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コロナで課題が浮き彫り?決算から読み解く「エン・ジャパン社」の戦略。HRのIR

元リクのなまリクです。主にHR領域や組織マネジメントについて書いています。今回は「エン・ジャパン社」のIR分析です。

エン・ジャパン社。「エン転職」を中心に人材紹介、海外事業そしてHRテック事業を手掛けるHR大手。HR領域を中心に国内外で様々な事業を展開していますが、コロナにより大きな事業影響を受けています。

エン・ジャパンの決算を見てみましょう。

かなり厳しい状況です。2022年3月期は減収減益。YoYで売上-24%、営業利益で-39%落としています。もちろん新型コロナウィルスの影響ですが、こんなに落ち込んだのか?この程度で済んだのか?は意見が割れるところですが、この規模の事業で売上の1/4が飛ぶのは背筋が凍ります。はやりコロナは恐ろしい....

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”エン・ジャパン社2021年3月期有価証券報告書より引用。なまリク作成”

一方で、2022年3月期通期予想は、売上510億。営業利益は100億。YoYでそれぞれ20%、30%の回復を見込んでいますが、ビフォーコロナの2019年度比では約90%と戻しきれずという推移予測です。

コロナにより事業課題が明確に。

新型コロナウィルスにより新しいアジェンダが突きつけられた格好となりました。これまでだと利益率の高いエン転職を中心とした「国内求人サイト」セグメントで売上・利益を稼いで、engageを中心とした「HR-Tech」セグメントへ投資をするというサイクルで行われていた事業アロケーションですが、 コロナにより景気のボラティリティに大きく左右される「国内求人サイト」依存のビジネスモデルのモロさが垣間見れる形になりました。 大手HR企業の中でも、エン・ジャパンは特に求人サイトの依存が高く、旧来型の「求人広告メディア」からの脱却が急務になったという印象を受けます。

「国内求人サイト」の次点となるセグメントは「国内人材紹介」であり、その次は「海外事業」である。ともに100億が目指せる事業サイズです。このような事業ポートフォリオの中で、 一足飛びで大注目だが12億程度の「HR-Tech」セグメントが事業の柱になるということは考えにくく、 次の事業の柱とすべき事業アジェンダが多すぎて、選択と集中が難しいフェーズに突入しているのではないかとも思われます。

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”エン・ジャパン社2021年3月期決算資料より引用”

HR-Techをどう成長させるのか?

HR-Techセグメントは150%成長。一方で10億の大台に乗ったとはいえ非連続的成長の兆しはまだありません。ただし今期の試みは非常に斬新です。採用HP制作SaaSの「engage」で作成した求人を集約したサイト「エンゲージ」をロンチさせました。ややこしいですが、無料の「engage」をタネとした、アグリゲーション求人サイトをあらたにロンチさせたというわけです。

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”エン・ジャパン社2021年3月期決算資料より引用”

基本無料のアグリゲーション求人サイト「エンゲージ」の求人は、有料の求人広告媒体である「エン転職」と競合する可能性があります。 自社内に自らディスラプター(破壊者)を飼ったという見方もできますが、このような前進をしたのはHR-Techの成長に毀損も辞さずでコミットする意思決定ではあると思います。一方で、有料「エン転職」の劣化版である無料「エンゲージ」が、ドル箱の有料「エン転職」を駆逐してしまうということも考えられなくありません。「engage」で成長した顧客基盤をどのように活かすかが問われているのではないかと思います。HR-Techは未だ戦略が不透明と言わざるえなく、今後の展開に期待がかかります。

戦略不透明であるものの、「エンゲージ」はHR テック領域のプロダクトとしては非常にユニークな立ち位置です。求人集客HR テックと言えばIndeed や求人ボックスのような求人検索エンジン型の開発が主流です。一方、求人制作・応募管理系のHR テックであるATSは、例えばindeedやLINE転職のような他の求人プラットフォームと接続し求人を流通させることで ATS の価値を作るのが一般的です。ところが「engage」は求人情報を束ねることで自らが集客プラットフォーム化するという手法は斬新です。上手くいけば、群雄割拠でレッドオーシャンながらもマネタイズの兆しが見つからないATS領域のひとつの成長モデルになるかもしれません。

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”エン・ジャパン社2021年3月期決算資料より引用”

来期より 「HR-Tech」はセグメント変更を行い、派遣領域ATSの子会社ゼクウや、定着支援SaaSの「HR Onboard」がジョインします。HR-Techセグメントは30億規模になる見込みですが、 既存のエンゲージ事業の成長率は130%と見込んでおり大きな非連続的な成長を見込んでいるわけではなさそうです。

依然としてHR-Techセグメントの売上シェアが決算の注目ポイントになるでしょう。またゼクウとの取り組み強化や、「エンゲージ」サイトの出現による非連続的な ATS のイノベーションが起こせるかに注目したいと思います。


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