注文住宅での会社選び ~○○基準ってどうなの?
会社選びの罠
会社選びという間違い
いきなりぶった切るが、会社選びという考えは最終的なゴールではない。
何を言っているかというと、家は会社に立ててもらうのではなく自分を担当してもらう営業、設計、大工に建ててもらうもの。会社ではなく人に建ててもらうのが家ということ。
工場で完成された自動車を購入するのと全く違うことをよく理解してほしい。
自動車はディーラーによって担当者の質の差はあれ、アルファードをどこで買っても同じアルファードが手に入る。作っている人(工場)が同じだからだ。(補足すると大手はプレカットはじめ工場で作られたものをプラモデルのように組み立てて工期の短縮、ミスの低減、コストカットを行うがそれでも現場で行う作業はあるので車とは大きく異なる)
でも家は積水ハウスといっても、建てるエリアや担当によってもクオリティに差がある。これは全国展開している会社ほど顕著になる。
会社としていい悪いはあるものの、それと同じぐらい担当が大切。これが酷い場合最悪な家づくりになることは確定する。
なので会社規模が大きいところに依頼しようとするなら会社選びではなく、担当者選びをすること。(小さな工務店でも人で選ぶべきだが、工務店は代表や設計士が打ち合わせに出てくるので事前にネットで調べられるし、設計とも契約前に会うことができる。大手は会社の看板を背負った色んな人いるため会うまで分からない)
工務店やビルダーでも設計士が一人というわけではないなら、施行事例や見学をした際に「こんな家に住みたい!」と思った家を作った人を指名すること。(同様に大工も施工中の家を見て腕の良さを判断できるなら指名すると尚よい。当然大手ではこの方法は不可)
気をつける点として、知っている人も多いと思うが大手の場合はモデルハウスを見学した際にアンケートに回答するとその日に担当した人が契約した後も担当になることが多い。
つまり、モデルハウスへの見学は担当選びも兼ねており、気軽に回答をしてしまうといざ契約仕様となったときに力不足な人に依頼する可能性が出てくる。
自分が重要視すること、例えば「大手でも気密を重視したい」というならそれに応えてくれるかは確認したうえでアンケートには答えたい。
また、リアルの知り合いやインスタのキラキラ投稿を見て「私も○○会社で建てたい」となっても踏みとどまってほしい。
これが年20棟以下の工務店なら同じクオリティの家はできるが、大手ならまず無理。
いい家を作ったチームに担当してもらえるなら再現性はあるが、会社の看板が同じだけで違う営業、設計、大工になるなら再現性は無い。これは少し考えれば分かるはず。
そのため、優秀な担当者を紹介してもらうことまで行えばいいのだが、施工エリアが被ってないとそれも不可能なので難しい。
会社名だけで同じ家は建たないということも覚えておこう。
業者が作ったリストを信じるな
新住協、構造塾業者マップ、松尾氏の技術指導工務店リスト、せやま基準、パッシブハウスジャパンなど、業界団体やインフルエンサーが作ったリストというものが存在する。
「このリストに載っていれば安心だ。いい会社だ」と思うのは大間違い。
リストの掲載元は各社の仕様に責任を持ってないし、実際にHP掲載しているスペックを出しているかを確認していないし、顧客トラブルをしたから除名とかもしない。要は何があっても責任を取らないので、自己責任で使ってねということ。
構造塾の業者マップの場合、審査なしで性善説で運用されている。ポジショントークがはびこる住宅業界での性善説は消費者にとってマイナスでしかない。Twitterで補足するのではなく、リストが載っているページで「審査はなく自己申告制だから各社の仕様が合っているかはお客様の方で確認ください」ぐらい書けないのだろうか。
他では、みんな大好き新住協だが構造塾とは異なりお金を払えばだれでも参加できる。
あくまでノウハウを共有する研修サービスのようなもので、加盟していれば優れた会社というわけではない。
