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いつか、ここにあるもの。

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季刊誌「住む。」で連載中のエッセイ集です。
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2020年2月の記事一覧

失ったものと存在するもの。

失ったものと存在するもの。

いま住んでいる家の中をぐるりと見回す。

あるいは、「住む」という意味では、家に限らず、僕たちはオフィスにも人生の何パーセントか住んでいるわけだから、自分が働いている場所、いまいる場所も、住んでいるところと考えて、ぐるりと見回す。

人がいる。物がある。「こと」が起きている。

いま、この瞬間、という時間や、目に見える物体や現象を超えて、そこに目に見えない何かを見いだす、という思考的な実験が僕は好

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肉体と意味の対決。

肉体と意味の対決。

風邪をこじらせたのか、肺炎になってしまい、令和になる瞬間を病院で迎えてしまった。

一か月ほど前から、微熱が続き、また寝るとノドの奥がヒューヒュー言う症状があり、これはいよいよおかしい、と病院に行くことを決意したのが、4月30日の夜。

ゴールデンウィークのど真ん中の、深夜の病院の待合室に入ると、ひっきりなしに、泣いている子どもを抱きかかえた親や怪我をした若者、マスクをしたスウェット姿のカップルが

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「普通の努力」は、普通じゃない。

「普通の努力」は、普通じゃない。

努力というものには、

大きく分けて、3つの種類があるんじゃないかと思う。

まずは、「派手な努力」。

たとえば、エベレスト登山に挑戦するとか、世界記録に挑むとか、そういう努力だ。

当然大変だけど、これは、いい。

その圧倒的な努力感は、周りからも注目の的。やる気もぐんぐん高まるだろう。

次に、「ユニークな努力」。

たとえば、60歳を超えて初めてプログラミングに挑戦するとか、オタクがバンド

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好きな椅子に座る、自由。

好きな椅子に座る、自由。

先日、新幹線に乗ったときのこと。

自分は、「指定席」のチケットを持っていたのだが、「自由席」の車両の近くを通りかかったときに、ふと思った。

「自由」な席。

「自由」が手に入る席。

「自由席」とは、なんて素敵な言葉だろう。

それと比べて、「指定席」という言葉の窮屈さと言ったら!

自由を奪われた指定された席なんて、ああ、嫌だ。

僕は、「自由席」という言葉の魅力に負けて、指定席のチケットを

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