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キリンジ『恋の祭典』について


福岡にて

友達と四人で行った九州縦断旅行の最終日、福岡で一人行動の時間があった。その日は天候が大荒れで、沛然とした雨と海からの突風に俺の折り畳み傘は何べんもひっくり返ってまさしくお手上げ状態。雨に耐えかねてタイミング良く来たバスに乗るとなぜか有料道路に乗り遠くまで、気づけば福岡paypayドーム前のバス停に停車していました。
 どうせならpaypayドームを見てみようとバスを降たはいいものの、バス停からドームまでの距離が意外に長く、せっかくバスに乗ったのに髪はびしょ濡れ、やってらんねえ。
プロ野球もコンサートもないがらんとしたドームは味気ないもので、掴み損ねた観光を達成しようと、遠くに見えるランドマーク的な福岡タワーへと歩きで向かうことにしました。この道が一番雨風強かった。使えない折り畳み傘に心底腹が立った。
博多タワー1階のお土産屋さんで濡れそぼつ服を自然乾燥させてから、入場料を払って展望台に向かった。エレベーターは私と添乗員の二人きりで、乾いてもなお湿っている俺一人のために福岡タワーの歴史を語る添乗員さんの健気さ、あるいはその仕事への忠実さに申し訳なさを覚えたし、俺一人だったからなんか反応しないと気悪くなっちゃうかなあとか考えて「はえ~」「すごい」って間抜けな声を出してたし。
 展望台には数人の観光客が…………いや長すぎるな…….
まあとにかくそういう日にループしていたのがキリンジの『恋の祭典』なので、俺は雨を紐帯として『恋の祭典』と個人的な関係を持っているのだ。

まあ、雨の歌ではないが……
『恋の祭典』の歌詞でとりわけ印象深いのはサビ。

花環の海へとつづく恋の祭典 マス・ゲーム 真澄の空のかなたに愛の衛星 夏のミサイル レヴュー

キリンジ『恋の祭典』より

「マス・ゲーム」に「ミサイル」(国名を挙げるのは無粋な気もするが)北朝鮮を想起させるサビの歌詞。『恋の祭典』は1999年に発売されたアルバム『4745』に収録されているが、そんなころから北朝鮮はミサイルを撃っているのかと調べたところ、1998年8月31日に北朝鮮はテポドン1号を発射している。青森の上空を飛び三陸沖の太平洋に落下したミサイルは、人工衛星を分離させて軌道に乗せたと北朝鮮は発表したが、人工衛星は確認されておらず、北朝鮮の発表は偽りであったと考えられている。

また、テポドン1号発射の十日後にマスゲームが行われ、テポドン一号の姿が描かれている(時事ドットコムのサイトで確認)。

夏のミサイル、衛星、マスゲーム。

AメロBメロではサビの歌詞とは直接的に繋がらない、やり手の女性がを描いている。

君を抱く世の男は 影ばかりを追う

キリンジ『恋の祭典』より

手だれを手玉にとり 乗り継いできた女は浜辺で姿を消す

キリンジ『恋の祭典』より

宇宙の軌道に乗った衛星という嘘を祝すマスゲームといずれ雲散霧消する女性を追いかける男たちには重なるものを感じる。






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