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“お掃除くん”との生活

 数年前から都内で一人暮らしをしているが、どうにも掃除が面倒くさい。特に面倒なのが床の掃除だ。犬や猫などのペットを飼っているわけでもなく、一人で静かに暮らしているだけなのに、何故だか日々ホコリがたまっていく。


 定期的に床掃除に時間を取られることに嫌気が差し、半年ほど前に、ついにロボット掃除機を購入した。色々と調べながら検討し、メジャーどころの『ルンバ』ではなく、後発の『eufy』というものを選んだ。

『eufy』は、薄めの円盤型のボディで、自動で部屋を動き回り、回転するブラシでゴミを掻き出して吸い込んでいく、イメージ通りのロボット掃除機だ。割と価格が安めで、高価格帯の商品と比較すると機能や性能は劣るものの、とりあえずお試しとして使ってみるには充分そうだった。段差や障害物を検知するためのセンサーや、壁などにぶつかった際にクッションとなる可動バンパーが付いている。カーペットなどのちょっとした段差であれば乗り越えてくれる機能もあるらしい。

 購入から数日後、結構大きめのダンボールで商品が届いた。ワクワクしながら開封すると、ロボット掃除機本体と、その充電ステーション、リモコンなどが入っていた。さっそくステーションを設置して本体を充電し、しばらくしてからリモコンを操作すると「ブォーン」と音を立ててロボット掃除機が動き出した。部屋中を動き回りながらどんどんホコリを吸い込み、普段掃除しづらいベッドの下にもスーッと簡単に入っていく。そして、ひと通り掃除を終えると自動的にステーションに戻っていった。また、タイマー機能で起動のタイミングを指定しておくこともできるようだ。これは便利だ。「うちにも未来がやって来た……!」と、今更ながら少し感動していた。

 面倒な床掃除から開放されてしばらくは満足していたのだが、使っている中で色々と気になる点も出てきた。まず、吸引音がなかなか大きい。静音を謳っているものの、普通の掃除機よりはやや小さいかな? という程度の音量で、少しうるさく感じる。さらに、衝突回避のセンサーがイマイチなようで、家具や壁にガシガシぶつかりながら進んでいく。しかも、1日1回ケースにたまったゴミを捨てたり、毎週フィルターを掃除したりする必要があり、そこそこ手間がかかる。

 また『eufy』はユーフィと読むらしいが、これがなんだか覚えづらい。僕は心のなかで“お掃除くん”と呼ぶことにした。

 家にいるタイミングでお掃除くんを動かすと、やはり吸引音のうるささが気になるので、外出する時間帯にタイマーを設定しておくのが良さそうだった。だが、いざ予約して動かしてみると、途中で引っかかって止まってしまったようで、ステーションに帰還できず、部屋の隅で息絶えていた。そのまま何日か様子を見たが、まぁ引っかかる引っかかる。ローテーブルの脚の間、キャスター椅子の隙間、テレビ台の縁、カーペットと床の段差などなど、ありとあらゆる引っかかりポイントにやられていた。

 ある日なんかは、お掃除くんがいつもの引っかかりポイントやステーションにおらず、あれ?どこ行った?と探してみると、ベッドの下でiPhoneの充電ケーブルを巻き込んで、ビリビリに食い散らかして止まっていたりもした。「なんだよ!!全然未来じゃない!!もうちょっとお金を出して高性能なルンバにしておくんだった!!」と思ったこともあったが、カーペットの真ん中まで頑張ったものの、やっぱり引っかかって途方に暮れているお掃除くんを見ると、勝手に選んで買っておいて文句を言うのも悪いな、という感情が湧いてきた。

 それ以来、家具の配置を変えたり、引っかかりポイントにクッションを置いて入れないようにしたり、巻き込まないようケーブルを配線し直したり、帰還しやすいステーション位置に調整したりと、お掃除くんに気遣いと配慮をするようになった。ただ、ここまでやっても9割くらいは部屋のどこかで力尽きている。その場合は、自分で持ち上げて、ステーションに戻して充電してやる必要がある。「まったく世話が焼ける……!」と思いながらも、なんだかペットを飼っている感覚に近いものを覚えている。

 帰ってきてお掃除くんがステーションにいた時は、逆に不安になり、あれ?リモコンの電池が切れてタイマー設定ができてなかったかな?と思わずリモコン側の不備を疑ってしまった。ゴミがたまるケースを見ると、どうやらちゃんと掃除をしてから帰ってきていたようで「よしよし、疑ってごめんな」と撫でてやりたくなった。


 最近は長時間外出する機会もないので、朝起きる時間にタイマーを設定し、目覚まし代わりに掃除を開始してもらっている。そして、またどこかで引っかかってしまったお掃除くんをよいしょと持ち上げ、ケースにたまったゴミを捨て、ステーションに戻してやるのだ。

 今後もしばらくは、僕はこのお掃除くんとの奇妙な同居生活を続けていくつもりだ。

 

 

 

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