【サロン連載小説】Jewel of love.SS『天然さくら色』〜Chapter1〜
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では、Jewel of love.SS『天然さくら色』をお楽しみください。
唯ちゃんと“せんせぇ”の恋物語です。
なんかよーわからんけど、むしゃくしゃすんねん。
そう思って、何回かメールくれてた男の人の車に乗った。
あたしのことかわいいって、ニコニコして何回も褒めてくれはったから。
悪い人やなさそうやし、ちょっとドライブや。
そう思ってたのにその人が運転中にいきなり胸んとこ触ったから、あたしはびっくりして思いっ切りその手をはらってしもた。
その瞬間、車がフラッてして、ガチャンってやってもーたんや。
『唯ちゃん、なんでこんなこと……』
息を切らせて警察まで迎えに来てくれたせんせぇは、やっぱりまた凛々子さんを連れとった。
ああ、やっぱり、この人がせんせぇの恋人なんやろか。
この人のために、イブはカテキョをお休みするんやろか。
『ええなぁ……』
あの時の、なんかぐしゃあっとヘコんだ気持ち、いまでもふとした時に思い出したりすんねん。
せんせぇと凛々子さん、ふたりはもうとっくに別れてしもてるってゆうのに。
それでも、あの時のなんか泣きそうやった気持ち、あたしいまでも思い出したりすんねん。
凛々子さんが羨ましいって、はっきり気づいたあの夜のことを。
「ごめんね、待った?」
背中から聞こえてきた声に、あたしはあわててパタンと雑誌を閉じた。
そしてから、そんなあわてることなかったやんかって思う。
見てたのは、見開きで12星座が並んだ今週の恋占い。
せんせぇの星座のとこ見てたとか、あわてんかって別にバレへんのに。
「なになに? なに読んでたの?」
あかん、かえって興味もたれてしもた。せんせぇはからかうように雑誌を手に取ると、パラパラとページをめくりはじめた。
「なになに、“特集・新学期の恋占い”?」
「もぉ、ええですやん。行きましょ」
「待って待って。せっかくだから今週のとこだけ読ませてよ」
どれどれ、なんてせんせぇは自分のとこを読み始める。
ああああああ、よりによって一番読まれたくないとこやんか。
案の定、せんせぇの目がその一文を見つけて、動揺したみたいにかすかに揺れた。
“昔の恋人から電話がかかってくる予感。”
パタン。
せんせぇは雑誌を閉じてあたしを振り返り、「じゃ、行こっか」と言った。
腕時計を確かめて、たいへん、映画始まっちゃう、なんて。
なんやろ。あー、もー、いややわ。
また凛々子さんのこと思い出されてしもたやん。
やっと週末に、勉強とか抜きでせんせぇと遊んでもらえるんやのに。
そのために必死で頑張って、3ヶ月で偏差値7つも上げたんやで?
これで絶対ムリやって言われてた、せんせぇと同じ大学も狙える。
冬は終わって、街はもうすっかり春の風が吹いとる。
そやからあたしは、さりげに先生の横顔をうかがう。
なぁ、もぉええやろ?
凛々子さんのこと、もうええですやろ?
じとっと見つめるあたしの視線に、せんせぇは不思議そうに首をかしげて、やさしく微笑むだけ。
あたしはいつもなんも言えんくなる。
なんも言えんくなって……
「せんせぇ、歩くのはやいですー」
「あ、ごめんね」
せんせぇは、あたしが甘えて腕絡めてもほどいたりせえへん。
うれしいけど、嫌やなあって思うこともある。
妹みたいとか思われてたらどないしよ?
うん、なんかそんな気がするから憂鬱になんねん。
「今日は映画観ますやろー? それから新宿まで出て、TAKANOでケーキ食べんねん!」
「あはは、張りきってるなぁ」
「あ~、せんせぇが果物好きやから、わざわざTAKANOにしよってゆーてんのに」
「うん、ありがと。うれしいな」
ほんまかなぁ、もう。
せんせぇは、あんまり本心を見せへん人。
いっつもニコニコ笑ってて、気ィつかってくれてはるし、すごいなァ大人やなァって思うけど、なんか相手にされてへんのかな? って不満に思うこともある。
ううん、そんなことないな。
せんせぇはあたしの前で泣いたことあるもんな。
……って、これも凛々子さんのことやんなぁ。あーあ。
「どしたの? ため息ついて」
「なんでもないです」
せんせぇは、凛々子さんのことだけ、わかりやすい。
好きなんやなぁって、わかりやすい。
あたしは、せんせぇが悲しい顔するの嫌やった。
どうしても、嫌やった。
ほやのに。
ニットの上に巻いたマフラーに、そっと指をふれる。
自分でも自分のこと、よーわからへん。
いいかげん季節外れになりかけやのに、しつこくこのマフラーを巻いてる自分のこと。
ブルーになりかけたその時、ふいにせんせぇがコートのポケットに手を突っ込んだ。
「ごめん、電話」
そう言って、ケータイを取り出す。
そしてディスプレーを確かめ、せんせぇはピタッと動きを止めた。
誰ですのん?
身を乗り出して強引に画面を覗き込み、あたしもピタッと動きを止める。
ディスプレーに点滅してた名前は、なんと。
ブルブルブルブルブル……
まるで非常事態でも起こったみたいに、ケータイはしつこく震え続ける。
せんせぇは、しばらく迷ってはったけど。
ブルブルブルブルブル……
「……あの占い、当たるなぁ」
そう呟いて、大きくひとつ息をつき、
とうとうピッと通話ボタンを押して、ゆっくりと携帯を耳に押し当てた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
続きは、こちらです。
『Jewel of love.』作 南部くまこ/絵 いばらき Since 2017/5/26
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