詩「終日」
梢の擦れる
小鳥のさえずる
風にゆらめく 気取らない五線譜
途絶えることのない 有機のながれに
耳をすまして 朝をむかえる
揺れるつり革 疲労の色
車窓越し 水平線から夕陽に染まっていく
思い出されるのは──
夕焼けこやけの町内放送
枯れ草を積んだのろまの軽トラ
あぜ道と斜陽
大きなランドセル 小学生 黄色い声
──暮れなずむ日 影の伸びた駅前で
高校生が手を振りあっている
暖簾をくぐる中年のサラリーマン
缶チューハイを開ける 駅前のコンビニ
僕らは従順に夕陽に染められて
そして きっとくる明日を夢見て 朝日を待つ
静かな夜
カーテンの隙間から 向かいのマンションの廊下の灯りが漏れて見える
遠くから聞こえるエンジン音に耳をすませて
四方を壁に囲まれた六畳一間で 僕は独り想像する
交差点でブレーキを踏んだ運転席の男は
よれよれのワイシャツを腕まで捲くって
きっとラジオを聞いている
どこの国の言語かもわからない女性シンガーが
ジャズ調の音楽に合わせて歌っているのを聞きながら
男はすぐ近くの街灯がやけに白く明るいことに気付く
そして それと同時に夜暗の深いことを知る
そうして男は 自らを包む暗さに寒気を感じながら
音楽に身を揺らし 遠くに見えるガソリンスタンドの灯りを目指すのだ
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