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死期が近い?

 4月に入っても、新型コロナウィルス感染者数に収まりがつきそうもない。毎日、テレビや新聞、ネットニュースでは、大阪で1000人を超える感染者数。蔓延防止を!緊急事態宣言をもう一度!のような文字が踊る。
僕の方は、地味に仕事が入ったり、消えたりを繰り返しているが、以前のようなピタリと動きがない状態ではなさそうだ。介護を続けながら、新しいチャンスを探さねば。夜勤出勤前に編集、夜勤に向かう、夜勤明け、事務所に戻り再度編集。そんな日々が続いている。ぶっ倒れそうだし、それでもお金は減っている。でも今はそれしかできない。自分以外の人たちも同じような状況の人はいるはずだ。最後の最後で折れない心を持って一歩ずつ行こう。
 さて、以前も紹介した町工場を経営していたEさんだが、4月に入り、急に食が細くなり、全く水も食事も受け付けなくなってしまった。しばらく番組編集で介護を休んでいて、久しぶりに夜勤に出ると、別人のEさんがそこにいた。
いつもなら、元気よく
「じゃんけんしよーかー!ちょっとちょっとー、あんたねー!!」なんて軽快な言葉をかけてくれるのだが、その日は、フロアの椅子に座った状態で、あー、うー、と小さく呻いているだけ。手元にジョアがあるが、それもほとんど飲んでいない。
遅番のおばちゃんから申し送りという連絡事項を受けるのが介護のルーティンで、Eさんの状態を教えてもらった。
ここ一週間ほど何も食べてないそうだ。便も出なく、自分で着替えもできなくなったとのこと。ふむふむ、了解。
 夕食後、パジャマに着替えて就寝してもらうのだが、今まで自分で「よいしょー!」なんて掛け声出してパジャマに着替えていたEさん、もう、弱々しい声で、「で、どうしたらいいのー」なんて言って固まってしまう。自分から寝るポーズをして、そのままベッドに横たわってしまった。蚊の鳴く声で「ありがとねー」と言って寝てしまった。
 夜勤の仕事は誰もいなくなったフロアのモップ掃除、ゴミ集め、消毒作業など多岐にわたる。作業をしている間は借金のことや仕事のこと、これからのこと、など忘れられるので結構好きだ。ひとしきり作業が終わり、一服していると、Eさんの居室から悲鳴が聞こえてきた。
「誰か来てー!!怖いよー!!誰か来てちょーだーい!」ものすごい大きな声だ。
驚いて部屋に走っていくと、ベッドに横たわったEさんが手招きをしている。
「ちょっとちょっとー!」
「どうしたんだ?」
片目がほとんど潰れたように閉じた状態、開いた左目も瞳孔が開いた状態、たとえは悪いが、悪霊か何かに取り憑かれたような表情と言えばいいのか。
「起こしてちょーだーい。」
起こしてあげると、ベッドを指差し、
「寝るのかーい?」と言うので、
「そうだよ、もう夜中だから寝ようよ。」と言うと頷いてまた横たわる。
毛布をかけてあげる、部屋を出る。すると、、、
「誰かー、助けてー、来てちょーだーい!」の声。仕方ないので、また部屋に入り、同じことを繰り返す。
無視だけはできないので、同じことを繰り返しても部屋に訪れるのである。
たまらず、ベルソムラと呼ばれる睡眠導入剤的な服薬をするのだが、全く効き目なく、5時半まで繰り返された。
 夜が明けて、早番のスタッフが到着。本当にその瞬間はホッとする。一人でいる間に事件が起きたらと思うと気が気でない。にわか介護士なので不安全開である。
 早番に昨夜の様子を伝える。するとEさんから声がかかり起床となる。
「トイレに連れてってちょーだーい」かすれる声で、訴えるEさん。
車椅子に乗せて連れていく。今にも倒れそうな体で必死に捕まりなんとか便座までたどり着くもズボンを下ろせない。
すっと下ろすと、なんと便失禁していたのだ。一週間ほとんど飲まず喰わずだったのに、急に便が出たのだ。
ちょっとひどかったので、早番スタッフを呼んで一緒に対処してもらう。その瞬間、早番スタッフがぼそりと、、、
「もしかして、近いかもね・・・」とつぶやいた。僕は意味がわからず、
「なんで?」
と答えると、
「人は死期が近くなると体が緩んで中のものを出しちゃうのよね。そうなると死ぬのが近いと言われているの」
知らなかった・・・そんなことがあるなんて。
慌ただしい朝であったが、なんとかやりくりして、日勤スタッフも出社。自分は施設を後にして、本業の修正作業などのため事務所に向かうのであった。

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