとこう、レーザーとかで一瞬で治せるもんだと思ってた。原始的すぎる。
ただでさえこの病院に来たのは、発狂しそうに尻穴が痛かったからだ。どうして治療にまで痛みを伴うのか。ていうか意図的に切れ痔を作るって何。怖すぎないか。
亀ちゃん先生を責めているわけではない。
手術に至るまでにあのイボを成長させてしまった自分を責めるしかないのだ。
奴らが生まれたのはかれこれ十年近く前のことだった。
当時働いていた某量販店で何気なくお手洗いに行ったところ、立ち上がったら便器の中が真っ赤だった時の衝撃を私は忘れない。
いや嘘だ。
忘れがちなのだ。
あの衝撃をついうっかりポカンと忘れてしまったりするから、今の今まで完治せずに来てしまった。これは間違いなく私の怠惰の末路だ。
最初にかかった先生も男性だった。当時はあまり痛みもなく、若かった私を見て先生は大いに気を遣ってくれた。
「触診しなくても症状で分かったから大丈夫、薬出しておくね」
と言われた時、安堵して涙ぐんだのすら覚えている。
医師に尻の穴を見られるという行為は、別に若い女性でなくともできる限り人生において避けたいものだろう。先生は当時うら若かった私に気を遣ってくれたのだ。
なのに私は愚かだった。
あれから十年近くの間、何度も出血を繰り返しては医者に通った。薬をまじめにやっていないので治らなかったのだ。食後に一粒ずつ服用して、朝と晩に座薬をさすだけ。それだけのことが継続できなかった。だってめんどくさかったからだ。
それから野際陽子似の先生にめちゃくちゃ叱られたり、
余貴美子似の先生のところに痛みがひどすぎて駆け込んだりして、早数年。
一流のイボ職人が誕生したというわけである。
話を戻す。
一週間の入院。痛みは最低二週間。
多分職場復帰までには個人差があると思うけれど、接客もレジも清掃も事務作業もてんてこまいの職種だ。尻に激痛を抱えている状態でははっきりいって仕事にならない。直近はひどい時にはロキソニンもさっぱり効かないし。
でも、もう限界だった。ひどい時はまともに立つことも座ることもできないくらい痛い。いくらかましなのがうつ伏せに寝るという行為のみ。会社で痛みがひどすぎて階段でこっそりうつ伏せに寝たこともある。
クレーマーに四時間捕まった時なんて最悪だった。イボ様が腫れ上がってるのがはっきり分かって、罵声を浴びながら尻の痛みに震えた悔しさ。せめてあの時、尻だけでも健康だったらあのクレーマーにも笑顔で対応できたかもしれない。翌日は痛すぎて勤務にならず早退した。
棚卸で悪化しすぎてそこから四日くらい休んだこともある。言い訳を考えるのももうつらかった。「婦人科系の症状で…」とか誤魔化すのも完全嘘なわけではないかもしれないけど、まぁ嘘だし。
楽しみにしてたイベントを諦めたこともあったな。
巨大ギョーザを作る約束も反故にしたこともある。
何より、トイレに行くのが憂鬱な生活は、もう本当にうんざりだった。
「手術、受けます」
言ってしまった。
人生初の手術が、尻穴になった瞬間だった。
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