マスター会員はレベルが高そうだが、賛助会員や正会員はレベルが高いわけではないと思う。またマスター会員もあくまで技術だけに長けた会社であり、家づくりトータルで優れているか、依頼して気持ちいい家づくりができるかは別。
ある意味お金と時間を使ってでも性能を向上させようとする会社なので、学習意欲の点では評価できるが自分の契約時にいい家を提供できるかは関係ないので別途自分で選別が必要となる。
実際トラブルも起きている。
新住協のマスター会員に詐欺のような請求をされた人。
価格が高くなっている傾向もあるよう。
○○基準の問題
以下は松尾設計室がHPに掲載している住宅会社の選別リスト。最近作ったのではなく、何年も前から掲載しているはず。
実をいうと会社探しの初期に私もこの基準が重要だと思い、この項目をExcelにプロット、気になった会社が条件を満たしているかを逐一判定していた。
その時に起きた問題が、必須項目すら全て埋まる会社が少ないこと、推奨項目も埋まらない会社が多いこと。
温熱で日本トップクラスの松尾さんが作った必須項目を満たすか会社が少ないことに驚き、どうすればいいのかうろたえた。
しかし、今思うとこれは松尾設計室の術中にはまっていただけということが分かる。
先の表を簡単に言い表すと、松尾設計室ができること、他社との差別化ができていることなのだ。
要は(松尾設計室が考える)当たり前の基準を掲げているが、実はそれをできる会社は少ないので松尾設計室は優れているよねという営業ツールに他ならない。
そのことを家づくりの初期に分かるはずもなく、YouTubeでお世話になった松尾さんはやはり信頼してしまうので基準も丸飲みしていたが、それが(私にとっては)誤りであることが分かったのはもう少し後。
具体的に先のリストの問題点を挙げる。
UA値046以下:標準仕様の断熱性能を指しているが、標準がZEHの会社だろうと窓が少なければG1、G2になることはある。単に坪単価の違い(標準の断熱性能が高い会社は坪単価が高く、性能が低い会社は安い)なので標準がいくつかは意味がない。標準の断熱性能が低い会社も窓を樹脂ペアやトリプル、窓を減らす、断熱材の量を増やすということを要望すれば簡単にG2になる(私の家がそう)
完璧な日射遮蔽ができているか:できる会社が少ない。私が見る限りスーパー工務店しかできなく、HMはもちろんビルダー、工務店は対応できていない。とはいえ軒が90㎝などある程度出ているのが標準ならそれなりに日射はカットできるので、非常に分かりづらい基準だと思う。単に軒が長ければいいのか、落葉樹を用いた自然の日射遮蔽・取得までできないといけないのか話を聞きに行っても何をもって完璧とするのか定義が無い
家全体の冷暖房計画:できる会社が極めて少ない。実現しようとすると高額な全館空調システムの利用が前提になる会社が多い。F式が存在する以上、企業に求める必要が無いはずだが、松尾設計室の強みである小屋裏エアコンや床下エアコンと競合するためF式には触れていない点はずるいと思う(2023年に松尾式小屋裏エアコンver.2.0が発表されたが、1.0との違いとして除湿効果の向上を謡っていた。エアコンによる除湿に着目しているのでF式を知らないはずがない)
会社探しをして一番違和感を感じたのが冷暖房計画。松尾設計室のように冷暖房負荷を計算し、冷暖房計画を作ってくれる会社は1割どころか1%にも満たない。
では99%の会社を切るべきなのかというとそうではないだろう。つまり99%の会社を切ろう、という話になっている点が問題だと思う。(後半に冷暖房計画をカバーする情報を発信する施主を紹介するので何も問題ない)
批判だけをしたいわけではないので、共感できる点も挙げる。
耐震等級3:耐震等級3を取ることは難しくなく、間取りにも影響しないのでこれができない、できるけどコストアップになるという会社は相当まずい。許容応力度計算ではなく、壁量計算でOK
