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生きるという幸せ

初めて。
診断名を教えてもらった時の
主治医の説明を覚えてる。

「興味があることは集中できるけれど
ないことに関しては全くヤル気スイッチが入らない」
ドラえもんが出てくるCMをいつも思い出す。
♪ヤル気スイッチ君のはどこにあるんだろ〜?教えてあげるよ!君だけのヤル気スイッチ!

本当に。
教えてほしいと切に思った。

噴水は何時間でも夢中で見れるのに
子供向けのテレビはまるで観ない。
時計や数は覚えるのに
興味がそれるとすぐ教室を抜け出す。

そんな莉沙を
もう、仕方がない。と諦めていた。
だって、それが障害なのだし。


だから
退院後も家に来て学習をサポートしてくださる元校長先生も
支援学級のみしか登校はしないけど
そこでしっかり学習に取り組むことをサポートしてくださった学校。
感謝の気持ちでいっぱいだった。
何より。
毎晩遅くまで、机に向かって勉強をする
過集中すぎやしないかと心配な莉沙。

あまりのエネルギー力に倒れ込む日も
食事を全てもどしてしまう日も
涙が止まらないと震えながら精神薬を飲む日も。
それでもあなたは
また、学習を始めた。

ヤル気スイッチだった。

将来の目標のため、やるべき事を見い出し
どこにあるかわからなかった
ヤル気スイッチが押された。

まともに学校に通っていない。
もちろんテストもほとんど受けていない。
通知表だけ見れば
内申の悪さは一目瞭然。
受験する事すらできないはずだったけれど
学校の先生が
専門家からの意見書や
病棟内での学習状況など
内申をサポートしてくれて

莉沙は晴れて
高校受験を手に入れた。

もちろん、まだ受かってはない。
受けてもないのだから。

でも。
出来なかったことが
出来るようになる。
実現できないと思っていたことが
実現しようとしている。

私は、莉沙が合格しようが
不合格であろうが
どちらでもかまわない。

虚な目で生きる気力を失った娘が
今まさに、生きる意味をつかみ
立ち上がって歩くことが
あまりの奇跡と
周りの支援に
幸せでいっぱいだった。
それは、きっと
普通に子育てしていたら感じなかった
次元の違う、幸せ。

生きてること。
笑うこと。
目が輝くこと。
親というのは、それだけでもうすでに
子から親孝行をしてもらってるのだと
私は、心から幸せだと思った。

莉沙の入試は翌週。
追い込みをかける娘のために
私は、娘の好きなコーンスープを差し入れる。

「ありがと」
ボソッと呟きつつ、問題集から目を離さない莉沙は、火照ったように顔が赤い。
過集中で興奮しているのだろう。

「無理しないで早めに寝てね」
そっと立ち去ったこと。

私は、その時のことを
のちにとても後悔した。

なぜ。
あの時、娘の顔や身体に触れなかったのだろう。
過敏は服薬の効果もあり
「触るよ」と言えば触れたのに。
勉強の邪魔をしたくないと考えたのだが
それでも、なぜ。

なぜ。
赤く火照った横顔を心配しなかったのだろう。
興奮のせいだと決めつけた。

考えてみれば
その日の晩御飯はほとんど残した。
「ごめーん!ごちそうさまー!」
と明るく席を立つので
入試への緊張からだと決めつけていた。

なぜ。

考えても仕方がない。

莉沙はその晩、意識を失い
救急車で運ばれた。
精神科ではない。
いわゆる体の病院に。

莉沙は、入試のチャンスを失った。


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