小説『Here and Now』試し読みその1
※この小説には暴力的な描写がごさいます。そういうものが苦手な方は、お手数ですがブラウザバックをお願いいたします。
一
何故こんな目に遭うのだろう。 閉じ込められたロッカーは、カビ臭かった。 「おら、高島、出てこい!」
罵声がロッカーにぶつかって、いくらかくぐもる。 ロッカー越しの蹴りは、身体を蹴られるよりも、大きな揺れを起こした。 ――いっそ、ここから出ない方がいいんじゃないか。そうすれば奴らは思う存分の力で蹴りを放つことができるわけだし、自分も痛い目に遭わなくてすむ。
次第に、ロッカーが居心地良くなっていった。
奴らの声はいくらかぼやけるし、痛くもないし、安全で、守られている。こんな状況のどこが守られているのか、とも思うが、内臓にめり込まない振動に感覚がぼやけてくると、そんな気が強くした。
しかし、その胎内は、硬貨によって簡単にこじ開けられた。
強い光が目を潰した。大勢の黒い制服。奴らはみな、せせら嗤っている。これからだぜ、と顔が語っている。麻痺した身体は、じんじんとしてくる。股 から生暖かいものが広がっていった。一番止めたいものが止められなかった。
そして、奴らは、一番言って欲しくないことをやすやすと口にした。
「おい、こいつチビってるぜ!」
その2に続きます
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