見出し画像

「書くこと」へのハードルが上がっている人みんなに観て欲しいフェスだった

9月2日から5日にかけて行われたクリエイターの祭典、「note CREATOR FESTIVAL」に参加してきました。

ごく簡単に説明すると、1日あたり2〜3組のゲストが登場し、決まったテーマで(あるいはテーマを豪快に無視しながら)対談をするという催しです。

トークテーマもゲストも、本当に多彩。note社に向けて「ゴマスリ」を始める人もいれば、フェスのテーマ「つくると、つながる」をいきなりばっさり斬る人もいて、飽きない4日間でした。

各セッションの詳細は色んな方がまとめているのでそちらに譲るとして、この記事では「みんなで創作へのハードルを下げよう!」という話をします。


「いいものを書かねば」というプレッシャー

2日目の最後、「岸田奈美さんと振り返る中間セッション」で、司会をつとめるnoteのかねともさんがこんなことを言っていました。「noteに入社してからnoteを書きづらくなった」って。

スクリーンショット 2020-09-05 16.11.10

「noteの社員が書くnote」というプレッシャーで自分の中でハードルが上がってしまい、「下書きがどんどんたまっていくようになった」んだとか。



「プレッシャー」に「ハードル」。

これは本当に、色んな立場の創り手におそいかかる問題なんだなと思いつつ、私は初日の羽賀さんと柿内さんのセッションを思い出していました。

スクリーンショット 2020-09-05 15.07.00


ハードルを上げる漫画家と、下げる編集者

漫画家の羽賀翔一さんは、前作『君たちはどう生きるか』のあと、しばらく描けなくなってしまったそうです。

2017年に発売されたこの作品は、翌年には200万部を突破。「不況にあえぐ出版業界に活気をもたらした」などと評されるような大ヒットとなります。

しかし羽賀さんはその後、描けない、描き続けられない時期が続きます。前作が売れたことによるプレッシャーに、「ブランディング」への意気込み。さらに「ファンタジーを描きたい」とか「家族モノを描きたい」とか、大きな「ジャンル」を考えることで、肩に力が入ってしまっていたそうです。

それをほぐそうとするのが、羽賀さんの編集者であり今回の対談相手でもある柿内芳文さん

柿内さんから見た羽賀さんの魅力って、そういった「ファンタジー」とか「ジャンル」みたいな枠組みとはちょっと違うところにあって

職場でのなにげないひとコマ、人がスルーするような日常の仕草を拾いあげ、細かい描写で丁寧に描きあげる。そこに羽賀さんの才能がある、と柿内さんはいいます。

それが端的にあらわれているのが、「今日のコルク」という連載。

羽賀さんや柿内さんが仕事をしていたエージェント会社「コルク」の日常を切り取ったマンガだそうですが、柿内さん自身も、タクシーに乗り込むときにごろごろ転がるクセをしっかり切り取られています。

スクリーンショット 2020-09-05 15.12.06


自分の持ち味とかクセって、意外と自分じゃわからなかったりしますよね。そして自分とは違う何かに憧れて、目指そうとして、苦しくなってしまったりする

そんなときに「あなたの魅力はこっちにあるんだよ」って方向性を指し示すのもまた編集者の大切な役割だったりする、そんなお話でした。


とはいえ、方向性さえ合っていればイキナリ遠くまで行けるかというとそんなわけでもなく。

編集者柿内さんは、羽賀さんを前にこう言います。「面白いとかいらない」「ベタでいい」「いきなりマンガ史に残ろうとしちゃだめ、物事には順序があるんだから」って。

いま連載中のマンガ『ハト部』は、「鼻をかむシーンだけでまる1話終わる、とかでいいから」という柿内さんの言葉もあって実現したんだそうです。

あらかじめストーリー展開を決めず、メッセージ性もこめず、とにかく1話1話すすめていく。背景も描き込まない。服も描き込まない。ハードルをできるだけ下げ、「描きたいもの」ではなくて「描けるもの」を描いていく。

その代わり、必ず毎週決まった曜日・時間にアップする。3回落としたら、強制打ち切り。それが『ハト部』のやり方だそうです。



自分の持ち味や方向性」、それから「ハードルを下げること」は、フェス4日間を通じて何度も何度も登場したテーマでした。


みんな違ってみんないい

たとえば、前述の「岸田奈美さんと振り返る中間セッション」。

これも本当に、書いたり創ったりしてる人みんなにおすすめのセッションでした。何がいいって、「色んな指向性があっていいんだよ」っていうメッセージに、ものすごく説得力があること。

