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vol.59『ツバメとわたし㉜~雛誕生~』

(前回作はこちら→『ツバメとわたし㉛』)

 巣の中で二羽のツバメが動かなくなって二週間ほど経っただろうか。巣の様子が明らかに忙しなくなっている。ツバメが巣から離れ、しばらくすると戻ってくる。そして、また飛び立っていく。こ、これは、もしや……。注意深く巣を観察してみると、やはりだ。小さな影が1つ、2つ、3つ……5つも増えている。とうとう、雛が生まれたのだ!

 親ツバメは巣へ戻ってくると、巣の前で羽をバタつかせ、巣の中から一生懸命に開く小さな口へ何かを与えている。それを何回も何回も繰り返す。このままいけば雛は順調にすくすく育っていくことだろう。そして、時期がくれば巣立っていく。孵化してから、だいたい1か月弱ほどで巣立つそうだ。

 雛が巣立てば、親ツバメの任務は無事終了となる。子育て終了後の親鳥も巣を離れ、他のツバメと合流し数千羽からの大集団で過ごす。そして、秋がやってくるとまた温かい国へ渡っていけるよう、たくさんの餌を食べて備えるのだ。そう。ツバメは渡り鳥。温かい場所が好きなのだ。つまり、このタイミングで巣はもぬけの殻となる。

 ヘビ付きのレアすぎる巣を我が物にするならば、そこがチャンスである。あの巣は絶対にものにしてやる。そう心に決めたわたしは、約一か月ツバメ一家の生活を見守ることにした。いや、見守るなんて言葉よりも耐えるという言葉の方がしっくりくる。雛が生まれ可愛いと思う気持ちもなくはない。しかし、ツバメ一家に対しては完全ウェルカムな気持ちではないのだ。そもそも、生き物が生活するとなると、それ相応の副産物がもれなく付いてくる。それが、引っかかるのだ。

 第一にフンだ。よく、ツバメの巣がある付近には、「ツバメのフンにご注意ください」といった注意書きを目にする。ああやって書くくらいなので、わりと多めのフンをしっかりするのだろう。しかも、巣の外に排泄する。まあ、ツバメの立場からすると巣が汚れるといやだもんね。そりゃ、自分の寝床の外に排泄する。間違って羽なんかに排泄物が付いてしまった日にゃ、「マジさいてー。」とか言っちゃうんだろうな、ツバメ。

 第二に……、と考えられうる副産物を考えてみたが、第二も第三もフン。もう、ツバメが生活するにあたって車庫を汚す副産物はフンしかないな。巣は完成しているからドロやワラを運んでくることはもうないだろう。じゃあ、ツバメが運んでくるものは何だとなれば、それは餌だ。餌はハエやカゲロウ、チョウといった羽のある虫。これらの虫をくちばしに咥えたり、口の奥に入れたりして雛の口まで運ぶ。命を育む大切な食糧を床に落とすことなど考えられない。たとえ、落としたとしても、ツバメがまた拾うだろうし、羽の生えた餌なので自力で飛んで逃げるであろう。したがって、車庫が餌で汚れることはない。なので、車庫を汚すものは、フンしかないのだ。

 あのレアな巣を手に入れるべく、とりあえず雛と親ツバメが巣を離れる日まで、わたしは車庫が汚れるのを耐えることにした。

(つづく)


最後までお読みいただき、ありがとうございました(*'▽')
月曜日に『ツバメとわたし㉝』を更新しましたので、よろしくお願いします。

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