大人になるのは楽しい

「え〜本とか全然読まないなぁ〜」

持ち歩いていた小説をカバンの奥深くに隠しながら、そんな風に言った日のことを覚えている。

中学生だった私は、「読書」という趣味はカッコ悪いと思っていた。そういうのは、マジメで暗くてつまらない、優等生が好むものなんだと。


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幼いころ、私は暇さえあれば本を読んでいた。幼稚園の棚にあったすべての絵本をよみつくし、学童保育に並べられていたすべての本を読破し、図書館に通っては借りられる目一杯まで本を借りてきた。

でもいつからだろう、私はそれを自分の「悪いところ」だと思うようになっていた。

誰かに冷やかされたのかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。あるいは10代特有の自意識過剰さで、冷やかされたと思い込んでしまったのかもしれない。とにかく思春期の私は、うるさくて、元気で、落ち着きがなくて、もっと先生に怒られるような子になりたかった。


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前大統領夫人の分厚い自伝を読み終え、その感想をシェアしながら、私はふっとそんなことを思い出していた。40代がみえてきたいま、私は自分が好きなものや自分らしさに対して、昔より正直で素直になっている気がする。

「本が好きでもいいんだ」ってやっと思えたのは、たしか高校の頃、大好きなバンドのボーカルが愛読書を紹介しているのを見たときだった。だけど、「ダイビング」とか「旅行」みたいなアクティブな趣味と並べてプロフィール欄に「読書」を足したのは、本当にここ最近のことだ。


年齢でくくるのはちょっと違うかもしれないけれど、まわりの同年代の友達を見ていても、よりその人らしく生きてるひとが増えた気がしている。世間的な平均や周りの目より、自分の価値観を自分の中心にすえている、そんな人が。



「30代なんてオバチャン、青春は中高のうちだけ」くらいに思っていた当時の私は、もしも今の私が目の前にあらわれても、耳なんてかさないかも知れない。でももし何か一つだけ伝えるとしたら、「大人になるのもなかなか楽しいよ、楽しみにしておいで」と、そんな風に声をかけようと思う。

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