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【サロン連載小説】Jewel of love.SS『天然さくら色』〜Chapter6〜


本編『Jewel of love.』 Chapter 1は、こちら。

1話〜6話まで無料で配信しています。ぜひ、お試し読みを。

では、唯ちゃん視点のSS『天然さくら色』、前回の続きを更新します。


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美しいっていうのは、凄みのあるもんやな。 


そして、恋するっていうのは、ほんま、あほみたいや。


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蛇に睨まれたなんとかみたいな状態やのに、あたしは、絶対にせんせぇの居場所教えたらんわ、なんて思っとる。


 あの人、どこ?

 りりこと一緒にいるんでしょ?


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唇を噛んであたしは、アリスさんの不敵な笑みから目をそらした。


アホや、あたし。


この人に行ってもらったらええのに。


ほんで、またせんせぇからりりこさんを奪ってくれたらええのに。


ほやけど、せんせぇが。


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せんせぇがまだ、りりこさんのこと、欲しいなら、あたしは。


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「ねぇ、どこにいんの? 教えてよ」

「知りませんもん。はぐれてしもて」

「嘘だ」


腕をつかまれて、びくっと身を竦めた。


強く食い込む指先に、アリスさんも見た目より必死なんやってわかる。


ああ、どないしよ?


パニックを起こした脳みそが、 ものすごい回転をして、一つの答えを導き出した。


苛立たしげに揺さぶられかけた腕を押さえて、 あたしは賭けをするような気持ちでアリスさんの目をのぞきこんだ。


「あ、あたしじゃ、駄目ですか?」

「は?」

「あの~、りりこさんやなくて、あたしと」


それは、ひどくいい考えみたいに思った。


そうやねん、あたしがこの人をつかまえといたらええねん。


すべての元凶の、この人のことを。


「あたし、けっこうナイスバディやねんで?」


なんてな。


とりあえず、自己アピールしてみたりして。


アリスさんはキョトンとした顔をして凍りつき、 そして次の瞬間に、ぶはーっ!とのけぞって笑い出した。


「すっげーー。あんたって、変な子ォ!」

「へ、変やないですよ、笑わんといてください!」

「なんだよ、いきなりナイスバディって! あーもーサイコー!」

「ほ、ほ、ほんまですもん!」

「ふぅん?」


アリスさんの目が、いじわるげにスッと細められる。


薄い刃物のような眼差しに、金色の髪がぱらりとかかった。


うわ、なんかこの人、きれいすぎて悪魔っぽい。


そう思った次の瞬間、あたしは思いっ切り、アリスさんの腕の中に引っ張りこまれた。

ふわっと、いきなり鼻をかすめた知らない肌の香り。

その真っ白な首筋に鼻先をおしつけるかたちになっていると知り、 たちまち心臓がバクン!と脈打った。


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「……いいよ。じゃあ、つきあおっか?」


鼓膜に流し込まれた低い声に、背骨がゾクッと震える。


そこに長い指先がツッと流れた。


「あッ……」

「へぇ、敏感そうじゃん……」


すべての意味を理解した瞬間に胸の底からせりあがってきたのは恐怖。


あたしは慌ててその腕から逃れようと身を捩った。


「あ、の、ちょっ、ま……!」

「なんで? あんたが言ってるのってこういうことでしょ?」


 こうする代わりに、りりこと別れろってハナシでしょ?


あらがえないほど強く引き寄せられて、鎖骨に押しつけられた頬が燃えるように熱くなる。違う、いきなりそんな! そ、そういうことやなくて!


ああ、なんやろう、なんか、あたし、


ものすごい失敗をしたよう、な。


「いいよね? “唯ちゃん”」


凍るような声で名を呼ばれ、喉の奥が悲鳴を上げた。


あ、あかん、やっぱあかん!


はやまる心臓の鼓動が、もう後悔してる。


必死でぐいぐいと押し戻すけど、アリスさんの力がびっくりするほど強くて焦った。 それどころか、もがくうちに肩先をがっちりつかまれて、息がかかるほど鼻先を寄せられ……


ひゃああああああ!!!


あたしはかたく目を閉じて、渾身の力で両腕を突っ張った。


「せ、せんせぇーーーーー!!!」


アリスさんがパッと手を離して、あたしはドドッと地面に崩れ落ちた。


ああああ、びっくりした!


びっくりしたぁぁぁ!!!


ばくばくする心臓に手を当てて、ごくんと唾をのみこむ。


倒れ伏した目の前でアリスさんの靴先が芝生を蹴った。


「あんた馬ッ鹿じゃねーの?」


冷たく降ってきたのは、腹立たしげな言葉。


あかん、あたしいま、すごいみっともない。


恥ずかしさに泣きたい気分で唇を噛む。


アリスさんが、あたしの顔を覗き込むみたいに、ゆっくりとしゃがみ込んだ。


「てか、馬鹿にすんな」


あたしを見据えてくる美しい瞳。


青い湖面が苛立ちに震えてる。


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零れ落ちそうになる涙を、必死でこらえた。


ああ、こんなあたしやから、せんせぇにもちっとも相手にされへんのやな。


わかってんねん。


いっつも理屈に合わん、自分のこと。


わかってんねん


せんせぇの瞳がいつも、困った子ォを見るみたいな色なこと。


ほやけど、そのちょっと困ったみたいな笑顔が。


せんせぇの笑った顔が、あたしいつの間にか、すっごい好きやねん。


相手にされへんかって、もうずっと好きやねん。


もうずっとずっとずっとずっとずっと。


わけわからんわ、ムチャクチャや、もう……


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◇ ◇ ◇ ◇ ◇


続きは、こちらです。



『Jewel of love.』作 南部くまこ/絵 いばらき Since 2017/5/26
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