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藤井聡太29連勝

 いよいよ藤井聡太の中継の中でももっとも注目される29連勝をかけた一局の中継だ。
朝から将棋専門メディア以外の一般ワイドショークルーも将棋会館に集まった。この熱気はなんだ!
僕はこんなムーブメントの中にいるのか。かつてここまで将棋が注目されることがあっただろうか。
その中心に今自分はいるのだ!その興奮と失敗は許されない、という緊張が入り混じった感覚のまま中継に入る。
 対局室に藤井四段が入室するのはいつだ!その瞬間をカメラに収め、スタジオで配信しなければならないのだ。
全スタッフが神経を集中させて藤井聡太が現れるのを待つ。ネット配信チャンネルだけでなく、TBS、NHK、フジ、日テレ
全局が集結している。場所取りはさながら戦場である。でかいカメラを担いで少しでも藤井聡太の顔が見やすい位置で陣取る
カメラマンたち。先輩も後輩もない。いい映像、いい写真を撮る、インカムでディレクターから檄が飛ぶ。
「その位置じゃ見えにくいから、ポジション頑張ってよ!」
言うは易しだ。もうギュウギュウにすし詰め状態になった対局室に藤井聡太が現れた。
バシャバシャバシャ!シャッター音の乱れ打ち状態。動画クルーたちも藤井聡太の表情を撮影しようと懸命に踏ん張り
カメラを回す。駒を並べていく両対局者。対局開始までの静寂、そして初手が指される。
 その瞬間もまたシャッター音が鳴り響く。ひとしきり撮影が終わると我々メディア関係者は退席する。
そして長い一日が始まる。お互いの持ち時間が6時間、それを使い切ると一手1分未満に指さなければならない。
お互いが持ち時間を使い切ると、対局は深夜にまで及ぶ。対局者も命がけだが、我々も、楽しみにしている視聴者のために
観てよかった!と思ってもらえる内容にしなければ。
 将棋はサッカーや野球と違ってパッと観ただけでゲームの流れはわからない。サッカーだとドリブルで抜いていくと「あ、攻めてるんだな」とわかるし、野球でもホームランを打てば映像を見るだけで、「あ、今ポイント稼いだんだな」とわかる。
しかし、将棋はある程度将棋がわからないと意味がわからないのだ。
そこで、少しでも将棋が詳しくない人でも楽しめるよう、両対局者がお昼に何を食べたのか!いわゆる勝負飯である。
それをフューチャーするコーナーが人気なのだ。
 今日、藤井くんは何食べたの?カレー?うなぎ?彼が何を注文したかに注目が集まる。そんな競技ってある?
将棋は一進一退の攻防の末、藤井四段が見事勝利。前人未到の29連勝を達成した。そこに立ち会った自分が誇らしい。

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