「みんな違ってみんないい」って、ともすればただの標語に聞こえてしまって、内心「そうは言っても私の書き方よりあの人のスタイルの方がいいな」って思っちゃうこともあるじゃないですか。

その点このセッションでは、フェス応援団長の岸田さんが色んなタイプのnoteを色んな角度から褒めまくるので、説得力が違う


まずは、岸田さん自身のスタイルと、一緒に振り返りをしているnoteプロデューサー徳力基彦さんのスタイル比較。

スクリーンショット 2020-09-07 22.27.50

岸田さんは、強烈なパンチラインで「感情をお裾分け」するのが好きな作家さんで、noteでも何度もバズを起こしています。特に有名なのがこちら:

一方の徳力さんは、起こったことをメモ代わりに淡々と書き残すタイプの書き手さん。2年前に書かれたこちらの記事でも、「自分のためのメモ」というキーワードを9回連呼しています。

1つ1つが大きくバズったりはしないかも知れないけれど、その積み重ねが高い信頼性につながっている、と岸田さんは指摘します。


そんな徳力さんのSNS術をもっと読みたい方はこちら:


続いて、今回のフェスのイベントレポート紹介タイム。岸田さんが気になったnoteをいくつかピックアップし、褒めまくるという時間です。

スクリーンショット 2020-09-07 22.20.11

それぞれのnoteの良さを熱弁する岸田さんの褒め方が、私はとても好きでした。

情熱ののせかたが上手い人もいれば、文字起こしで役に立つ人もいる。短いまとめを誰よりも早くアップする人もいれば、しっかりした下調べで濃い情報を提供する人もいる。

どれも違って、どれも素晴らしいんだぞというメッセージが伝わってきます。


続けることが苦しくなっている人は、ひょっとしたら「ロールモデル」を間違えて、自分に向いていない方向を目指しちゃっているのかも知れないですよね。

で、自分が目指すべきロールモデルって、アカウント開設前からわかってる必要なんてなくて。

もちろん、「ブランディング」や「自分の軸」を確立してから始めるのも素晴らしいと思いますが、「noteはあれこれ試す場なんだ」と開き直り、走りながら「自分に向いてるスタイル」を探るのも良いんじゃないでしょうか。

見逃し配信はこちら:



・・・でもそれって結局、noteを取り上げてもらえるような選ばれた人たちの話でしょ?ベストセラー漫画家さんだったり、有名著者さんみたいな雲の上の人たちを取り上げて「方向性」なんて言われてもピンとこないよ・・・


と、思った方はいませんか?


そんな方には、1日目のセッション「暮らしをクリエイトする」がおすすめです。

アウトプットなんて排泄物と一緒?

「暮らしをクリエイトする」というかなんというか、とにかく「坂口ワールド」全開だったこのセッション。

「土と会話している」「ググるな!人に聞くな!空に聞け!」という坂口恭平さんは、芸術家肌で感性豊かな方でした。その魅力は、私の文章というフィルターを通すとうまく伝えきれない気がするので、ここでは多くは語りません。

ぜひ、動画で直接、坂口さんのしゃべりを聞いていただきたいです。

「周りの反応が気になって仕方ない」「いいものを書かないといけないと思っちゃう」という方は、坂口さんの言葉を聞くと気が楽になるんじゃないかな。


ちなみに、有賀薫さんがどうやって暮らしをクリエイトしているのか詳しく知りたいという方は、下記noteがおすすめです。



全体を通して「みんな創作へのハードルあげすぎだよ!もっと気軽でいいんだよ!」というメッセージを強く感じた今回のフェス。

noteのCEO加藤貞顕さんとCXO深津貴之さんによる締めのセッション「noteが目指す創作の街」でも、そのメッセージは繰り返されていました。


note CXOが語る「創作を続けるコツ」

フェスの振り返りからnote設立にあたっての想い、そして新機能デモまで、noteのあれこれをCEOとCXOが語り尽くすこのセッション。なかでも「創作」や「継続」につまづいている方におすすめしたいのが、「創作を続けるコツ」というトピックでした。


