見出し画像

肥薩線とくま川鉄道、鉄路再開への道#1

昨年の豪雨災害によって長期運休を余儀なくされている肥薩線とくま川鉄道。「川津波」と呼ばれた想像を絶する被害に襲われたあの時から1年。今の人吉・球磨地方の復旧の様子を写真と現地の方々の証言を多く交えながらありのままに伝えていきたい。また、今回の取材でお世話になったお店や施設、観光地の今の実態についても取り上げ、沿線の活性化に微力ながら寄与できればと考えている。

1,最初は駅弁のやまぐちさんへ

取材初日、前泊をしていた熊本市内から鹿児島本線とB&Sみやざきを使い、新八代経由で人吉に向かう。熊本市内からでも人吉へはなんぷう号(宮崎行き)やきりしま号(鹿児島行き)で直接向かうことができるが、昨今のコロナウイルスの影響による間引き運行が継続していることから、時間的に折り合わなかったので八代経由を選択することにした。この日は、新幹線が10分ほど遅れていたため、接続のバスもこれに合わせて9時過ぎに発車。人吉までは高速で30分強と割と短時間で到達することができた。

人吉ICに到着後、ここからは徒歩で20分~30分ほどかけて人吉駅まで移動する。高速のIC付近はコンビニや大きなスーパーなどが点在していて、地方の車社会がとにかく進んでいることが実感できる。駅へ向かう途中、肥薩線の踏切を横切る。レールにこびりついた錆と雑草が生い茂った線路が、時刻の長さを物語る瞬間だ。

画像1

道中の踏切にて。雑草がとにかく生い茂っていた。

撮影も行いながら30分弱をかけて人吉駅に到着。先ずは晩御飯の調達を兼ねて駅弁のやまぐちさんに向かう。

画像4

人吉の駅弁は全国的な知名度が高く、特に鮎ずしと栗めしは県外の駅弁大会では売り切れが多く出るほどの人気がある。その中でも人吉駅弁を全国区に押し上げた功労者の一人が、立売の菖蒲豊實(しょうぶ とよみ)さんだ。菖蒲さんは25歳で駅弁のやまぐちに入社し、以来半世紀以上に渡って活躍を続けてこられた人吉の代名詞的存在の方だったが、豪雨によって肥薩線が運休となり、人吉駅も閉鎖されたことから立売を勇退されたとのことで本当に残念な話をお店の方から聞くことになってしまったのである。Twitterで勇退をされていたお話は耳にしていたのだが、やはり本当であった。自身は3年前、阪神百貨店の駅弁大会の折に菖蒲さんと写真を撮ってもらったことがあったので、身近な有名人でもあったのだ。菖蒲さんの来歴については、小学館のサライで紹介されているのでこちらも参照して頂きたい。

菖蒲さんの現在については、社員さんがお話を続けてくれたが、引退はされてはいるものの、今もお元気で過ごされているとのことで、ひと先ずは安心した。立売の今後であるが、肥薩線の復旧後に「菖蒲さんの後継者を」という話は会社の内外で上がっているそうなので、こちらは長い目で期待したい。菖蒲さん引退後、日本で駅弁の立売が通年で残っているのは折尾と旭川の2か所だけであるが、立ち売りの反響は物凄いものがあるそうだ。言い換えると、鉄道が持つパワーは計り知れないということを実感できる。これについては後の文章で綴っていくことにしたい。

さて、駅弁の話に戻ることにする。この日の晩御飯に選んだのは勿論、栗めし。

画像2

人吉の山の幸をふんだんに詰め込んだ駅弁で、パッケージも栗を強調したものとなっている。

画像3

中身はひじきの煮物やこんにゃく、出し巻き卵、ちくわ、高野豆腐、蓮根、鶏つくね、海老の煮物、蕗などの素朴なおかずが並び、これに干瓢の炊き込みご飯と大粒の栗が5個。近年の肉系がメインの駅弁に抗う昔ながらの駅弁であるが、この栗は甘みが強く絶品。それもそのはず、地元の名産、人吉の隣の山江村で獲れたやまえ栗を使っているのだから納得。やまえ栗は昭和天皇の献上品に挙げられるほどの逸品であり、JR九州のななつ星やJALのファーストクラスのスイーツにも採用されるほどの高級ブランドなのである。その栗を使った駅弁なのだからファンにとっては贅沢な晩餐となろう。

もう一つ、昼の腹ごしらえとして鮎ずしも狙っていたのだが、残念ながらこちらは早々に売り切れとなってしまいお預けとなってしまったのだ。鮎ずしは豪雨以降、駅での立売が困難になってしまったことで1日の販売数を減らしているとのこと。お店の方曰く、作っても1日1~2個ほどと非常に限られているので、手に入れる場合はお店の開店と同時に行って頂くことを推奨する。鮎ずしについては、芋焼酎「黒霧島」で有名な霧島酒造のHPに作り方の裏側が綴られているので、丁寧な仕事の様子は必見である。

栗めしの購入を終え、店員さんとの話が進んでいると、多良木町にある黒肥地保育園の先生が声を掛けてくれたのであった。この日は宿泊先として多良木町にある「ブルートレインたらぎ」に泊まることを伝えると、「是非多良木に来てください。」ということで、車で現地まで送ってくれることになり本当に感謝である。お礼については記事の最後にまとめてお伝えをしたい。

ここで何故、駅弁屋さんで保育園の先生と?という話になるが、この日は保育園の年長さんがくま川鉄道のレールサイクルに乗るとのことで、子どもたちの昼食をやまぐちさんで注文をしていて、それを取りに来たタイミングだったのである。そういった経緯から話が進展し、著作「電車で学ぶ英会話」の献本と営業、保育園のお手伝いを兼ねて先生の車に乗せてもらえることになったのだ。早速、レールサイクルの申し込み場所に車で移動し、くま川鉄道の沿線の今の実態を見て行くことになるのである。

<#2に続く>


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?