C値1.0以下:先のリスト関係なく、会社選定では最重要項目。これが達成できない会社で建てる意味はない。気密がなぜ重要かは1つの記事になるので本記事では割愛
プラン作成は2級建築士以上か:意外とこれは他の人が触れない部分だが、大手は営業マンが間取りを作ることが多い。言うまでもなく、無資格者の営業と建築士との間には埋められない力の差がある。一番重要なのはファーストプランだが、それを営業が作るというのは土地のポテンシャルを発揮できない。営業が作る場合は一級建築士事務所の間取りチェックサービスや間取り提案サービスを利用するべきだと思う(一部、HMに売れっ子営業マンがいるが、住まい方まで提案できる人に限ってはアリ。住宅展示場にいるのは売れてない営業マンである可能性が高く有資格者とは比較にならない)
屋根・建物形状に凹凸が少ない:凹凸は耐震性低下や雨漏りリスク増、冷暖房コスト増、建築コスト増に繋がる。五角形など不規則な土地に対して意味があるアプローチをしている凹凸は問題ないが、デザイン重視の凹凸(特に変わった屋根)をやる会社は絶対に避けたい。住み始めはいいが、住んだ後にかかる手間やランニングコストを考えていない
松尾氏は品確法耐震等級3を指していると思うが、耐震で飯を食っている業者は「許容応力度計算による耐震等級3は必須」と発言している。
これは耐震の商品を売りたいだけのポジショントークなので聞き入れない方がいい。
なぜポジショントークかというと、例えば熊本や新潟などの大地震で品確法耐震等級3の家は倒壊し、許容応力度計算の耐震等級3の家は無傷だった、というデータが無いから。
おかしいと思わないだろうか?大地震で許容応力度計算の優位性が証明されてないのになぜ必須なのか。
説明に無理があることに気づいていないのか、分かっていて気づかれないと思って滅茶苦茶な論理を展開しているのかは分からない。
今後信頼に値するデータを提示してくれるなら検討の余地はあるが、この記事を書いた2023年8月時点で許容応力度計算は必須ではないということははっきり書いておきたい。
このように○○基準も全てが問題ではないが、鵜呑みにすると迷宮入りすることになる。
こういうものは参考程度にして、自分の中で重要な基準を作るほかない。基準は自分の中にしかない。
実務者が作った基準は営業ツール、絶対に○○・○○は必須という文言は罠。忘れないようにしたい。
営業マンの常とう手段
「うちならやりたいこと、使いたいものはなんでもできます」と営業マンから聞いた人は多くないだろうか。
これは嘘である。
このミスマッチを防ぐためには契約前に自分が絶対にやりたいことを明確にしておく必要がある。
それができるのか、やるならいくらになるのか契約前の見積もりに必ず盛り込んでもらおう。
偏った施主の情報
ここまでは企業、実務者の情報が中心だったが施主による情報にも気を付けたい。
以下が偏った意見とその問題点。
高断熱住宅は元が取れる:建築コストが高騰してから高断熱住宅を建てた人がこの発言をしていることはほぼ見ない。大抵は3年以上前に契約して高断熱住宅を建てている人。同じ家を建てても3年前と今ではコストが数百万は違う。そもそも初期費用が大きく違う商品なのにランニングだけを比較する意味はない
高断熱住宅でヒートショックが防げる:交通事故の4倍ヒートショックで亡くなっているというが真っ赤な嘘。そんなデータは存在しない(ソースを当たれば分かるが、風呂での溺死などヒートショックと関係ないものも含めて換算している)。ヒートショックを真面目に調べると風呂の温度以外でも危険なことがたくさんあるのだが、企業が発信する情報を鵜呑みにして同じように拡散してしまっている
1種換気は元が取れる:換気で元が取れるとは限らないし、そもそも電気代の削減効果で採用を決めるものではない。湿度コントロールや負圧対策、掃除の手間を天秤にかけて考えるもの。初期費用が高いのにライフサイクルコストを比較せず、ランニングだけ比較する酷い意見
