見出し画像

「無断投稿に反論する」その正義はだれのため

例えば誰かが誹謗中傷されたとして、それが自分の知らない他人だったとしても、その人を庇いたいと思うことがある。

わたしの息子に発達障害があるからか、同じ障害を持つ人やその親が侮辱されているのをみると、憤懣やるかたない思いがする。そういった状況は身の回りだけでなく、これまでSNSを通して何度も目にする機会があった。人は同じ立場や同じ環境におかれた人に対し、無意識に自分を投影する心理があるのだそうで、わたしにも身に覚えがある。

今日び、モバイル社会研究所の調査・研究によればスマホ普及率は96.3%となるそうで、スマホ保有率の高さをうかがわせる。

これだけの多くの人が常に携帯するスマホによって、いつでも簡単に写真や動画を撮れるようになった。それは自分の楽しみのためや、思い出を残すためにとても便利な物なのだけど、それを誹謗中傷に使う人間がいるとき大抵相手の許可など取らずサッと世界中に発信してしまう。

そうやって、その人間が許可なく誰かの写真や動画を撮って投稿する時に、その過失よりも、そこに載せられた否定的な言葉の方に反応して意見を持つことがある。他人であるのに赤の他人ではないような、それは投影された自分なのかもしれないし正義感かもしれない。一方的に汚辱されたその投稿に、同じく苦しんだ自分の経験が重なっていくとき、そこにあるのは他人を介した自分への否定にも似ているのなら本当にまったく心憂い。守らなければ。あの日の自分の思いを、その人の思いを、それら全てを。

そこに当人の思いは、あるのか。

擁護されることを、本人が望んでいるかどうかは分からない。頼んでもいない写真や動画の被写体に、望まずとも選ばれてしまった当人達はどんな感情を抱くのか。勝手に渦中の人にさせられて、批判も擁護も同情も浴びてどんな思いを持つのだろう。意図せずに、了承などしていない自分がそこに映し出されるとき、被害者はどういった気持ちでそれを見るのだろう。

もしわたしだったらと考える、耐えられない。

自分がそこに映っていたらと思うだけで、背筋が凍る。

結局は擁護も同情も共感も、他人の、第三者の視点でしかないのだと思う。当事者を想い良かれと思って反論する人達と、それを静観するしかない本人達。 味方のように見えるけど、それは、どうなんだろう。拡散したことでその人を傷つける一人になっていたのなら、それはとても皮肉で、とても悲しいことだと思う。

無断で画像や動画を投稿し、それが肖像権侵害や名誉棄損、プライバシー権侵害等の罪に値する場合には損害賠償責任が発生するけれど、実際はそれだけじゃない。他人には一つの出来事であっても、本人にとってはそうじゃない。被害を受けた人達は、その後何年もその記憶に苦しむかもしれないし、また同じ目に遭うことを恐れ、外に出ることを躊躇する足枷になるのかもしれない。形にできる罪だけが罪だとは限らない。

そこに感情をいれることも、自分の気持ちを感じることも勿論自由。だれに邪魔されることもない。けれどそれを多くの人が触れるところで発信するとき、それが間違った形で正義を問うことになったりもする。自分が当事者じゃないときに、論点をすり替えて話してしまう愚かさがあるのなら、悔い改めなくてはならないと思う。相手の気持ちがどこにあるのか分からなくても、こちら側の正義でその人の傷口に塩を塗ることがないようにしたい。自戒を込めて。

今日もまた新たに動画が投稿され、いつもと同じように拡散が始まりました。既に拡散は1000回を超え、今もなお拡散され続けています。問題の動画を見た複数の人達がコメントを加えて投稿し、それが再び拡散されているため、一体どこまで拡がっているのか把握する術もありません。障害のある子がパニックを起こし、大きな声を出して騒いでいるようです。動画のコメントには「こいつマジうるせえよ」と辛辣な文字が並んでいます。それに対抗するように、「自分の子もそうだった、わかる、問題は生きづらい社会の方だ」別の誰かが暴言に対して批判のコメントをつけています。そうやって数えきれない程の人達が引用投稿したその動画は、SNS上に溢れていきました。
わたしの子にもそういうところがあるから分かるよ。きっとね、いつもとは違う何かがあって不安になったんだと思う。その子のつらさを理解してあげないなんて酷い、かわいそう、自分が責められているようで見ていてつらい、分かってほしい、味方になってあげたい。そうだわたしも投稿しよう。社会が障害児者のことを知る、とてもいい機会になる。こういったことが社会の理解に繋がっていくんだろう、違いを認め合わなければいけない世の中で、こんなことがあってはならない。わたしだってこのまま黙ってなんかいられない。
そうしてその強い思いから、その動画をしっかり見ようとあなたはスマホを覗きました。どんな言葉で自分の気持ちを発信しようかと思考を巡らせ画面に注目した次の瞬間、あなたの顔はみるみる青ざめ言葉を失っていきました。

そこに映っていたのは、あなたの子供でした。



スキしてもらえると嬉しくてスキップする人です。サポートしてもいいかなと思ってくれたら有頂天になります。励みになります。ありがとうございます!