ウソツキ

ー3ー

午後7時と少し前、あたりは薄暗く家路を急ぐ人たちの姿がチラホラ。高台になっている公園の屋根付きの休憩場のような場所でいつも井堀は待っていた。高台の下には住宅街が見える。

「久しぶりだな」

「そうだっけ?」

確か前回会ったのは二ヶ月前。互いの近況なんかを報告しあっている。わたしには久ぶりな気がしない。井堀はわたしに自販機で買ってくれたお茶を手渡してくれた。

「相変わらずアパートには呼んでくれないんだ?」

わたしは自分であつらえた生活スペースに人が近づくことを嫌った。それは井堀に彼女ができたこととは関係がないけれど、井堀は自分に彼女ができたことが原因だと思っていると思う。

「言ったでしょ自分の生活スペースに人入れるの嫌だって」

「そっか」と井堀は笑った。

わたしと井堀はこの公園で高校生の時、学校帰りに待ち合わせして、互いの少ないバイト代を持ち合わせてラブホテルへと向かった。井堀に彼女ができてからわたしは彼女という言葉を口にすることを一度もしていないし、彼女の話には一切触れないし、相手がどこのだれかも知らなかった。

「それより、話って何?」

「あぁ、そうそう、ごめんわりと重要な話だった。」

思い出したように、井堀は言った。

「柿山先生から連絡があってさ、粟木、自殺して死んだって」

「えっぇ?」

と言葉にしたけれど、なんとなく想像がつくと思うと言葉が途絶えた。

粟木双葉。忘れることはない。彼女は一つ下で、中学生の時施設にやってきた。虐待されていたという。わたしと井堀が卒業と同時に彼女も虐待していた交際相手と別れた実の母親のところに戻った。施設をでる半年前から一緒に暮らしたいと言っていたらしい。

わたしと双葉は同室で一時同じ部屋で寝ていた。双葉はリストカットをする癖があって、彼女の傷の手当てをしたことが何度かあった。そんなわたしに心を許したていた双葉だったけれど施設の問題児だったわたしより一つ上のツグミに目をつけられていじめられていた。

そのイジメから自分が標的にされるのを避けるために双葉はわたしを盾にしていじめを凌いでいた。暴力的な行為はなかったけれどあてつけがましい嫌味を言われたりしていた。でもある時、双葉がわたしがツグミの当時の彼氏に手を出したと言いふらし、わたしの夕飯のおかずのアジフライに小学生からパクってきた工作用の糊をマヨネーズのごとく絞り出した。その場は先生のおかげで何とか怒りをあらわにせずに済んだけれど、たまりにたまったわたしは自室にこもったツグミに冷めた味噌汁をキレて無言でぶっかけた。そんなわたしに喰ってかかろうとしたツグミだったけれど、施設の男性の先生にとめられて事なきを得てから、わたしと双葉、ツグミの三人の間には先生たちの目が光る様になり、同室だった双葉はツグミと同い年の広奈と部屋を交換させられてわたしはそれから施設を出るまで安泰を得た。

「明後日、お通夜らしいんだけどどうする?行ってみるか?」

わたしは双葉の死に顔を見たくなった。

「うん。一応同室だったこともあるし、行ってみるかな」

明後日お通夜に行く約束をしてその日はそれぞれの場所に帰っていった。

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