許容応力度計算(構造計算)による耐震等級3は必須:一番距離を置いた方がいいタイプ。この発言をする人は設計上の数値しか考えてなく、施工を理解していない。例えば基礎の施工では配筋のかぶり厚、上棟後は筋交いの節の程度が重要になるが、許容応力度計算推しの人がちゃんとかぶりや筋交いの節を確認したという投稿を見たことがない(ちなみに私は比較法等級3だが、かぶりやスリーブ、筋交いなど各所をちゃんと確認している)。つまり設計上の数値で満足してその数値が発揮されているかは関心が無いわけで、完全に実務者が発信する許容応力度計算さえすればOKという営業トークに丸め込まれている
大手HMは有名だから安心:大手でもたくさんの訴訟を抱えている。高品質で有名な一条も東日本大震災で倒壊した家もある。一方、建つまで潰れる可能性が低いという点はメリット。ただ建ってから会社が残っているかどうかは全く重要ではなく、施工不良が無いかが重要。まともな家を建ててくれていたらその後はどの会社に依頼しても修繕できるが、例えば先のようなかぶり厚が取れてない家を建てられたら修繕不可能なので施工品質が重要
大手はブランドだけで性能が低くて高いだけ。情弱しか依頼しない:大手が平均的に性能が低いことは事実。工務店・ビルダーが手掛ける高断熱住宅を大手でやろうとすると建築コストは相当高くなる。気密についてはお金の問題ではなく対応を拒否される可能性もある。一方、大手らしい佇まいや空間というのもあるためそれが好きな人は依頼すればいいと思う。どちらが優れているかではなく、自分は何が好きか。電気代がかかってもログハウスに住みたい人は住めばいいと思うし、その価値観は他人が介入する余地はないと思う
工務店はいい家を作ってくれる:工務店はピンキリで大手同様に欠陥住宅は存在する。あとは性能だけが取り柄で意匠性に乏しい住宅もある
ナナの会社の選び方
私自身も紆余曲折を経て、最終的にどんな条件で会社選びをしたか共有したい。
必須要件は8つ、歓迎要件は2つを挙げていた。
必須要件
断熱ZEH以上:当初G2で探していたが、標準G2の会社が少ないので基準を下げた。これで対象がだいぶ広がった。断熱等級の最低ラインが25年に引き上げになる以上、ZEHすら確保できない会社は住まい手のことを全く考えていない会社なのでさすがに除外(25年になった時点で不適格住宅になる)
C値1.0以下:性能で最も重要だと考えていた点(今もぶれていない)。断熱はまだやりようがあるが、気密を取れない会社はこちらが譲歩できる要素が無い
耐震等級3(品確法):特別なことをしなくても積雪地域でもなければ標準的な2階建てで耐震等級3が取れることは分かっていた。これが難しいという会社はやばい会社だと思っていたが、実際は問い合わせた会社の中で等級3標準では無い会社は無かった。それだけ当たり前になっているので施主が気にする必要はなさそう。1社、設計事務所の中で吹き抜けだと等級3は難しいという回答はあった
自然素材が標準:耐震までは各社差が出ない部分だが、自分の好みにあたる部分。どんな家を建てたいのかを突き詰めた結果、自然素材が豊富な家が好きだと気づいた。その上で、無垢板や室内塗り壁が標準ではない会社で採用しようとすると断られたり、できるとしても数十万後半から100万円以上のコストアップになることが分かったため必須にした
外壁がサイディング以外標準:とにかくサイディングだけは嫌だった。いくら中を良くしても外がサイディングでは佇まいが建売と変わらないという印象を持っていた。自然素材同様に変更は100万円以上になるため必須となった
「いいな」と思う施行事例が1軒でもある:本来は意匠に優れた設計事務所のようにどの家も素敵だと思う会社に依頼したかったが、工務店やビルダーは正直意匠はそこまでではない。となるとこの家はいいなと思う事例が1軒でもあるならそれと同等以上は目指せると思った
