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この作品を勧める言葉を僕はまだ知らない 〜 『アリスとテレスのまぼろし工場』感想

最近では呪術廻戦やら進撃の巨人で高い作画力を見せつけ、仙台にもスタジオを持つ我らが『MAPPA』初のオリジナル劇場アニメ。仙台の民としては見逃せないので、やっと時間を確保して映画館へ。

まずは、作品の概要。

製鉄所の爆発事故により出口を失い、時が止まった町で暮らす中学3年生の正宗。変化を禁じられ鬱屈した日々を過ごす中、謎めいた同級生の睦実に導かれ、製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れる。そこにいたのは喋ることのできない、野生の狼のような少女――。正宗と2人の少女の出会いは、世界の均衡が崩れるはじまりだった。止められない恋の衝動が行き着く未来とは。

本作品の小説は既に発売されており、映画館に足を運ぶ前に読んだ方もいるのではないかと。ちなみに私は未読勢。

さて、ここに感想のまとめを書こうと思ったものの、何処から何を話せばよいのか分からないというのが、正直なところ。

監督である岡田麿里さんの過去作品を知っていた僕としては、何となく「ふむふむ、こう来たか」と頷ける部分はあれど、正直なところ「えっ?これ、どう理解すればいいの?」という部分も多かった。背景設定の曖昧さが好きではない方や、作品の正解を知ることへの要求度が高い人にはお勧めし難い感じ。

アニメとしての作画はいいけれど、人を選ばずにお勧めするのはなかなか難しい、心情的には複雑怪奇な作品でした。

ちなみに、誰かに勧めることを難しくしている理由としては、『何故』の多さが理由かなと。思いつくままに『何故』を書き出してみると、以下のような感じ。

  • 製鉄所の爆発後、別の世界に隔離されたのは何故か

  • 時間も季節も止まる世界にも関わらず人は生き、体の成長は止まれど心は成長するのは何故か

  • 元の世界と隔離された世界に物理的な関係性があるのは何故か

  • 神の意志はそこにあるのか、そもそも神による介在なのか否か

  • 変化を受け入れず均衡を保とうとする世界で、この世界で唯一成長する謎の少女が存在できるのは何故か

  • タイトルは物語の伏線なのか否か。伏線だとすれば、このタイトルを選んだのは何故か

作品観ながら瞬間的に思いついたものだけでもこんな感じ。なので、上映中はリアルタイムで物語の背景を考察しつつ、登場人物の一挙手一投足に頭を揺さぶられ続けるというジェットコースター的な感覚を最後まで味わう羽目に。

観た直後は僕の中で着地点を見つけらなかったものの、現時点での自分なりの解釈は以下のとおり。

物語の冒頭、コミックの背表紙には1991年の文字。僕がここで想像したのは岩手県にある新日鉄釜石で、この製鉄所が高炉の火を落としたのは1989年。町の衰退の景色はすぐさま目に浮かび、そこから時を進めて2011年の3月11日。進む現実世界と断絶し変化を拒む虚像の世界のなか、『生きる』ということを五感と強く結びつけ、主人公である正宗や睦実の愛するという気持ちを会いたいという衝動につなげた展開は、あの日の感情に結びつくものがあった。

こんな感じで、本作に対する僕の受け止めは本作の意図とは関係なく、僕の感情と結びつけて区切りをつけた。

結局、『何故』に対する答えは未だ見出せず、物語の背景に対する理解の不足や感情の複雑さもあって、誰かに本作を勧めるための言葉を持ち合わせてはいない、というのが正直なところ。

ですので、ぜひ作品を観た方には、他の誰かに勧めるための言葉を僕に教えて欲しい。そんなことを最後に思ったのでした。

(物語の最後、主題歌で中島みゆきさんが歌う「心音」は素直にいいと思った)

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