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土壁は地震に強いか?


1.はじめに

 去年から、土壁の住宅の構造設計に取り組んでいる。

 「土壁」といっても、特に若い人には何のことかわからないかもしれない。今の住宅の壁には、だいたい壁紙が貼られている。そのような壁ではなくて、触るとざらざらして表面が少しこぼれるような、土で塗った壁だ。少し古い住宅やお寺などで見たことがあると思う。このタイトルに使わせていただいた建物の壁も土壁だ。

 現在、土壁はあまり使われなくなった。しかし近年、その見た目の良さや、自然素材の魅力、吸湿性や断熱性など、土壁の良さが見直されている。
 では、地震に対しては、土壁は強いのか? 

2.消えていった土壁

 今、一般的な木造住宅を建てようとすると、特別なこだわりがない限り、土壁はほとんど採用されない。せいぜい、和室の一部に使用するかどうかで、そこでさえも土壁風の壁紙で代用される。

 しかし、今から30~40年くらい前までは、土壁の家が一般的だった。私事だが、32年前実家を新築した時は、土壁を塗っていた。竹で小舞(土壁の下地)を編むのは、イベントのように、父や母、親戚も手伝っていた。思えばその時が土壁時代の最後で、その数年後に建てた物置小屋には、いっさい土壁は使われず、合板や石膏ボード下地の壁紙の壁になった。

 なぜそうなったかというと、土壁は時間がかかるから。土壁をしようと思うと、竹で小舞を編み、何層にも土を塗り、乾燥させる日数も必要だ。それに比べ、合板や石膏ボードは、釘で打ち付けるだけで終わり。費用も工期も少なくて済む。

3.地震の揺れから守るもの 

 木造住宅で地震が起きた時、壊れないように揺れに抵抗しているものは「壁」だ。単純に、壁が多い建物ほど地震に強い建物となる。そしてその壁を構成しているものは、下記となる。

 現代の住宅  :合板、すじかい(木の補強材を対角に斜めに入れたもの)
 昭和以前の住宅:土壁、すじかい

4.合板、すじかい、土壁、それぞれの強さを比べてみる

 それでは、その3つの強さを比べてみよう。(もちろん壁や板の厚さや大きさ、接合方法など諸条件によって強度が変わるので、ここではざっくりとした比較しかできないが)出来るだけ一般的な仕様で比較する。ここにあげる耐力の根拠は、『大阪府木造住宅の限界耐力計算による耐震診断・耐震改修に関する簡易計算マニュアル』(H31年4月 発行:大阪府建築士会)による。ここでは耐力は建物の揺れ具合(層間変形角)によって変わる。

(1)まず、層間変形角/120のとき:階高2.7mの建物とすれば、2階の床が3cm程度横に揺れた時。

壁の許容せん断耐力(水平方向からの力に抵抗する力)幅1.82mの壁の場合

合板(厚7.5mm): 12kN

すじかい(45mm×90mm片すじかいハの字型): 3.0kN

土壁(厚55mm): 9.0 kN

 この中では、合板の耐力が一番大きい。

(2)では、建物がもっと大きく揺れた時、層間変形角1/30:2階の床が9cm横に揺れた時はどうなるか?

合板(厚7.5mm): 破壊され、耐力0kNとなる

すじかい(45mm×90mm片すじかいハの字型): 破壊され、耐力0kNとなる

土壁(厚55mm): 層間変形角1/15(変位18cm)まで、9.0 kNの耐力を保持

 土壁だけが壊れずに耐力を保持しているということになる。これはどういうことかというと、単純に、土壁が強くて合板が弱いとか、強いとかいうことではない。それぞれの、地震に抵抗する力の性質が違うのだ。

 合板やすじかいは、地震の揺れに対して、がっちりと動かないように踏ん張り続ける強さ。それに対して土壁は、地震に対して揺れるが、揺れた時にも竹のようにしなって、ボキッと壊れない強さがある。

5.土壁の強さを生かした建物を

 合板やすじかいの建物を否定する気はまったくない。今の時代に木造で家を建てるのであれば、合板、すじかいの壁が経済的で合理的だと思う。

 ただ古い建物を耐震改修やリノベーションする時には、この土壁の強さを生かした構造設計をするのが有効だ。

 新しく建物をたてる場合にも、土壁を構造の主役にする、というもの選択肢のひとつだろう。

 最近、この土壁の文化を大事にする職人や研究者との出会いがあり、自分も今勉強中だ。土壁の魅力や可能性にもっとせまっていきたいなと思っている。

これは以前、別アカウントで公開したブログを、こちらに移したものです。

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