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小説『Here and Now』試し読みその2

※この小説には暴力的な描写がごさいます。そういうものが苦手な方は、お手数ですがブラウザバックをお願いいたします。

孝雄は汗まみれになって目覚めた。

 なんて夢を見ちまったんだろう、と、憂鬱な気分が背中にのっかかっていた。

  ――まったく、いつになったらお前らは俺を解放し てくれるんだよ。

  防音カーテンのせいで、部屋は真っ暗だった。外からの光は、自分で開かないかぎり、入ってこない。もっとも、それは孝雄が外界を極度に嫌っていたためだった。

  携帯電話を手にとって、時刻を見る。01:45。真夜中でよかったと思う。こんな最悪な目覚めで、退屈なバイトに行きたくもなかった――けれど、眠れるだろうか?

 孝雄は寝つきがよい方ではなく、精神安定剤と睡眠薬 の混合によって、なんとか眠れるという状態であった。防音カーテンも、大学時代に住んでいた学生マンションの名残だった。それほど安くはない家賃にもかかわらず、学生マンションは防音がなっていなかった。業者によ れば、壁からではなく、ベランダの窓から音が入ってくるとのことだった。それで防音カーテンをインターネットで買ったが、気休めだった。壁を蹴とばすと、蹴り返されて、かえって怯えてしまった。結局、その学生マン ションには、一年といなかった。

  ロクでもない人生だ、と、時々思う。就職氷河期のなか入った職場を二か月で辞め、それからはずっとバイト生活だった。金もなければ、女もいない。友人だって全く連絡を取っていないので、いない に等しい。未来に夢や希望もない。

 それに加えてこんな夢を見るんだもんな、と孝雄はため息をついて、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、がぶ飲みした。四月になったにもかかわらず、妙に暑かった。それは、騒音に敏感になりすぎて、めったに窓を開けないということが関係していたが、身の安全の方が優先だった。

  四月? と孝雄は思い、ひときわ大きなため息をついた――おいおい、今日は四月一日かよ。俺の誕生日じゃないか。二〇一一年、二十四歳 。本厄。最悪だ。

その3に続きます


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