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令和6年3月文楽入門公演 「BUNRAKU 1st SESSION」よみうりホール 


国立劇場の新しい取り組み「BUNRAKU 1st SESSION」の観劇記録です。この公演は新たな取り組みで初心者向けの普及公演。普段とは違う形式で様々な工夫があり、とても楽しめました。

公演に先立ち、昨年末よりクラウドファンディングが実施されました。

舞台の背景をアニメーションにすることで大道具の搬送による会場の制約が緩まるので、そのための資金を集めたい、というのが、クラウドファンディングの趣旨。海外公演も視野に入れているそうです。

公演自体は約1時間で、半分はトークショー。文楽愛好家でもあるいとうせいこうさんがナビゲーターで登場。その後、『曽根崎心中』の「天神の森の段」の公演があります。

会場は、有楽町のビックカメラの上層階にあるよみうりホール。1時間の公演だしアクセスも良いし、初心者も誘いやすい。同時通訳も入ってたので外国人の方もかなり入ってました。

私もクラウドファンディングにささやかながら参加しまして、リターンをゲネプロにしていたので、初日は、ゲネプロから初回公演とハシゴしました。

無料配布のパンフレット 男鹿和雄さんの題字

ゲネプロ

クラウドファンディングのリターンの一つとして、桐竹勘十郎さんと男鹿和雄さんの対談映像が放映されました。長めの動画で見応えたっぷり。やっぱりそれぞれの領域で最高峰といわれるアーティスト同士の対談は聞き応えありました。

勘十郎さんの曽根崎心中のエピソードで、文楽界のレジェンド吉田簑助師が主遣い(一体の人形を三人で操る際のリーダー役)で勘十郎さんが足遣いをしている時、お初の姿が透明に見えた…という話。

そして、簑助師はお初を遣う(操る)時に、ある場面で「赤」をイメージしていたとか。師匠はそういう風に浄瑠璃を解釈するのか、と驚いたというお話。

その後の実演を見ながら、簑助師が詞章(脚本)をどう解釈していたのか謎解きしながら鑑賞しました。

いとうせいこうさんも文楽ファンだけあって熱い想いも感じましたし、文楽を支えるファンのためのイベントという感じでとっても楽しかったです。

初回公演

文楽の解説動画の後に、演者さんと対談しながらの文楽解説。初日は吉田玉助さんがご出演。普段聞けないちょっとしたエピソードが楽しかったです。例えば、人形遣いという役割はかなりの肉体労働で、他の人形遣いさんの「ぜいぜいはぁはぁ」という息遣いが聞こえる時がある…とか。確かに人形遣いさんって凄い肉体派パフォーマーですよね…

そして、天神の森の公演。

主役のカップルの「徳兵衛」と「お初」。玉助さんは去年の大阪公演で徳兵衛を演じたご経験がありますが、吉田簑紫郎さんは、お初の主遣いの配役は初めて。SNSを見ていても簑紫郎さんはファンが多くて、簑紫郎さんのお初を楽しみにする声が多かったです。(私も楽しみにしてました)

インタビューを読むと、簑助師が遣うお初の左遣いを勘十郎師、足遣いを簑紫郎さんが担当されてた時代があり、その経験を活かして、今回の初役に挑む、とのこと。実際、二人の偉大な先人の芸を受け継ぎつつ、新しいお初が登場した、という感じ。この公演は「天神の森」の段の30分だけで初めてみる人にも感動を残すということで、心情がとても伝わりやすい演技をしていた印象です。(振付も普段とは異なるバージョン)それが、若い二人が心中に至る勢いや、背景のアニメーションとも相まって、普段の公演とは異なるドラマチックな印象に感じました。

↓こちらのインタビューお勧めです。


通常の文楽では、心中などの悲劇の後に「天国で幸せになりました」のような補足を全くつけずにあっさり終演します。それが無常感たっぷりで好きなのですが、今回は、中盤で出てくる「二人は女夫星」という言葉にちなんで、アニメーションの演出で少しだけハッピーエンドの香り付けがされてました。初心者や外国人など馴染みのない方には、終演時の収まりが良い方が後味が良いでしょうし、自分も想定外にウルッとしてしまいました。


背景アニメーションですが、勘十郎師がかなりこだわったということで、文楽人形を主役にして邪魔しないバランスをかなり意識されていた印象。一方で、人形が舞台にいない間のシーンで背景がダイナミックに動くのを三味線の音色を聴きながら味わう。それがとても素敵な時間でした。(初心者だとこういう間で眠くなってしまうので、その点でも素晴らしい)

↓こちらのインタビューにアニメーション舞台演出をされた山田晋平さんのこだわりも興味深いです。


千穐楽

演者さんの解説は藤太夫さん。いとうせいこうさんとの掛け合いも楽しく、高尚な舞台だと思って来た観客を良い意味で裏切る親しみやすさ。連れて行った友人も沸いてました。

そして、初日からさらに磨き込まれた徳兵衛とお初。玉助さんが操る徳兵衛は、感情の昂りや葛藤がさらに激しく演じられていてドラマチック。そしてお初が惚れるのも納得のいい男です。

文楽の芝居中には、要所要所で一枚絵のようにポーズを決めるシーン(短めのストップモーションのような)があり、躍動感とともに嘆き、悲哀などが表現されるのですが、徳兵衛がお初を刺そうとして刺せないところや、腰帯で二人がお互いを縛り付ける決めシーンが、とても美しく。玉助さんと簑紫郎さんの両者が拮抗する見せ場に、すっかり虜になりました。

ぜひお二人の配役で、曽根崎心中を全編見てみたいです。

最後に

国立劇場が閉場した後、関東では変則的な公演になっていますが、そういう時だからこそ実現した企画なのかもしれません。公演期間は一週間でしたが、事前にインタビューや動画メッセージなどがたくさん発信されてワクワクに拍車がかかり、公演中はSNSで初観劇の方の投稿を楽しく眺めました。

ちなみに簑紫郎さんがSNSでお初の人形の写真をたくさん投稿されていました。普段人間の手で操られている文楽人形ですが、芸術品としてのたたずまいもあり、動かない人形の美しさも堪能しました。


いくつかリンクを貼っておきます。



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