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非常口

智子は駆け込んだ女子トイレ右側の個室に入り、勢いよく鍵を閉めた。

ここでなら、あらゆる感情をむき出しに出来るのだ。

最近は、情けなさからくる、怒りと虚しさと空洞のような行き場のない悲しみに支配されている。

それは、共有できるような喜びとはかけ離れた、他者を寄せ付けることのない孤高の感情だ。

智子は数ある自身の欠陥の中から言語障害の可能性について考える。

智子は可哀そうな智子の心に寄り添った。

そうやって涙を流してやることで彼女はカタルシスに陥り、平然と席へと戻れるのだ。

演じることに精一杯の輩は気づかない。

智子の、ただ赤く腫れあがった眼だけが内実を物語っているのである。