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賢者のセックス

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小説「賢者のセックス 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと」一覧
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2021年12月の記事一覧

賢者のセックス / 第12章 尊厳と意味論 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

ベント(性癖、あるいは「変態」)  シャワーを浴びてリビングルームに戻った僕たちは、実験の結果について真剣に話し合った。ソラちゃんの表情はバリキャリ魔女のものに戻っていた。僕はそれが嬉しかった。いつものソラちゃんだ。そのバリキャリ魔女が首をひねって考え込んでいる。 「今回の実験結果は解釈が難しいね。やはり君一人では風景を見ることは出来ない、と言えるんだろうか?」 「少なくとも一人でしている時には難しいと思う」 「じゃあ、私が一緒に自慰をしていた時は? あれは物理的接触は音

賢者のセックス / 序章 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

あらすじ 「僕」はアニメやマンガが好きな青年。去年の五月から中学校の先輩のソラと同棲をしているが、恋人同士というわけではなく、セックスフレンド兼愚痴聞き役というような立場だ。  ある日、僕は性交の直後のいわゆる「賢者タイム」に、性交中にどこかの風景が見えるという話をする。それを聞いたソラは、小説の新人賞に自分が応募する小説の素材として、それを使わせて欲しいと言い出す。  最初は冗談だと思っていた僕だったが、ソラが熱弁をふるった結果、小説執筆に協力することになる。こうして始ま

賢者のセックス / 第1章 賢者タイムとファンタジー / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

賢者タイムの失言  賢者タイムという言葉がある。  僕も最近ツイッターで見て知ったのだけれど、面白いので自分でも使うようになった。賢者なんていうとドラゴンクエストや異世界もののライトノベルのキャラクターを思い出すかもしれないけれど、賢者タイムとそれらの関連性は乏しい。  気恥ずかしいので一度しか書かないが、賢者タイムとは要するに射精した直後の男が性欲を失っている時間帯のことだ。性欲だけじゃなくて、セックスの相手への興味も一時的に失われてしまう。女性にも似たような現象があ

賢者のセックス / 第2章 調査計画と研究倫理 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

神様、聞いてますか。  ソラちゃんは朝が弱いから、先に起床して部屋を暖めておくのも、朝食を準備するのも、使い魔である僕の役割になっている。  僕は作り置きのベイクドビーンズを温めている間に焼きトマトとベーコンエッグを作って水菜を添え、トーストとミルクティーの準備をした。ベッドルームからソラちゃんが出てきたタイミングでトースターのスイッチを入れ、ティーポットにお湯を注ぐのが理想の流れだ。慎重に、丁寧に、ロイヤルなんとかという高そうなお皿にイングリッシュブレックファストを並べ

賢者のセックス / 第3章 手と唇 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

興奮の盛り上がり、ですか?  カチ、カチ、カチ。マウスをクリックする音が響く。  ポインタが画面の上を行き来する。  表示されているスプレッドシートの二列目には、唇とか首筋とかペニスとかいった単語が入っている。その隣にはキスとか、さするとか、なめるとか、口に含むとか……。あまりにも即物的で、ここまで来ると恥ずかしさはほとんどない。お仕事という感じ。  時折、ソラちゃんは僕の方を見て考え込む。愛撫方法の分類について悩んでいるのだ。 「君、正常位で動いてる時に何か見える

賢者のセックス / 第4章 正常位と胸と手のひら / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

エブリデイ・マジック  その次に僕たちがセックスをしたのは、一月の最後の土曜日だった。前の週の前半はまだソラちゃんが「女の子の日」だったし、後半は僕もソラちゃんも仕事が忙しくて、セックスをするような体力が残っていなかった。  特にソラちゃんは仕事が大変そうだった。新型コロナウイルスで売上が激減している業種もある一方で、ソラちゃんの会社は新規案件の依頼が殺到しているという。接待費や出張費がかからなくなった分の予算を、人材育成に投資したいという会社が多いのだとか。  ソラち

賢者のセックス / 第5章 後背位とお尻 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

「嫌いじゃないけど、そこまで好きでもない」  翌日の午後、僕たちは入念な調査計画を作った上で、後背位についても注意深く検証した。  インターネットで調べたところ、後背位には大きく分けて五種類のバリエーションが存在することがわかったので、僕たちは話し合いながら手順書を作り、一つ一つ順番に調査をこなしていった。  射精のタイミングについては、最低でも二種類のバリエーションをこなした後は、イキたいときにイって良いことになった。ある程度調査が進んできたことでコツも掴めてきたし、