総額坪単価90万以下:家は建物よりも土地が重要という考えだったので土地に予算を振った。そのため建物の予算はシビアになったので、できるだけ安い会社を探した。30坪想定で建物以外(外構、給排水工事等)・消費税込みで2700万以内ではないと厳しかったので条件に設定
契約から1年以内に引き渡し:土地の影響だが、少しでも賃貸でかかる家賃や低気密低断熱による高い冷暖房費を早く脱出したかった。この点で設計事務所は最低1年以上、1年半が多いという状況だったので対象外になった。同様にスーパー工務店は打ち合わせまで1年待ち、施工は2年後みたいな状態だったので即やめた
歓迎要件
外構提案ができる/庭が素敵な事例がある:建物だけではなく、庭も重視していた。会社によっては庭が全くなかったり、外とのつながりを考えていない設計が多かった。雑木の庭を目指していたので、それができる会社だと嬉しかった。ただ、これは依頼先ができなくても自分で造園会社に依頼することもできるので重要視しなかった
真壁工法の事例がある:和モダンな家を建てたかったため、大壁よりも真壁に惹かれていた
選んだ会社は必須要件はすべて満たし、歓迎要件は1つ(真壁)を満たしていた。
ちなみに松尾設計室が挙げる空調計画、日射遮蔽・日射取得などはアピールしておらず恐らく詳しくないとは思っていた。
しかしこれは自分が勉強すればいいと考えていた。
私は施主力という言葉を掲げているが、建築会社も全てをカバーする会社はほとんどいない。設計士も温熱は詳しいけど意匠はダメ、その逆も。室内は分かるけど外構は提案できないなど、得意不得意がはっきりしている。
理想的なスーパーマンを探すよりも、自分の予算に合う中でベターな会社・担当者を選び、足りない点は施主が力を身に着けて補完する。
これが家づくりではとても重要だと思う。
そもそも意匠にも性能にも優れ、施工も完璧という会社は100社に1社もいない。
どこかしら欠点があるので、完璧を目指すのではなく足切りをしたうえでいいところを見つけ、欠点を自分が補完するのが一番ローコストに済み、会社探しでも困らないルートだと思う。
「ああ日射遮蔽が分からないのか。そこはこうすれば大丈夫だよ」というぐらいの若干上からではあるが、足りないところをカバーするおおらかな心と確かな知識があれば大抵の会社でいい家は建てられる。
逆に日射遮蔽が分からない会社に「日射遮蔽すら分からないんですか!?ちゃんと検討してください!」みたいに言ってしまうと確実に揉める。
その会社、担当者が分かることは要求するとして知識が無いことは自分でカバーしないとクレーマーになるだけなので気を付けよう。
振り返って正解だったか
まだ家は建っていないが、設計が終わった今振り返ると大正解だったと思う。その理由は以下。
断熱:標準ZEHにも関わらず、断熱に1円も増額せずUA値が0.41とG2になったこと。これは無駄な窓を一切付けなかったこと、2階リビングで掃き出し窓が不要になったこと、依頼した会社の標準が壁付加断熱だったことに起因する
気密:結果0.3となった(中間)
温熱環境:F式を勉強すれば家の性能は空調でカバーできる。仮にG3だとしても空調計画がダメなら快適な家にはならないので、断熱性能以上に空調計画が重要だというのが今の考え。そして空調計画を提案できる会社はほぼいないし、yucakoシステムなどの全館空調は高額なので自分が勉強することで快適な環境を市販の壁掛けエアコンだけで実現できそう
自然素材:既に家が建って住んでいる人の後悔として挙げる点として「床をもっといいものにすればよかった」という声を見かける。私も契約後にサンプルに触れたが無垢の素晴らしさは想像以上だった。これが挽板や突板標準の会社で契約したらかなり後悔していたと思う。水回り除いて上下階に無垢板標準(しかも樹種が5つ以上から選べる)ということは非常に大きなアドバンテージだった(唯一大手で無垢床標準の住友林業でも2023年時点で標準はオークのみだし、子供部屋は突板になる)。玄関からLDKにかけても珪藻土が標準。同様に外壁がサイディング以外が標準だったのでファサードも妥協せず、コストも上げずにコスパ良く収まった
