6.5


私は25歳になったら単身で上京するつもりだった。リュックひとつ、思い出もいれて飛行機に乗り込むつもりだった。東京という都市に憧れて。高円寺とか、吉祥寺とか中央線沿いに住んで、本屋さんをする。夜は小さい飲み屋で少し呑んで、歌を歌いながら帰る。歌はきのこ帝国か、plenty。自宅は6畳ワンルーム。小さい机と、お気に入りの本棚があって、オレンジの灯りをつけてテレビをみる。朝はくるりをかけながら、ベランダに並べられた豆苗や小さい花たちに水をやる。近くの公園を散歩してからお気に入りのパン屋に行き、クロワッサンとコーヒーを買って帰る。猫がいてもいいな。黒猫で、名前はそうだな、さんかく。恋人がいてもいいけど、恋人がいるとわたしはその人でいっぱいになるから時々でいいや。こんな毎日を送る人生がよかった。大きな幸せはなくても、毎日の小さい幸せを集めて大きな幸せをつくるんだ。

SNSをみると時々夢描いていたような人生をまるまる送っている人間をみる。いいなぁ〜私は結局地元からは出たけど地元より田舎に引っ越してしまったし、結婚もしたし子どもも産まれた。好きな音楽は変わらないけど、忙しい生活の中で植物を育てる余裕がなく皆枯らしてしまった。猫は喘息があるから飼えないし、仕事は面白くなさそうにして、すぐに体調を壊す。なんか違うな〜と思いながら生活している。でも私は不幸ではない、そりゃ理想とは違うけど。特に育児は考えてもいなかった。私は親になるなんて誰も想像していなかったし、私が1番想像していなかった。だけど子どもが産まれてきた。最近は、私を見つけるとトコトコと近づいて隣に座ってくれる。私はこの時とても幸せを感じる。ずっとこうならいいのにな。理想じゃない生活も悪くないんだよな。

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