見出し画像

ボリビアの安宿で犯罪者になるとこだった

若かりし頃、バックパックを担いで一人旅に出た。

あのときは怖いもの知らずだったなぁ。怖くないと言ったら嘘だけど、新たな出会いや見たことのない風景を求めてワクワクのほうが勝っていた。

ボリビアへ行ったのは旅の後半。旅番組の『あいのり』を見て、どうしてもウユニ塩湖に行きたかったので立ち寄った国。

首絞め強盗が多発するという悪名高きボリビア。宿は日本人宿と決めていた。ボリビアの首都ラパスの安宿へ宿泊。

その安宿で出逢ったカップル。大麻を吸ってホワンとした目をしていた可愛い彼女と、ドレッドヘアーのいかにもバックパッカーな彼氏。ちょっとやんちゃな見た目で怖そうだけど、話すと地元も近くて気さくな話しやすい人たちだった。

彼らは明日北へ、これからペルーのシャーマンに会いに行くらしい。私は明日南へ、ウユニ塩湖に向かう。

カップルの男の方が言った。

「俺らはこれからアマゾン方面だから暖かくなるし、俺の着てるジャケット、風も通さないし暖かいからやるよ。」「あ、ありがとう。」

グレーのレザーの男物のジャケットは、受け取るとズシリ。確かに重い。でも風からは守ってくれそうだった。

標高が高く冬から春に差し掛かる頃のボリビアはとても寒かったが、ウユニ塩湖は更に標高が高い。しかも、私はボリビア側からアンデスの5,000m級の山々をランドクルーザーで超えて隣国のチリに抜けるという旅程となっていた。防寒着はとても重宝する。貧乏旅行の私はタダでもらえてラッキーと思っていた。

自室のハンガーにジャケットをかけてみる。ポケットがいくつかついている。胸ポケットに手を入れると、赤い実がたくさん入っていた。

(なんだろう?これ?)

特に気にせず眠りについた。

翌日、カップルはすでに旅立っていた。私も旅立ちの支度をし、治安の悪いラパスを後にする。駅についた頃、ハタと気づく。

(あれ!?忘れちゃった!せっかくもらったタダの防寒ジャケット!)

宿のハンガーにかけたままで、すっかり忘れて宿を出てしまった。

(戻るほどのことでもないか。次の旅人がきっと活用するだろう。)そう思って、旅を続けた。

タイで宝石買わされそうになったけど1円も盗まれることはなく、アルゼンチンでタクシー運転手と喧嘩になって深夜の道で降ろされ気分だけ恐ろしい思いをしたけど、危ない目には全くあわず、無事に4ヶ月の旅を終えた。

あれから14年。時々旅を思い返しては、あの実は何だったんだろう?と思う。ずっと気になっていたけど、わからなかった実。

今日ふとトイレで思い出し、(・・・・・もしや?)と思い、Google先生で検索。

(あった!!!あのときの実!!!!)

それはコカの実だった。コカインの元となるコカはインカ帝国の時代から重宝されており、今でも現地の人はコカの葉っぱを噛んだり、コカ茶にして飲んだりして生活している。コカインはコカの葉を大量につかって濃縮して作られたものなので、葉っぱを噛んでる程度だと全く害はない。むしろ高山病予防にいいのだ。

ペルーやボリビアでは国内では葉っぱを噛んだり、お茶を飲んだりするのは合法と聞いた。ただ、コカを持って国境を超えてはいけない。もし、気づかず、南米の先進国であるチリに入国していたら。もしチリでも見つからなくてオーストラリアに入国できてたら。もし、オーストラリアでも見つからなくて、日本の空港で犬に吠えられていたら、、、。

あ~恐ろしい。あのとき忘れたおっちょこちょいの自分、ナイス!

あんな宿は貧乏旅行者しか泊まらないし、私以外の誰かがあの実で牢屋に入っていませんように。

人からタダでもらうものほど、リスクの高いものはない。14年目の気づき。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?