坪単価:まだ最終的な費用は出ていないが、予定した総額2700万前後に着地する予定。30坪、G2、自然素材多めで3000万切るのは2023年の相場を考えると驚異的なコスパではないだろうか。ローコストに匹敵する予算で意匠には妥協しなかったので大変満足している(コスパ:上の上、性能:上の下、意匠:上の下だと思っている。意匠は工務店基準でいえばほとんどの家よりいいと思うが、私の基準は設計事務所なのでそこと比べるとそこそこ。工務店の限界なので分かっていたことであり、全ての項目で満足している)
結果としてうまくいったと思っているが、建てたい家を言語化できたこと、施主力を磨いたことが何よりも大きかった。
YouTubeやインスタグラムのルームツアーを見たりモデルハウスに行ったり、今まで訪れた家やお店、ホテルでどんな空間が好きか、落ち着かないかを何度も考えた。そこで出てきたのが木や塗り壁の空間というものが一つの要素だったため基準に設けた。
自然素材を重視する会社は多いが、自然素材ありきではなく自分がいいと思う空間がどんなものかから入れば会社選びは楽になると思う。
性能が高い家には住みたいと思ったが、性能はQOLを向上させる手段であり目的ではないことも考えた。性能も上を見ればキリがないので、一定のレベルにとどめて空調計画や住み方でカバーする。それで浮いた予算を家事楽になる食洗器などの設備や意匠に回そうとした。
一時はスーパー工務店ではないといい家が建てられないと当初は考えていたが、そこから抜け出せたことは大きい。
スーパー工務店の2社からは30坪総額4000万~5000万と言われた。性能:上の下、意匠:中の上という印象なので、結果的に安く同じレベル以上になったから選ばなくて正解だったと思う。
依頼した会社との差分はあるとしても、予算追加1000万円と打ち合わせまで1年待ちということを鑑みるとそれだけの価値があるのか私には分からない。この辺はぜひ実務者の方やスーパー工務店の施主と議論を交わしたいと思っている。(拒否されそうだが)
また、標準の性能が高いわけではない会社において、性能を上げることは自分の知識が無いと不可能だった。
担当の営業と設計は意匠的な部分や収まりの提案はしてもらえるものの、性能に関してはほぼ知識が無かった。
しかし、特別な才能や勉強をせずとも一定の学習時間を投下すればスーパー工務店のように30坪総額4000~5000万なんて出さずとも、庶民が高性能で意匠に優れた家を手に入れられるということが証明できた。
私は建築を学んだことがない素人だし、自分が知ったことは全てオープンにするので再現性はあるはず。
ある意味、スーパー工務店に依頼するのは自分の学習時間をショートカットするために払う勉強代、そして希少価値に払うプレミアム料金だと思った。知識と実績は間違いないが、建築コストとは関係ない希少価値にお金を支払うということになる。
富裕層で完成まで数年待てる(スーパー工務店は打ち合わせまで半年~1年待ちが多い)という人はスーパー工務店に頼めばいいと思うが、庶民はスーパー工務店以外で高性能×意匠を両立するルートが現実的だと思う。
普通は今家が欲しくて家づくりを始めるので数年待てるという人は少ない。
ある意味大手で建てる人も「積水で建てた」「住林で建てた」ということに一つの意味があるはず。
それと同様にスーパー工務店もこの会社で建てたということ自体が目的の一つにあると思う。別にそれを否定するわけではない。本人がお金を使って気持ちがいいならそれが正解だから。ただ、スーパー工務店じゃないといい家は建たないとなるのは視野が狭くなっていると思う。
大手の場合はより性能に疎い人材しかいないため、施主がリードしないと見た目は今風でも中身は20年~30年前の住宅に住むことになる。大手に依頼するなら施主力向上は必須。(もちろんどこに依頼しても必要だが、大手で性能を求めるならそこそこ難しい資格勉強並みに勉強量が必要)
