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HR領域を変えるか?決算から読み解く「イオレ社」の戦略。HRのIR

元リクのなまリクです。主にHR領域や組織マネジメントについて書いています。今回は「イオレ社」のIR分析です。

イオレ社。「らくらく連絡網」アプリのユニークで精度の高いデータをベースに、DMP事業を展開しています。また求人広告代理店事業や、ジョブオレというATSやも展開しています。2017年にはマザーズに上場しています。

HR領域を中心に様々な事業を展開していますが、コロナにより大きな事業影響を受けています。

イオレの決算を見てみましょう。

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”イオレ社2021年3月期決算資料より。なまリク作成”

かなり厳しい状況です。2022年3月期は減収減益、赤字決算となっています。株価はコロナにより低迷。一方で、2022年3月期通期予想は、18億〜21億。YoYで135%程度でコロナ前の2019年度並には戻したいという推移予測です。

時価総額はおよそ3.5億。PSR(株価売上高倍率)はおよそ2.5倍です。

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”イオレ社株価推移 Googleより引用”

なお、イオレ社は今期よりセグメント変更を行い、以下のような売上見通しです。
・データマネジメント事業:ピンポイント、らくらく連絡網 → 8億強
・HRテクノロジー事業:HR Ads プラットフォーム、ジョブオレ
→ 12億強

HR領域を変える?一発逆転イオレの先駆的な取り組みとは?

イオレ社の注目の事業はなんといっても、「HR Ads プラットフォーム」事業です。このプロダクトは思想としては伝統的なHRの広告事業を覆す可能性を持っています。それはなぜか?それを紐解くにはまずインターネット広告の歴史をおさらいしましょう。

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”イオレ社 2021年3月期 決算説明資料”より引用

インターネット広告は1990年中頃から勃興しました。当初は従来の4マス広告を踏襲した「予約型広告」で、予め決められたメディア(面)と期間に広告を掲載する掲載形態であり、現在も存在しますが「純広告」と呼ばれています。

その後、Yahoo!やGoogleの出現により検索というメディア(面)を対象にこれまでになかった運用型の「検索型広告」が発達し大きな市場を形成していきます。2000年代後半になるとCookieを使った行動ターゲティング広告が出現や、DSP/SSPを中心としたRTBというアドテクの発展により検索面以外の運用型広告がアドネットワークとして伸長します。またFacebookを中心としたSNSが広告面として台頭し運用型の「ディスプレイ広告」が「予約型広告」を淘汰するようになります。

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”2019年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析”より引用

では、現在のHRの領域の広告事業はどうでしょうか?

広告主は求人募集をかける場合、リクナビNEXTやマイナビ転職といった「予約型広告」に出稿するのが当たり前。indeedや求人BOXといった「検索型広告」が出現しましたが、それ以外の求人広告面は以前として旧来型の「純広告」が手法の中心にあります。

またイオレはジョブオレというATSを保有しています。インターネット広告に当てはめるとATSはDSP(広告主側の入札システム)に該当し、この「DSPとなるジョブオレ」と「HR Ads プラットフォーム」を組み合わせることで、求人広告のアドネットワークを構築が可能です。

イオレはHR業界が未だ起こせていない地殻変動である「純広告」から「運用型広告」へのイノベーションにチャレンジしているといえます。インターネット広告の歴史を紐解けば、この変動は不可逆であり正しい戦略に一見は見えます。

運用型求人プラットフォーム実現への懸念は?

一見不可逆に見えるこの流れですが勝利の方程式として間違ってないのでしょうか?ポイントは以下2点にあるのではないでしょうか。

①メディア(面)の拡大
②ATS(DSP)のリクルーティング

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”イオレ社 2021年3月期 決算説明資料”より引用

メディア(面)の拡大懸念

アドネットワークとは、文字通りネットワーク効果が肝であり、参画するメディア(面)が増えれば増えるほどネットワークの価値が高まり、広告主にとっての便益が増えていきます。ですのでのアドネットワークの拡大には当然ながらメディア(面)の拡大が不可欠です。

IR資料によると、現在の提携媒体は「11媒体」。公開されているものをピックアップすると「Lacotto」「しゅふJOBパート」「jobMAKER」「CAREER INDEX」などなど。はたしてこれはどの程度の求人広告主に魅力的なネットワークに映るでしょうか?

またネットワークの数も必要ですが、参入障壁をつくるには質、つまり大手求人媒体との提携が必須になるかもしれません。IR資料には「複数の求人メディアから引き合い」との記述がありますが、イオレ社が競合とも捉えられる求人媒体各社のマネタイズ価値を提供でき、Win-Winを提案できるかという難易度の高いチャレンジにも見えます。

ATS(DSP)のリクルーティング懸念

インターネット広告に当てはめるとATSはDSP(広告主側の入札システム)に該当すると先程申し上げました。イオレはジョブオレというATSを保有しているのでその点は問題ないのですが、ATS領域は近年HR会社が開発を争うレッドオーシャンど真ん中です。この状況踏まえるとジョブオレの見通しは不透明であり、他社ATSとの連携は必須の戦略となると考えます。

また、ATSは応募の流入先が明確になるため「HR Ads プラットフォーム」の実力値が求人広告主はもとよりATSベンダーにもまる分かりになります。提携先のATSの期待値に答えられる流入・応募を産めるのか?実力が問われるところです。IR資料には「大手ATSから引き合い」「ジョブオレ以外では最初となる他社ATSと連携開発中」とありますが、まだ優位性の構築の先は長そうです。

社長交代は注目ポイントか?

2021年6月23日より、創業者の吉田さんより代表取締役社長を引き継いだ冨塚さん。元リクルートでHR領域の経験も長く、リクルートマーケティングパートナーズの社長など要職を努めた大物です。上場依頼低迷していたイオレを冨塚さんがどう率いるか。ここも注目ポイントです。

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