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#002|2023年オーストラリア「先住民の声」国民投票① 広告・運動資金規制の実際

 2023年10月14日、オーストラリアで24年ぶり、45回目となる憲法改正国民投票が執行された.その内容は、憲法第9章・第129条を新設し、アボリジニ、トレス海峡諸島民が同国の先住民であることを明確にし、先住民政策に係る機関「アボリジニ及びトレス海峡諸島民の声」を設けようとするものであった.

 オーストラリアで、提案された憲法改正案が国民投票で承認されるためには、㋐賛成投票の数が有効投票総数(憲法第128条は投票総数を母数基準と定めるが、1984年国民投票(手続条項)法第93条の規定により無効投票は除外される)の過半数に達する州の数が、全州の過半数に達する(つまり全6州のうち4州以上で、賛成投票の数が有効投票総数の過半数に達する)こと、㋑全国を通じて、賛成投票の数が有効投票総数の過半数に達すること、の「二重の過半数要件」を充たさなければならない.開票の結果、㋐の要件において、賛成投票の数が有効投票総数の過半数に達した州は一つも無く、㋑の要件においても、賛成投票の数は有効投票総数の39.9%に止まったため、憲法改正は成立しなかった(11月6日結果確定).投票率は89.9%であった.

 結果は不成立となったが、今回の国民投票で特筆すべきは、その公正・公平を担保する見地から、運動資金、広告に関する規制などを講じて執行された点である.本稿は手続論、制度論の立場から、その意義を概説し、日本が抱える課題を改めて指摘する.

 

オーストラリア国民投票法制の骨格


 今回の国民投票は、1984年国民投票(手続条項)法、1992年放送サービス法(以上、2023年3月最終改正)、2011年連邦選挙委員会(AEC)決定(有権者とのコミュニケーションの認証)等の定めに従って執行された.以下、特筆すべき制度の骨格を概説する(特に断らないものは84年法の条名である).

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