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「いちゃりばちょーでー」 21歳。沖縄旅行記。

大学生になるまで旅行なんかしたことのなかった私も、今やもう、ひとりで沖縄にまで行ってしまうようなフットワークの軽い人間になってしまったようだ。

日中はtwitterで出会った沖縄住みの友人に各地を案内してもらった。
私の希望を全部叶えてくれるような、頼もしい友人である。
twitterで出会ったとは思えないくらい、もう随分と前からの友人であるような、そんな感覚であった。
とにかく遊び回った訳だが、いちばんの思い出はやはり、瀬長島のベンチに座りスターバックスを片手に、同じ景色、同じ時間、同じ空気を共有したことではないだろうか。

こんなに幸せなことがあってもいいのだろうか、ここはもう天国で、自分は実は死後の世界にいるのではないかと、そう思うまでであった。



夕方からは、ひとり旅が始まる。

これまたtwitterで出会った沖縄住みの臨床心理士さんを頼ることとなる。
その土地のことは住んでいる人に聞くのがいちばんであると改めて痛感した。
地元民のおすすめなど、史上最高の贅沢である。

おすすめされた隠れ家的な居酒屋さんの暖簾をくぐると、カウンターには先客が2人。
私もカウンター席に座り日本酒を頼む。

少し塩味の強い島豆腐を食べながら飲む日本酒は、非常に美味であった。

そうこうしているうちに客は私を含め5人になる。
沖縄×福岡のカップル。サウジアラビア×日本のご夫婦。そして、私。

なんとも場違いな気もするが、自分がひとりで飲みにきていたことすら忘れてしまうような、そんな時間であった。


少し火照った顔を手で仰ぎながらゲストハウスに帰る。

23時を過ぎると、皆おなじことを考えているのか分からないが、共有スペースに人が降りてくる。

初対面3人で近くのスーパーマーケットまでお酒を調達しに行く。
右手に持った酎ハイの缶が、夏の夜の暑さを忘れさせてくれる。

宿に戻り語らえば、気づいたときには朝日が登る時間になっている。

翌日にはまたそれぞれがそれぞれの旅を続けて、もう交わり合うことがないと分かってはいるのに「また明日」という覚束ない約束をして寝床へ就く。


目が覚める。

少しお酒の残った身体で朝の街を散歩する。
沖縄の少し湿っぽい空気を感じながら歩いていると、無意識のうちに昨日聴いた『島人ぬ宝』を口ずさんでいることに気づく。

8月6日 午前8時15分
沖縄の地から広島に思いを馳せながら、あぁ、ここ沖縄でも戦争があったのだということを懐う。

77年、返還を基準に言えば50年ということになるだろうか。
長い月日を経て、こうしてひとり、朝の空気を感じながら歩くことができる、友人と海を見て「綺麗だね」と言い合える、初対面の人同士でお酒を片手に他愛もない話ができる、そんな世界に生まれてこれたことを有り難く思うのである。

友人をはじめ、
サウジアラビア人と日本人の夫婦、
博多女子とその美人さんを見事に射止めた沖縄男子、
フリーダイビングしにきた金髪のお姉さん、
現実逃避で沖縄に来たらしい大学院生、
現住所がどこにあるか分からないというおじさん…
とにかく個性豊かな人たちとの出会いがあった。

皆、実は、人との繋がりを切に求めていて、そういう人たちがゲストハウスやカウンターしかないような居酒屋さんに集って。
ひとたび隣の人と話し始めれば、同じこの世界にあったはずなのに今まで自分の中に存在していなかった新たな世界が、私の中の世界に新たに創造される。
当たり前だが、皆違った人生を生きてきて、けれど不思議と今このときを共有している。

名前も連絡先も知らぬ、きっと今後会うこともないであろうこの一瞬の出会いが、私の人生にどのような影響をもたらすのかと問われても、上手く言語化できないが、その時間、その空間を楽しく過ごせたていうだけで、きっと十分に意味があるのだろう。

「いちゃりばちょーでー」
交わった時間は一瞬だけれど、兄弟のような家族のようなそんな温かい存在が、この世界のどこかで生きていると思えば、なんだかちょっぴり人生も悪くない気がしてくる。

沖縄の海の匂いが少し残ったサンゴを胸に、明日からの人生も大切に生きようと誓うのであった。


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