ちなみに一条は高性能だが、施主力は必要。なぜなら一条はパッシブや窓の考え方は皆無で、どこに建てても高性能という力業で高性能を実現している。
一条施主のリアルな間取りを見たことがあるが、掃き出し窓が3か所、引き違い窓が8か所ほどついている家があった。せっかくの高性能が台無しである。
もちろんそれでも他社で建てるよりは性能は高いが、わざわざ一条に大金を払うのだから、性能を棄損しない方がいいのではないだろうか。しかし、窓の種類やパッシブという考えは一条の担当は理解しておらず標準の断熱性能が高いだけなので、施主によって一条の中でも圧倒的に快適な家とそこそこの家に分かれることになる。
このようにどこで建てるにしても施主力が高いほどいい家、かつ安く仕上がるので、今後建てる人の施主力が上がるような情報を発信していきたいと思っている。
ちなみに依頼した会社を知ったきっかけは駅に置いてあるスーモのフリーペーパーだった。
この時期は○○リストやネットの検索で調べることに消耗し、藁にもすがる思いでなんとなく手に取った。分かる人もいるはずだが、このフリーペーパーには企業がお金を払って出す広告である。
当然ながら掲載順位は広告費を多く出した会社の順番。表紙になっているなら一番お金を出している。
私が見つけた会社も前の方にあったので「広告出さないと顧客獲得できないんだろうな」とうがった目で見ていた。
ただ施工例の印象がいい感じだなと思ったのと、全棟の気密平均0.3という数値がいいと思い問い合わせをした。
これもスーモのフリーペーパー全ての会社がいいとは限らないが(集客に苦労するほど魅力が無いという一面)、そこから選別すれば使えるということになる。
冒頭の○○リストも鵜呑みをせずに、その中からまともな会社を探すという意識で見ればいい会社には出会えると思う。
参考になる情報ソース
微妙な情報を取り上げてきたので、参考になるアカウントや配信者を紹介する。
以下が紹介する基準。
意見の偏りが少ない。「絶対○○を採用しろ/採用するな」という場合は明確な根拠を持っている。根拠についてデータや実体験をもとにしており、根拠不明確な情報を発信しない
メリットとデメリットを発信する:いいところだけを発信していない(許容応力度計算するべき、以上みたいなのは除外)
実務者
建築工房きらく(Twitter @kiraku_yamada)
性能について詳しいが性能偏重の意見ではなく体感やコスパも重視している
工務店ながら設計事務所並みの意匠力もあり、全体的にバランスがいい
炎上のもとになるような変な発言も無いことが好印象
せやま大学
バカにする人もいるがなんだかんだ有用な情報を発信している
○○基準を掲げる実務者の中では一番信頼できる内容になっている。情報発信の目的が「ちょうどいい塩梅の家づくり」だからだと思われる
1種ならいいとかいう一元論ではなくデメリットも話すし、屋根に使うルーフィングのようなマニアックなテーマも抑えている点がよい
せやま印の会社はチェックしてないので参考になるかは不明。基本的には動画コンテンツを参照すればいい
モリシタアットホーム
性能に限らず意匠面でもお勧めの商品等を紹介している
バランスの良さと動画内の板書が分かりやすい。家づくり始めたばかりの人に見てもらいたい内容
2023年8月時点で361本の動画があるが、興味がある内容を片っ端から視聴してほしい
ちなみに上記で基本的なことは抑えられるが、施工については情報が少ない。
個別に記事や書籍を参照する必要がある点に注意。動画コンテンツで多いのは会社探しから設計まで。
紹介しなかった人でもっと有名な人もいるが、有名=信頼性が高い情報を発信しているというわけではないということが分かったのは家づくりを経て強く感じているところ。
上記の実務者のバランスがいいという意味が分からない、有名な実務者の人が好きという人はまだ施主力としては中途半端だと思うので、もう少し突き詰めることをお勧めする。
