春うららかに
開園前のそこは、私の知っている、人で溢れかえった賑やかな場所とは程遠くて、視界に入ってくるのは、風になびく木々と、園内に咲き誇る色とりどりの花々だった。
昨日の閉園から誰の靴も踏み入っていないこの道には、淡い色の桜の花びらがコンクリートの黒を塗り替えるように敷き詰まっていて、ふわふわと朝日に照らされて眩く光っている。
頭上を覆うように伸びるたくさんの木々から、鳥のさえずりが甲高く響いた。どんな鳥かと見上げてみるが、その姿は青く透ける葉に阻まれてよく見えない。
その代わりに僕の前に現れたのは、世界を包み込むように広がる青空。この季節に特有の少し白みがかった青色をしていて、快晴でありながら日はのどかに降り注ぎ、ぽかぽかとあたたかい。
僕はこの空間が好きだ。
せわしなく過ぎていく日々から隔絶されたように、ここだけゆっくりと時間が流れていて、普段の生活では気にもとめないような様々な出来事に気付かせてくれる。
少し先で、どこからか飛んできた数羽のスズメが、芝生の上をぴょんぴょんと跳ねている。
一方で、芝生の真ん中に居座る大きなカラスは時々羽を動かすばかりで、一向にその場を動こうとしない。
風が優しく頬を撫でた。あたたかくて、それでいて清流のように澄んだ風。
さらさらと音を奏でる梢。
頭を左右に揺らす花々。
再び地面を離れて風に舞う桜の花びら。
ふと僕は思った。時おり吹くこの風は、この世界に命を吹き込んでいるのだ、と。
そしてこの命の息吹は、きっとどこまでも命を届けていくのだろう、と。
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