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新建材vs自然素材の議論終わらせます

先に結論。

  • 安全面で新建材と自然素材は大差無い

  • 生涯コストは自然素材が有利と言われるがそうでもない。むしろイニシャルが高い自然素材が不利

  • 除湿器レベルの調質効果は自然素材に無いから利点と呼べるほどではない

  • 「来客が新建材を見ても偽物と気づかないから安くていい」というのは誰のために家を建てるのか考えてもいいのでは

  • 予算に無理が無い中で好きな方を選べばよく、どちらもメリットとデメリットがあるから自然素材/新建材を使うべきという主張に意味はない。要所要所で適した手段は異なり、全ての箇所を自然素材/新建材にするよりも使い分けた方が快適でいい空間ができる

※本記事の自然素材には本物素材も含みます(レンガとか。レンガ調の壁紙と本物のレンガを区別したいが、便宜上自然素材で統一)


自然素材派がよくする主張

新建材は健康に悪い

これは大嘘

かつてホルムアルデヒドが含まれるクロスやアスベストなど健康被害が起きる建材が住宅に使用されていたが、今は使用されなくなっている。壁紙だとフォースターが基本。

ホルムアルデヒドの話をするなら今は家具でしょう。あまり話してる人いないけど、当然家具からもホルムアルデヒドって出ますからね。

ムク材やF☆☆☆☆を使用した場合でも、24時間換気しなくてはならないのはなぜなのか。
ムク材やF☆☆☆☆などホルムアルデヒドの発散量が見込まれないまたは少ない建材の場合でも、居住者が持ち込んだ家具等からの発散が想定されるため、居室内のホルムアルデヒドの濃度が指針値を超えないように、原則として居室を有する全ての建築物に機械換気装置の設置が義務付けられました。
なおホルムアルデヒド以外の化学物質については、今回の改正では使用制限がなされていないが、換気によりホルムアルデヒド以外の化学物質の濃度も下がるものと考えられます。また換気設備を稼動することにより、CO2の低減やカビ・ダニの増殖防止、結露対策にもなります。

https://onl.sc/t4UqzhR

VOCが少しでも含まれている日用品
・カーペット、衣類のドライクリーニング剤など
・洗剤、クリーナー類(漂白剤、カビ取り剤、ワックス、ガラスクリーナーなど)
・殺虫剤(防蟻剤、家庭用殺虫剤、防虫剤など)
・美用品(化粧品、香水、除光液、染毛剤など)
これらは、生活する上で必要なもので、これら無しでの生活は難しいです。ただ選択の仕方で、摂取する化学物質は変えられると思います。

https://www.murauchi.net/culture/tend/he_chemical_3.html

新建材否定派の人ってダイニングテーブルもソファも収納も全て接着剤が無い無垢を使ってるんだろうか。カーペットなし、スーツをクリーニングには出さない、殺虫剤を室内で使わない、化粧品を使わないのだろうか。

壁紙の話で、クロス自体はフォースターでも接着剤にホルムアルデヒドが含まれるじゃないかという意見もある。

それはそうだとして、あなたの無垢床には接着剤使ってないんですか?と問いたい。

無垢床だとしても接着剤使うのが一般的。ごくまれに接着剤使わない人もいるが、床鳴りなど不具合の原因になるのでこれは推奨されない。

床にも接着剤使わない人が言うならまだ分かるが、そこまでやってないのに壁を指摘するのは滑稽だと思う。

床に限らず、接着材が入っていない商品だけを選んで生活ができるのだろうか。木と釘だけでできた商品で暮らせるのだろうか。

こういう自分が徹底できないことをクロスのことのように一部だけ切り取って不安を煽るのはどうかと思う。

ちなみに重度の化学物質過敏症やシックハウス症候群の人だとしても自然素材が向いているのかは疑問。

例えば後者なら毎日寝具を洗うとかラグは一切使わないといったことになると思う。掃除がしづらい無垢床は向いてない。

持病がある人だとしても解決手段は自然素材ではなく他の方法だと思う。それこそ気密や換気が重要になってくる。自然素材が多い家に住めば健康が手に入れられるという情報は間違いだと思う。飲めば痩せるという怪しいサプリと同じではないか。