賢者のセックス / 第6章 書斎とリビングルーム / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

書斎  その後の一週間、僕たちの関係はかなり気まずかった。日曜日の夜以来ソラちゃんはベッドルームには足を踏み入れず、僕たちが書斎と読んでいる部屋にゲスト用の寝具を運び込んで、そこで寝るようになっていた。  ここはソラちゃんの家で、ベッドルームはソラちゃんのベッドルームなのだから、ソラちゃんはベッドルームで寝るべきであり、ベッドルームの外でどちらかが寝る必要があるとすれば、それは僕だと思う。そのように言ってはみたものの、ソラちゃんの意志は変わらなかった。  書斎は六畳の洋

賢者のセックス / 第7章 手つなぎとフィールドワーク / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

市役所の方  翌朝、僕は思い付く限りの贅沢な朝食を作った。ポリッジ、シリアル、ベーコン、目玉焼き、ベイクドビーンズ、焼きトマト、椎茸のソテー。ホワイトプディングの代わりのヴァイスブルスト。クレソン。リンゴ。アーマッドのデカフェのアールグレイ。  全て、この家に住み始めてから憶えたものだ。去年の今頃の僕は料理なんかしない人間だった。ソーダブレッドは自分で焼いて、密かに通販で買っておいたスリップウェアに載せた。イギリス製のは手に入らなかったから、国産だけどね。  あと少しで

賢者のセックス / 第8章 落書きと夢 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

四阿  その中学校は丘の上にあった。昔は多摩ニュータウンと呼ばれていたという、多摩丘陵の上を切り開いて作られた巨大な住宅地の東の端だ。学区の中には三つの小学校があり、僕とソラちゃんは別の小学校に通っていた。だから小学校時代のソラちゃんと僕は何の接点もない。  僕たちは中学校の東門の前でタクシーを下りると、校門に覆いかぶさるように大きく茂った木々を見上げた。黒々としてねじ曲がった太い幹。これも桜だ。僕の記憶にあるそれよりも、一回り大きい気がする。ここに立つのも考えてみれば一

賢者のセックス / 第9章 アダルトビデオと音楽 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

クラスター分析  二四インチのモニターいっぱいに全裸の男女の痴態が映し出されている。男性は女性の胸に大きな音を立ててむしゃぶりつき、乳首を撫で回し、ブラジャーを剥ぎ取り、舌を絡め、そして時折、静止する。静止した男女の股間にはモザイクが入っている。  モニターの男女が静止するたびに、隣のモニターのスプレッドシートの上をマウスポインタが動き回り、文字が入力されてゆく。キーボードを叩く乾いた音。そして痴態は再び動き出す。二面モニターの両側に置かれたモニタースピーカーから、少し低

賢者のセックス / 第10章 ロイヤルミルクティーと独立変数 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

水が大地に沿うように  僕たちが「調査活動としてのセックス」に復帰したのはアダルトビデオを分析した次の日、日曜日だった。土曜日はあれから一緒にお風呂に入ってご飯食べて、手を繋いで寝ました。手以外のところも繋いだかもしれないけど。  翌朝、朝食を食べ終えたソラちゃんは、クロゼットから白い化粧箱を取り出してきて僕の前に置いた。箱の上面にはL字型をした赤い物体が描かれている。 「これ、女友だちがくれたんだよ。これが最強、これならイケるんじゃないかって」  僕は箱を開けてみた

賢者のセックス / 第11章 二人ですることと一人ですること / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと

違和感  ディスカッションはその後も続いた。  僕は一番気になっていることを口にした。 「でも、何でこんなことが起こってるのかな? 僕は何かの病気なのかな? それとも超自然現象ってやつが来てる? 魔法とか呪いとか」 「それは何とも言えないね。そもそも君なのか、私なのか、私たちなのかさえ、まだはっきりしないし」 「僕じゃないの?」 「もちろん、風景を見てるのは君だよ。だから君に起こったことなのは確かだね。でも、前にも言ったけど、機序ね。ものごとが起こる仕組み。それは、まだ