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ふたりでいっしょに近所のイオンに行く。ただそれだけのことに集約されたあらゆるなにか。

ある休日の朝、妻と長男は別の用事でお出かけ。
わたしはダウン症の次男とふたりで散歩がてら近所のイオンへ。

最近はぎこちないなりにもよく歩くようになり、あまり抱っこをせがまなくなった次男。

通常、片道5分弱の道程をふたりでじっくり。
道中いくつかある大小の公園それぞれの滑り台を制覇したり。
ご近所さんのお家のワンちゃんに「おーい」と声をかけたり。
小さな段差をぴょんと飛び降りたり。
町内会の掲示板の張り紙の絵や写真をじーっと眺めたり。
指の合図で「よーいどん」をして走ったり。
道行くバスを見て手を振ったり。
電線に居る鳥を見ながら話しかけてみたり。
横断歩道で手を挙げたり。
道の側溝のフタの隙間を寝そべってのぞき込んだり。
その隙間に枯葉を入れてみたり。
その辺の植木の葉っぱをなでてみたり。
2本の分かれ道の1本を通った後、もう一回戻ってもう1本の道を通ったり。
これらすべての行動をとても楽しそうに。

なんだかんだで30分ぐらいかけてイオンへ到着。

エレベーターのボタンを自分で押して、自分の行きたい階へ。
お気に入りは本屋さんのフロア。
エレベーターを降りるとたくさんの種類のパズルが飾られていて、毎回「トドゥオ!」とトトロのパズルが飾られているところへダッシュ。

しばらくそれを眺めて満足したのち、本屋さんの絵本コーナーへ。
たくさんの絵本を眺めて何かを話す次男。
何を言っているかは分からないが、にこにことご機嫌なのできっと楽しいのだろう。

次に向かうは同フロアに何機か置いてあるプライズ品を釣ったりするゲームコーナー。
機体のガラスケースの中の様々な景品のキャラクターをキラキラの眼で眺める次男。
残念ながらわたし自身がクレーンゲームとかは苦手なので獲ってあげる事もできない。
それでも楽しそうに景品を眺める。

いろんな場面で自分の好きなものがたくさんあるのだが、次男はいつも特になにも欲しがらない。
見て触って満足してくれる。
あまりモノに執着が無いのだろうか。
自分の好きなものが家には無くても、どこかこういう場所にあれば安心するのだろうか。

6歳の長男はいつも「アレも欲しいコレも欲しい。もっと欲しい。もっともっと欲しい。」と言う。
まぁ買わなくてもそんなに駄々をこねるわけではないが。

ひとしきり景品を眺めて満足した次男は、その片隅にあるアンパンマンのジュースの自販機のもとへダッシュ。

「パン!パン!」と興奮気味の次男。
だんだんと主張が激しくなり、のどが渇いたジェスチャー。
「そうやね。ジュースおいしそうやね。」とごまかすわたし。
買ってもらえなさそうな雰囲気に気づき、この世の終わりのような表情でその場にへたり込み駄々をこねる次男。
定番の光景。
次男はおもちゃとか本は特に欲しがらないが、自販機のジュースだけはメッチャ欲しがるのだ。

自販機で買うと1本100数十円。
階下の食品売り場で買うと3本で200円程。
どちらを買い与えるかは火を見るよりも明らかである。

「そしたら、イオンにパンのチュチュ(アンパンマンのジュース)買いにいこか。」
と声をかけると、むくりと起き上がりわたしの手を持ち、「早く」と言いたげに引っ張る。

嗚呼。なんて素直で無邪気で感情任せな生き物なんだろう。
愛さずにはいられない。いつもそんな気持ちにさせてくれる次男。

嬉しそうにエレベーターに乗り込み、食品売り場へ。
エレベーターが開くと同時にアンパンマンやポケモンなどのショッピングカートが次男の視界に。
「乗る!むふー!」と言わんばかりにダッシュ。
後で返却される100円玉をアンパンマンのカートに。
早速乗り込みプヒプヒ鳴るクラクションにご満悦の次男。

楽しそうな次男にアンパンマンジュース3本入りを渡す。
大事そうに抱えながらカートに乗ったままレジへ。
レジの係の人にきちんとそれを渡し、お会計済のシール貼ってもらい再び手元へ。
「これでこのジュースは自分のもの。」
と自分なりに理解している次男。
こぼれそうな笑顔でジュースを見つめる。

そしてカートを返却し帰路へ。

家に着くまでの間、小さな片手にはアンパンマンのジュース。
もう片方の手はわたしの手。
とても嬉しそうな顔をしている次男。
その手はとても温かく柔らかい。

イオンに行って帰ってくるだけで2時間ほど。
リビングのテーブルの椅子にちょこんと座りさっき買ったジュースをとても美味しそうに飲む次男。
パッケージのイラストを見ながら嬉しそうに何かを言っているが、何を言っているかは分からない。
分かるのは彼が今、とても楽しく美味しく、幸せを感じているであろうことだけだ。

そのままお昼ご飯をいっしょに食べる。
米が大好きで良く食べる次男。
とびきりの笑顔で不器用にスプーンでご飯を食べる。
そのうちだんだんと眠くなったようで、首が前後にカクンカクン。
しまいにはテーブルに突っ伏して寝てしまった。
その寝顔の安らかなこと。
ご飯でベタベタの服を脱がし、手と顔を拭き、抱き上げて布団へ。
とても心地の良い温くて優しい体温。
気持ちよさそうに眠る次男。
とても幸せそうに見える。

次男にとっての幸せとは何か。
心の中までは見えないので100%は分からないが、彼が笑顔でいる時はきっと幸せなのだろう。
そしてその笑顔はいつも小さなことで形成される。
ホントに些細で小さなこと。

わたしが仕事から帰ってくる。
いっしょにお風呂に入る。
ご飯を食べる。
お兄ちゃんと遊ぶ。
お母さんにひっつく。
テレビを見る。
音楽を聴く。
寝る前に絵本を読む。

数えればきりがないほどの日常的なあらゆる小さななにかに幸せを感じてくれている?のだ。
きっと。たぶん。

そうして感じた幸せを、笑顔に変換してわたしたちにも分けてくれている。

こちらからの言葉の多くは通じても次男からの言葉は分かってあげられないことが多い。それでも彼は心が通じていると思ってくれているような気がする。

なんのハプニングも起きない「凪」のような半日。

こうして次男と過ごすなんてことない時間にはなにものにもかえがたいなにかがたくさん詰まっている。

どこかに旅行に行ったり、特別なことをしに出掛けたり。
もちろんそれもとても楽しいのだが、わたしはダウン症の次男と過ごすこういう時間がとても好きだ。






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