施主
とり/torismart
F式を熟知し、2023年時点で一番アクティブにF式の方法を発信してくれている
間取り図を提供すればF式をやる場合どの位置にエアコンを配置すべきか解説をして頂ける(インスタライブ)
過去のアーカイブも残してくれており(神)、それを見るだけでも自分の家でどこに配置すべきか分かると思うので必ず見ること(当然これを見る前にフエッピーさんのブログで基礎知識は入れておくこと)
この存在があるので住宅会社側に冷暖房計画ができる必要性ははっきり言って全くない。冷暖房計画を作れない住宅会社はほっといて施主が勉強してエアコンの位置を指定するだけ。いかに前段の基準を鵜呑みにするとズレた会社探しになるか分かると思う
きりん@ダイワハウス
技術的な考察が多く上級者向け。性能について一通り勉強したと思ったところで見ると新しい発見がある
多くの人が温熱のことだけを考えて採用するハニカムスクリーンの問題や、ベタ基礎の問題点など誰も指摘してない問題を取り上げており一概に「べた基礎ならOK」みたいな浅い意見とは一線を画す
住宅完成保証制度
ここまで読んでくれた熱心な読者の方にとっておきの情報を伝授。
○○リストの中で唯一公平性がある有用なものを紹介する。
株式会社 住宅あんしん保証が提供する住宅完成保証制度の検索である。
住宅完成保証制度は財務3年分をチェックされ、毎年更新が必要なもの。
工事中に倒産しても工事に必要なお金が保険で降りる民間のサービス。
上場企業なら財務リスクは低いが、ビルダーや工務店は財務リスクが高い。毎週のように全国で住宅会社が倒産している。
下記リンクに飛んで「住宅完成保証制度」にチェックを入れてエリア検索すると、自分のエリアで財務状況が健全な会社を出すことができる。
これを使えば無名の会社でも大手ほどではないにしても工事中の倒産リスクを減らせる。
もちろん予算や性能、意匠は個別に見る必要があるが、最低限重要な財務のチェックができることは大きい。
注文住宅の市況
高性能住宅の話について補足。現状の注文住宅の市況を整理する。
高性能住宅の認知度が広まり工務店、大手問わず高性能住宅を提供する会社が増え、施主も求めるようになった
性能にしか取り柄が無い会社の価値が低下し、性能以外の強みがある会社でもない限り依頼する必要が無くなってきた
昨今の建築コスト高騰により性能だけが強みで意匠が微妙な場合も安いなら価値はあるが、ローコスト高性能は大手の規格住宅(ハグミー、えがおの家等)の方が確実に安いため性能×ローコストも工務店が勝てる領域ではない。家に求めるのは性能だけという人はお金があるなら一条、無いなら規格住宅が現状の最適解
建築コストが高騰している中、注文住宅は経済的に考えると筋のいい選択肢ではない。マンション、中古リノベ等を選ばない時点で資産価値も流動性も無いので嗜好品と変わらない。つまり経済性の面が強い高性能住宅を欲しいがために注文を建てることはおかしい(高性能住宅が目的化している)
ウッドショック以前まではこれほど高騰してなかったしできる会社も少なかったため高性能住宅だけでも価値はあったが、2024年において高性能住宅は珍しいものではない。ウッドショック以降も毎年値上がりしているので21年契約の人と23年契約の人では全然費用が違う。
積水ハウスでもC値0.5以下を達成する施主がネットで確認できるだけでも数名出てきているし、住林でG2の家もある。
性能だけなら大手でもある程度のところまできていること、建築コスト高騰から注文を建てる経済的合理性は低いことから家を建てるのは自分がしたい住まい方を実現する手段に他ならなくなっている。
YouTubeやTwitterを見ると性能に偏りがちだが、家を建てる目的を何度も考えて納得がいく会社選びをしてもらいたい。
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