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建物の構造計算って、実は単純

 私の専門は、建物の構造設計です。ざっくり言うと、どうすれば地震に強い家になるか? というのを考えるのが仕事です。

 とても複雑な計算式を使ったり、難しいことを考えて設計するんじゃないか、と思うかもしれません。
 でも、構造設計の原則はとても単純です。


 まず、その建物にのる重量や、地震の力を計算します。専門用語で「設計応力」といいます。

 例えば、建物ではありませんが、下図のような、木で作った踏み台を構造設計するとします。
 人が1人のる大きさですから、ここにかかる重量は、大人の男性だと80kgくらいでしょうか? もっと大きな人がのってもOKなように、150kgくらいみておきましょう。
 次に、踏み台自体の重さも考えます。木材の体積や比重などから計算すると、3kg程度になります。
 そうすると、この踏み台にかかる設計応力は150kg+3kg=153kgになります。


踏み台の構造設計


 次に、建物が持っている体力、重さや地震に耐えられる力を計算します。専門用語で「許容応力」といいます。

 この踏み台は、100kgまでは耐えられるけど、それより大きい物がのると、壊れてしまうとします。この場合、許容応力100kgとなります。


 最後に、1設計応力と2許容応力を比べます。
1設計応力 < 2許容応力 となればOKです。

 この踏み台の場合、
設計応力153kg > 許容応力100kg
なので、NGです。壊れてしまいます。じゃあ、どうするか?
 ・許容応力が大きくなるよう、踏み板を分厚くする
 ・分厚くなるのは、デザイン的にイヤだから、強度の大きいスチールで作る
 ・子供限定の踏み台にして、設計応力を小さくする
 などの方法があります。
 ここで、どんな工夫をするかが、構造設計者の腕のみせどころかもしれません。

 建物全体の耐震性を考える時も、柱1本の安全性を考えるときも
 設計応力 < 許容応力
が基本になります。

 どうでしょうか? とても単純だと思いませんか? 当たり前すぎるでしょうか?

 私が学生や新人だった頃は、それがわかっていませんでした。当たり前すぎて、わざわざ先生もそんなこと教えてくれませんし、教科書にも載っていません。
 教科書の最初に出てくる専門用語や、複雑な計算式を見て、混乱しているだけでした。
 でも、実務を始めて、ふと、
「なんだ!そういうことだったのか。 構造計算て単純やん! けっこう原始的。」
 と気がついたのでした。

 今でも、プログラムの細かい数字や、複雑な式に向かい合っていると、おおもとの基本がわからなくなる新人がけっこういるかもしれません。現在の私も、そんな時があります。(他の分野でも同じでしょうか?)

 建築の構造設計って、どんな仕事をしているのか? 一般の人にもわかるように、この話のつづきを、また書いていこうと思います。


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