新建材はメンテナンスコストが高いから、イニシャルが高い自然素材は生涯コストで有利

これも大嘘

この手の例として「シートフローリングは10年で張り替えないといけないが、無垢板は30年(もしくは一生)持つ」「クロスは10年で寿命が来るけど、塗り壁は一生持つ」というのがよく挙げられる。

ハッキリ言って、建築や生活に対する解像度が素人以下の意見だと思う。

論点はメーカー推奨の寿命ではなく、ユーザーがどのぐらいの頻度で大型補修をするのかではないだろうか。

内装の中でも床材のメンテはお金も労力も大変なものになる。

無垢にしてもシートにしても張替えをするなら家具を全て出さないといけないし、住みながら張り替えることはできないので仮住まいも必要なレベル。

シートフローリングの家で10年単位でそんなことをしている家庭が存在するのだろうか?

統計を取ったわけではないが、少なくとも私の実家(築25年ほど)ではシートフローリングにクロスだが一度も交換したことがないと聞いている。

帰省すると明らかに昔から使われている壁紙とフローリングのまま。

これが現実ではないのだろうか。

シートにしても無垢にしてもメンテしない人は一生しないと思う。

これは内装に限った話じゃないが、住んでから明確な不具合が出ない限りメンテにお金や時間をかける人なんてほとんどいない。

住宅街を歩けば外壁が黒ずんでいる家をたくさん見つけられるはず。

そんなものなのだ。

欧州、アメリカでは家の手入れを個人が行うことが一般的だがそういう習慣が無いのが日本。

日本人の行動や心理を無視した状態で机上のメンテ期間を比較したところで何の意味もない。

調質効果がある

調質効果があるのは事実。

ただそれが居住快適性を向上させるかというと非常に疑問。

例えば、F式のエアコン1台で全館除湿できるのが13g/hの新建材の家があったとして、床壁全てを自然素材で使用すると12g/hや11g/hにできるというならすごいと思う。

でもそんなことは無い。

なぜなら水分を吸放出するのはどちらも室内だからである。

自然素材(エコカラットも)も湿気を吸う臨界点はあるわけでそれ以上は吸うことはできない。

6~9月の高湿度シーズン中に室内外が乾燥しきった時期があるなら別だが、そうではない。

毎日高湿度なのだから、吸ったが最後吸い続けることはできない。

それができるなら除湿器はいらなくなる。

他の例を出すと3種換気は夏季の除湿に不利だが、3種にしても家中が自然素材なら1種と同等の湿度環境に保てるというならとても価値がある。でもそんなことはないよね。

だから、私は自然素材やエコカラットの調質効果について「気休め」という認識を持っている。

自然素材における調質効果は複雑で、部屋を暖めると湿度を放出する(湿度が上がる)という特性もあるため扱いが難しい。F式で湿度をシステマチックに管理したいなら自然素材は向いてないと思う。

もちろん自然素材にしかない匂いや言葉にできない空気感というものはあると思うし、意匠的に新建材には無い良さはある。

そういう体感で選ぶべきなのが自然素材といえる。

昔の家は土壁もあるので呼吸するというのは正しい表現だが、石膏ボードや透湿防水シートで外部と遮断された現在の家では屋外と室内の空気の行き来は壁で行われない。それが換気によって行われている。

