見出し画像

『miss you』プレビュー

配信リードシングルのみを聴いた9月半ば時点では、ああ"作家としての"桜井和寿が回帰しているのかな、そこには期待を持てるかなという印象を持った。

2010年代のMr.Childrenの展開の方向性は一言で言えば、「バンドサウンドの充実」にあったといってよいと思う。小林武史プロデュースからの独立を経て、まず鈴木・中川のリズム隊が先行し、それに田原のギターも続く形で「4人組バンド」としての骨格が強化されたことはライブ映像を「聴く」限り明らかで、これは間違いなくポジティブな変化だった。

一方で端的な事実として、Mr.Childrenの曲のアイデンティティは、90年代からずっと、桜井和寿というシンガーソングライターの存在によって確立されたものであったことも疑いえない、上記の2010年代の変化に反比例するような形で、桜井独自の視座が楽曲から薄まっていったように感じていた。とりわけ2022年リリースの2曲は、あまりにもタイアップ作品の情景を想起させるような描写の歌詞であった。

「ケモノミチ」は、ストリングスがあるからスケール感があるようだけれども、ギターとベースとドラムの音は聞こえてこない。ティザー映像で弾き語りしているのは桜井1人であり、田原と中川と鈴木の姿はなく、彼らが鳴らす楽器の音も聞こえない(リズムは打ち込みだと思う)。個人的にはこれを良い意味で、"桜井和寿の作家性の回帰"と捉えた。かつての彼の歌に強靭に存在していた、同時代と並走する意志が、今回はしっかりあるな、と思う(歌詞に「時代」という言葉、「時」という言葉が使われている)。その試みがどの程度成功しているのかまでは、今はまだ何とも言えないけれど。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?