「アルミホイル」「痛い」

「アルミホイル」と紙に書いて、そこから線を引いて「痛い」という言葉を繋げた。
だって、アルミホイルは噛んだら銀歯とカチンとなって、歯がとっても痛いから。
それを褒められた。

音響の専門学校での授業中のことだ。
なんという授業だったかは忘れてしまったけれども、グレーの髪で四角い眼鏡をかけ、ちょっと肌が黒い、まるで「みのもんた」みたいな先生だった。
自分の中に眠っている想像力だかイメージだかを呼び起こすための授業でその課題は出された。
最初はマジカルバナナみたいに「〇〇といったら」にポンポン答えていく。
その次は「赤くて丸いものを思いつくだけ書け」という課題。

答えを考えて出しても出しても先生の納得のいく答えは出なかった。
どれも平凡だと突き返されてしまう。
しかし、ある友人は「ポスト」と書いて提出したら褒められていた。
私は「丸いか?」と心の中で思ったが、先生は友人に向かって「お前はそう思ったんだもんな!」と言っていた。
クラスから出てくる見えないクエスチョンに言うみたいに「お前はそう思ったんだもんな」と大きな声で言うのがその先生の決まり文句だった。
目に見えるものではなく、どう感じるかを先生は欲していた。

毎回毎回そんな課題を出され、自分の中に眠る面白い想像力を探した。
クラスでは「意味わかんなーい」と課題に手をつけない生徒もいた。
かく言う私も最後の方はもうイメージが出てこなくて課題と向き合うのをやめてしまっていた。

それを今ではとても後悔している。

だって、今でも「アルミホイル」と「痛い」を繋げて褒められたことを覚えているから。

20個くらい出した答えの中で、「1番自信の無いものを言え」と言われ「アルミホイル」を指した私に「俺はこれが1番良い」と言ってくれた先生。
常にぷりぷり怒っているようなイメージしかなかった人だけれども、「これだよこれ!こういう感覚を大事にしなさい」と言われ「だって、お前はこう感じたんだもんな!」と口調は多少荒くても認めてくれたことが今でもとても嬉しい。

「アルミホイル」「痛い」が私の眠っている感覚の一片なのだとしたら、キラキラとした石をもっているように大切にしたい。

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