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悲劇のヒロインには、あまりに俗っぽい

扉をバタンと力任せに閉めようとして、扉には何の罪もないと思い直し、就活で面接室の扉をそうするように、丁重に扉を閉めた。

ベッドに淵に腰掛け、そのまま後ろに倒れ込んでしまおうと思ったが、生理中なのを思い出して止めた。
血がお尻の側から漏れ出すとシーツの洗濯が大変だ。
こんなに突っ伏して泣きたい気分でも洗濯のことを考えている自分に失笑した。
女の身体というのはなんと不便なものだろうか。

ティッシュで目元を押さえると、ブラウンのキラキラしたアイシャドウが少し付いた。
ああ、もう。
今日のメイクは上手にできたと思ったのに。
私は諦めてティッシュを3枚ほど取って顔全体をぐしゃぐしゃと拭いた。
きっと今の顔を1歳になる姪っ子に見せたら号泣するだろうと想像する。

車、という、あの閉鎖的な空間は、いつでも酸素不足になる。
今日も私はその中で、チクチクとした言葉の攻撃を受けながら、受け流すこともできず、まるでゲームで状態異常になって少しずつHPが削られていくかのように、酸欠になった。

帰ってきて、別れ際に既にこぼれ始めていた涙を俯いて隠しながら、今日はありがとう、と絞り出して家に入った。

私が泣いたのはきっとバレていて、きっと今頃、どうしたんだろうね~、とか、でもあの子ってちょっと何考えてるかわかんないとこあるよね、とか言われているんだろうと思うと、悔しくなってきた。

悔しくなって、おなかがすいてきた。

いっそ、このまま餓死してしまおうか、なんて。そうだ、そうしよう。食べてやるもんか。

空腹を紛らわすように壁にもたれかかって眠り、起きると時計は22時過ぎを指していた。

お腹が限界を訴えるように鳴った。
口では、死んじゃいたい、とか軽々しく口にして、身体は誰よりも生きたがっている。
そして、わたしも本当は生きたがっている。

冷蔵庫を開けると、頂き物のちょっと良いプリンがひとつ残っていた。
思わず、おっ、と喜びの声を上げてしまう。

こういうとき、私は、自分がひどく人間らしい人間であると思う。
悲劇のヒロインには、あまりに俗っぽい。
なりきれない私は、キッチンに立ったままプリンを頬張る。

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