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vol.55『ツバメとわたし㉘~巣、いろいろ~』

(前回作はこちら→『ツバメとわたし㉗』

 ぐるぐるとトグロを巻いたヘビ。ヘビと言ってもフィギュアだ。その形状を存分に生かして巣に利用する。しかも、巣を作るのはツバメ。ヘビが天敵だ。自分が苦手なものを本来安らぎの場であるべき巣に取り込むなんて、なかなかのメンタル。けっこうなクレイジーぶり。逆転の発想というのか、奇才すぎる。いや、鬼才。やるな、ツバメ。


 ということで、その日からわたしはツバメが巣を作るのを見守り始めた。今までは車庫がワラとドロで汚れるのが極度に嫌だったけど、今はそれよりも奇怪な巣を見てみたい一心で、なんなら早く巣が完成しないかとまで思い始めている。好奇心の方が断然勝っているのだ。自分のことながら、気持ちがこんなに早く裏返ってこわい。


 一日、一日と盛られていくワラとドロ。しだいにヘビの体もワラとドロにまみれ、巣に馴染んでいく。「ヘビ」という素材に化している。


 頭の良いカラスなんかは、巣の素材として人工的なものをよく持ち込む。たとえば、針金ハンガーだとかビニールテープとか紐だとか。一番初めにハンガーを巣に利用したカラスは、きっとカラス界では先駆者的存在として銅像を建てても良いくらいの英雄だろう。なんせ針金なので形は自由自在に変化させることができるし、なにより頑丈だ。それを巣の骨組みにする。カラスの大きな体や体重を支えるには、もってこいの素材だ。


 この針金ハンガーの巣。ちょっと見方を変えれば、ワイヤーアートだ。白や水色、ピンクなどのカラフルなワイヤーに木の枝などを絡めて巣を組んでいく。そうやってできたものが木の枝分かれした部分に乗っているのだ。もう木全体がオブジェとなる。まさにアートの世界。しかも、そのオブジェには真黒な体のカラスが鎮座する。ここまで来たら、真黒なカラスは不気味~とかいう固定観念は消え去り、シックなモノトーンカラスってお洒落~という新しい観念に上書きされていく。


 カラスは巣の骨組みをしっかりと作り、その上にふわふわなものを敷く。寝心地の良さを追求し、他の動物の毛を拝借することもあるそうだ。動物園で大人気であるレンタル料が億単位なパンダの毛を抜いて巣に使うこともあるらしい。


 時には人間のカツラなんかも使われるらしいが、パンダにしてもカツラにしても相当高額な毛である。カラスのお目が高いのか何なのかは不明だが、人の髪がわさわさと木の高いところにあったら怪奇すぎる。遠目から見れば、もう事件の匂いしかしない。


 その間、車にはカバーをかけるようにした。やはり、ツバメが田んぼから運んでくるドロがフロントガラスや車体につくのは避けたい。車にカバーとか、ちょっと負けた感が否めないので本当は使いたくないけど、わたしの好奇心を満たすための妥協策。しかたない。でも、これが永遠に続くわけではないし、期間限定だ。ツバメのおもしろい巣が完成するまでなのだ。


(つづく)



最後までお読みいただき、ありがとうございました(*'▽')
『ツバメとわたし㉙』を更新しましたので、よろしくお願いします。



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