鷺沼兄弟の巣立ち、そして今後の川崎フロンターレ。その2(弟アオ編)
およそ3年前の9月15日、私は等々力スタジアムのホーム側スタンドでJリーグ川崎vs札幌を観戦していた。
川崎の攻撃力が爆発し、6−0とスタジアムもお祭りモードであった。
そして後半80分過ぎに、中村憲剛が唐突にゴールから30m以上もある場所から思いっきりボールを空へと蹴りこんだ。
この圧勝状況で憲剛が何を血迷ったのか理解しかねたが、周りのサポーターが口々に叫んでいた。
「アオだ!アオー!」
私の目の前には32番の背番号をつけた選手が立っていた。
小学生からフロンターレユースの生え抜きの初トップチームデビューする田中碧である。
中村憲剛はアオに少しでも長くプレーさせたいがために、ボールを大きく外に出すという後輩への温かい気遣いをみせてくれた。
アオは大きな身体ながら小学生のように飛び跳ねるような走り方で全力でピッチへと入っていった。
その背中は6−0の点差からか、重圧のかけらもなく純粋にプロデビューできた嬉しさしかない天真爛漫なサッカー小僧そのものにみえた。
そして、アディショナルタイムに入ったその時だった。
知念慶が放ったシュートを相手GKが弾いた。
それを素早く反応した32番がおもいっきりボールをゴールへ蹴りこんだ。
等々力全体が一斉に湧いた。
その衝撃で間違いなくスタジアムが揺れた。
隣の見知らぬサポーターとさえガッツポーズで抱き合わんばかりの爆発的なゴールだった。
「アオ!よっしゃー!オラー!」
あの幸せな夜は生涯忘れられない、ゲームの一つである。
翌年の2019年、そして優勝した2020年、現在の2021年の半ばまで田中碧はフロンターレだけでなく五輪日本代表の中核を担う選手となった。
そしてドイツのデュッセルドルフへ移籍し、キール戦に移籍後初のベンチ入り。
後半58分に出番がやってくる。
アオは持ち味のパスセンスで縦パスを効果的に送り、ビルドアップにも貢献した。
1-2の1点ビハインドで迎えた87分、田中は右CKを蹴ると、最後は味方選手がゴールネットを揺らした。
田中のCKがチームを救う同点弾に繋がった。
デュッセルドルフの公式ツイッターによると、ファン投票によって田中がMOMに選出されたという。
途中出場であったにもかかわらず、積極的なボールへの関与や同点ゴール演出などが評価されたようだ。
アオはJリーグデビュー戦と同じく、ドイツの開幕戦でもいきなりファンの心を掴んだ。
田中碧はユース選手特有のボール技術に優れた選手であるが、泥臭くフィジカル勝負もいとわないガッツを持ち合わせている。
メンタル面での成長は、中村憲剛や大島遼太、守田英正などといった部活出身選手からの指導やアドバイスが大きくアオの成長させたと思う。
田中碧という選手がどういう選手であるかがわかる彼自身のサッカーノートを紹介する。
このノートに彼のサッカー観と理想とするサッカー選手像が凝縮されている。
アオは試合が終わった後にこのノートを書いているという。
その時に以前に書いてあることを見返したりすることで、自分のプレーが頭の中で整理され、原点に戻れると言っている。
一番心に残っているノートの言葉は19番目の言葉だそうだ。
これは中村憲剛からもらったアドバイスである。
田中碧という選手は本当に謙虚にサッカーと向き合い、日々成長していく向上心を持った素晴らしいプレーヤーであることがわかる。
川崎フロンターレとって田中碧の移籍が一番痛いものであることが、現在のチーム状況からみえてくる。
中盤におけるビルドアップ、パスのテンポが上がらない。
大島僚太という天才がいるが、彼は筋肉系の怪我に付きまとわれ現在も治療中である。
田中碧という選手はなぜだか怪我に強い。
これは生まれ持った筋肉や靭帯の柔らかさなのだろう。
私は何度も彼がフィジカルコンタクトで足首を捻ったり、着地時に膝を変にねじったりした場面をみている。
普通の選手なら負傷交代するような目を覆いたくなるシーンにおいても、アオは痛がりはするがすぐにプレーに戻っている。
ホントに不思議な子である。。。
アオはコンスタントに試合に出れるという点においてもチームにとって素晴らしいプレーヤーなのである。
五輪は惜しくもメダルを逃してしまったが、次はW杯最終予選である。
日本代表も五輪と同じようにボランチはアオと遠藤航がベストであると考える。
フロンターレサポからすれば守田の存在も気になるところであろう。
しかし、守田は遠藤とプレースタイルが似通っている。
2020年のフロンターレで守田アンカー、アオのインサイドハーフがはまった事実でも2人の特徴が違うという点が顕著にあらわれている。
どっちが良いボランチかという意味ではなく、あくまで特徴であり守田は守備の局面で一番に力を発揮し、アオはゲームメイクのタクトを振るう能力に長けている。
歴代の日本代表ボランチのセットでも必ず攻守の役割を分担する人選をしてきた。
このようにやはりボランチのコンビは特徴が違う選手の方がバランスが取れて、チームの軸として機能すると思う。
守備バランサーの遠藤航の控えには守田がいるが、ゲームメイクタイプである田中碧のバックアップは誰になるのだろうか?
個人的には柴崎岳はまだまだやれるような気がする。
森保監督の今までの起用の仕方を考えるとスイスでやっている川辺駿あたりであろうか。
いずれにせよ、田中碧はドイツにおいても日本代表においてもボランチの中軸としてビッグプレーヤーの道を歩んでいくことは間違いない。
次回の第3回目は鷺沼兄弟が抜け、無敗記録も途絶えた川崎フロンターレの今後の課題を書きたいと思う。
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