新建材派がよくする主張

自然素材は傷が目立つ

無垢床否定派でよく言う意見である。

これはどっちもどっちだと思う。

シートフローリングは傷がついたら最後、シートの下は合板だから見た目が劣化していく一方。入居時が一番綺麗で、その後はだんだん見栄えが悪くなるというもの。

無垢床も劣化はするが、傷についてはやすれば新品の木が下に控えているので綺麗な状態は保ちやすい。

どちらも劣化するが、どちらかといえば手間をかければ綺麗な状態を保ちやすいのは無垢だと思う。

偽物を使っても来客は気づかない

木のようなプリントがされた家具、○○調壁紙というのが溢れている。建具もパナやリクシルはシートを使った商品が多い。

友人や家族を招いて、シートの建具かどうかは気づかないだろう。

そういう人に問いたい。

「誰のために家を建てますか?」

多くは自分と住む家族が快適に楽しい生活を送るために建てるはず。

来客は二の次三の次ではないだろうか。

もちろん、来客を呼ぶのも家の使い方の一つなので、そのためにアイランドキッチンやウッドデッキを作るという人もいる。

そのような機能的なものや人を招けるスペースとは異なるが、偽物を使うかどうかが来客目線になっているのは不思議だと思う。

自分がショールームで新建材しか見てない人なら分かるのだが、自然素材でできた床や壁、建具を見たときに「新建材と変わらないな」と思う人はいないはず。

ショールームやモデルハウスを見たからこそ、自分が一番本物と偽物の違いを分かってると思う。

名古屋モザイクや平田タイルでブリックタイルを見て、リリカラのレンガ風壁紙を見てしまったらその違いは歴然。

来客のことを優先して内装を決めるなら構わないが、毎日住むことになる自分が気にならないか、心地いいと思えるのかで選ばなくていいのだろうか。

全てを自然素材や高いものを使うことはできないとして、妥協できないところに偽物を使うと後悔が大きいと思う。

特に床のような張替えが実質不可能な一生ものの場所を妥協して後悔するようなことにはなりたくない。(とはいえ床材のことで後悔している人もいると思いますが、その結果を否定するものではないです。あくまでこれから家を建てる人に向けてのもので建った家にどうこう言うものではありません)

エアコン見える見えない議論でもこの話は出てくる。

「エアコンの位置を来客に指摘されたことなんてないから気にすることじゃない」という話だが、エアコンを目立たない位置にしようとする人は来客のためというより自分が気になるから配置を考えている。

この辺も設計思想が違うから話が噛み合ってないように見える。

両者の整理

自然素材

  • 見た目/意匠性:基本的には新建材を圧倒的に凌駕。ただし、全ての箇所を新建材で縛ると意匠的な制限が大きいため、新建材の方が適した場所では使い分けをした方がいい(新建材ほど色や質感のレパートリーが無い)

  • 質感:見た目にも含まれるが、床の場合は触れるため大きな差が出る。無垢床に対して挽板やシートフローリングが質感で勝ることは無い

  • 温かさ:床の話で上記同様。無垢の中でも針葉樹が暖かく、広葉樹は冷たいため自然素材の中でも差はある

  • 価格:イニシャルが高く、ランニングは新建材に勝ることもないのでイニシャルと生涯コストともに高くなる

  • メンテ性:木の場合は削るなどして傷を補修することが可能。水に弱く、拭かないとシミになるのが難点。木は収縮による床鳴りや隙間が生じてゴミが入るということが起きる

  • 採用の難易度:無視されがち。HMで無垢床採用は会社が限られるし、塗り壁に至っては工務店すら対応できない会社が多い。やれるとしても標準じゃなければ100万は優に超える増額になる。人によっては建てたい会社では採用できない商材であることを認識したい

  • その他:子供の教育的観点がある。五感を刺激することは発育にいいとされているし、科学的な話を抜きにしても本物素材に触れて育った子供とそうではない子では感性や審美眼に差が出ると思う(かなり個人の意見。かつ家の中の話に限ったものではないが。例えば本物のカニを食べる機会を与えず、カニカマを食べさせ続けて本物のカニを知らないまま育つようなものと捉えている。かくいう私もカニカマは好きだけどカニを知った上でカニカマは食べたいよねという話)