初日の羽賀さん・柿内さんのセッションでも「いきなり漫画史に残る作品を作ろうとしない」という話がありましたが、この日の深津さんのアドバイスもそれに通じるところがありました。

自分でもnoteをたくさん書いているほか、美大の先生をしていたこともあるなど、「創る」ことへの造詣が深い深津さん。その深津さんが自分でも心がけていて、学生にも伝えていた重要ポイントは、ずばり「いきなり超大作をつくろうとしないこと」だそうです。

たとえば初めてゲームをつくる人が、いきなり「プレイ時間70時間のRPG」から始めようとして、最初のマップ作りで投げ出してしまう・・・。

それが、初心者が陥りがちな挫折パターンだとか。

そうじゃなくて、たとえば5分で終わるミニゲームを毎週1本作ってみる。部分のスケッチやコンセプトなど、他人に見せる前提じゃないものを勝手にポンポン上げるところから始めてみる。それに慣れて技術が上がってきたら、少しづつ複雑なものに挑戦する。その方が圧倒的に続けやすいと深津さんは言います。

たしかになぁー・・・

このお話、何かしら心当たりがある方は多いんじゃないでしょうか。私も多分・・・作りかけで放り出してきたものがいろいろあった気がします。


それから、「いまさらできない病」。

すでに立場があったり名前が知られたりしている人だと、初心者として何かを始めるハードルがさらに上がるというお話もありました。たとえばクラシックで地位を築いている作曲家が、初音ミクを使った創作にゼロからチャレンジしてみたいと思っても、立場が許さなかったりすると。

そんな時は「違う名前でサブ垢作ってこっそり始めちゃえばいい」と深津さん。

とにかくあの手この手でハードルを下げて気軽に試すのが大事だというお話は、初心者はもちろん、ヒット経験者や大御所まで、あらゆるフェーズのクリエイターに勇気をくれるものだったと思います。



私にはかけない文章たち

最後に少し、自分の話を。

私も人の文章を読んでいて、「うわー、すごいな、私にはこんな文章書けないな」と圧倒されることがよくあります。たとえば、感情がもりもりのった、熱量のある文章。

わきおこる情熱をそのまま文章にのせていける人っていますよね。

私は自分が書いたものを何度も何度も読み返しながら、「ここは小さじ1杯分くらい感情を足そう」などと冷静に調整したりするタイプなので、「感情!熱量!」みたいな書き手さんを見るとすごいなーと思います。


それから、あっという間に書き上げるひと。今回のフェスでも、セッション中に実況中継したり、もう翌日までにイベントレポートをアップしている人たちがたくさんいましたが、あのスピード感は尊敬します。

私にはどうも、「聞く」「消化する、考える」「文章にする」の3つを同時にこなすことはできない。どうしても時間が必要だし、そうやって時間をかけてこねくり回すのが好きだったりもします。参考までに、この記事を書き始めたのはフェス2日目(9月3日)。1週間かかってます

ほんとはnoteフェス関連の下書きがあと3つくらいあって。「フェスとコミュニティ」の話もしたいし、「裏側を見せる」ことについても語りたいし、「なんで僕たちに聞くんだろう」に寄せられた質問に勝手に答えたりとかもしてみたい。でも、いかんせん遅筆で追いつかない。


そんな私みたいなタイプが、熱量やスピード勝負の文章に憧れても、どこかで苦しくなっちゃうんですよね、きっと。

一方で、私にはまねできないスピードで文章を書き上げる人に、こんな風に言われたりもしました。「みわちゃんみたいな文章は書ける気がしない」って。


人ってついつい、無い物ねだりをしてしまいがち。「自分の持ち味」を意識し、尖らせていくのって、口でいうほど簡単じゃないけれど、でも本当に大事なことだなと思います。


同時に。長文を書きがちな私は、深津さんがいうところの「5分でできるミニゲーム」的なものももっと取り入れてみたくなりました。数時間で書き上げられる、1000文字以内の文章とか。

そうやって、終わった後に色々試してみたくなったり、創作意欲がわいてきたりするnoteフェス。まさに「クリエイターのための祭典」でした。

「続ける」ことにつまづいている方、それから「創作意欲」を刺激されたいという方は、ぜひ見逃し配信ものぞいてみてください:



この記事が参加している募集

noteのつづけ方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?