新建材

  • 見た目/意匠性:新建材も進化しており安いものは偽物感満載だが、本物とそん色ないものや、自然素材にはない良さを持った商品も多数存在する。低品質の商品と自然素材を比べれば当然自然素材がいいが、高品質な新建材は必ずしもそうではない

  • 質感:触れる箇所である床については無垢に勝るものは無い。壁や天井は自然素材とそん色ないものも多数

  • 温かさ:自然素材に負ける

  • 価格:イニシャルが安い(1万円/㎡を超えるものはほとんどなく、5000円/㎡以下でも商品が多数ある)。ランニングも使用状況によって10年でダメになるというものでもないので生涯コストでも自然素材より明らかに有利

  • メンテ性:傷がついたら増える一方ではあるが、簡易的なリペアをする商品もある。DIYレベルで済む傷なら自然素材に大きく劣るということもない。収縮のようなことは起きないため使用上の不安は少ない

あなたに向いているのは自然素材?新建材?

両者へのネガに対して反論をしたので「じゃあどう選べばいいの?」となっていると思う。

場所にもよるが以下のような観点で考えてみてほしい。

  • 壁や天井とは違い触れる場所ということを第一に考えたい。面積が大きい分コストを大きく左右するが、予算配分でもトップ3には入る重要箇所だと思う

  • 触れること、その際の質感や温かみを最優先事項とすると最低でも挽板の上位商品(朝日ウッドテックではなくマルホン)か無垢板にしたい

  • 無垢なら広葉樹ではなく針葉樹。特にスギやヒノキなど針葉樹でも柔らかい木だと足元の冷たさを軽減できる

  • アカシアやチークはかっこいいが、スギやヒノキの質感を保ったままオイル塗装することもできる。毎日踏む場所なので、見た目よりも質感で選んだ方が長期的な満足感は高いと個人的には考える

  • もちろん、スリッパや靴下履いてでも床鳴りや隙間が生じたり、水汚れが気になる人は他の素材でもOK

壁・天井

  • 床のように触れる場所ではないので、見た目だけで選べばいい

  • 新建材は絶対使いたくないという特異な人を除けば、家全体を自然素材で固めると予算のバランスが悪くなる(他で使えたはずの予算が減る)ため使い分けをするのが現実的

  • 例えば主要部であるLDKにはいいものを使用して(自然素材に限らず、新建材でもハイエンドなもの)、トイレや脱衣所、寝室には標準品から選べばよい

  • 私の家では玄関からLDKが珪藻土。LDKに犬のトイレスペースがあるがトイレ時の臭いの広がりが明らかに減っている(賃貸比)。これは体感できるレベルなのでペットを飼っている人は、ペットがいる空間で珪藻土はお勧めできる。ちなみにエコカラットを部分的に張った程度では効果は感じられないので壁全面に使う必要がある

建具

  • 壁・天井よりも優先順位は低い。床は当然として、次に壁や天井を満足いくものを使うべき(面積が広いため視覚的印象を左右する)

  • 賃貸や建売ではシートの建具しかないので見慣れてはいるが、木でできた建具をショールームで見ればその差が歴然であることは分かるはず。賃貸とおしゃれなカフェぐらいの差がある

  • 自然素材の建具は高い傾向だが、海外製だと安いものもある

  • 一方、水回りに木のドアは適していない。床同様に収縮するため湿気で立て付けが悪くなる(開かない、閉まらない)可能性がある。F式と併用すればリスクは減らせると思うが、水回りには新建材のドアが適していることは間違いない

  • またメーカー品(パナ、リクシル)は機能的に優れている。ソフトクローズが選べるようになっているが、メーカー品ではないおしゃれな建具はついていないものがある。また費用体系も分かりづらいため採用の苦労はある

  • 全てを自然素材にすると高いし、収縮の恐れもあるため使い分けをしたい。メーカー品以外も選ぶのは大変だが、ここまで床、壁、天井に加えて建具もこだわれば間違いなくいい空間になる

具体的な床、天井、壁のおすすめ商品は下記記事で紹介している。

建具は追い追い紹介します。

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