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【ウ山あまねインタビュー】 演歌と呼ばれてもいい──ジャンルレスな気鋭SSWが取り組むサウンド・デザインとは

※この記事は2023年11月をもって閉鎖した音楽メディア・Soundmainからの再掲記事です。連載企画「エッジーなエレクトロニック・サウンドを求めて」では、2021年10月から2023年6月にわたり、DAWを主要機材として先鋭的な音楽制作に取り組む若手アーティスト全17名(番外編含め全18回)にインタビューを行いました。主に作り手に向けて、詳細なDTM Tipsを取り上げる企画ですが、音楽的な原体験や制作哲学なども含め、ほぼ毎回1時間強お話を伺っています。
今回はシンガーソングライターのウ山あまねさんの記事を再掲します。『ムームート』をリリースする約1年前のインタビューです(PAS TASTAも未結成)。AVYSSのインタビュー記事(2023.12.12)によればウ山さんの最近のモードはまたちょっと違うようですが、読み比べると面白いかもしれません。

(初出:2021.11.26)

連載企画【エッジーなエレクトロニック・サウンドを求めて】。この連載では、エレクトロニック・ミュージックシーンの先端で刺激的なサウンドを探求するアーティストにインタビューし、そのサウンド作りの心得やテクニックを明らかにしていく。

今回インタビューしたのはウ山あまね。2016年からエレクトロポップ・ユニット<神様クラブ>の活動を始め、2019年からソロ・アーティストとしてデビュー。2020年にリリースしたEP『Komonzo』ではhyperpop(ハイパーポップ)シーンに共鳴するような実験的なエレクトロニック・サウンドを取り入れたポップソングで注目を集め、Maltine Recordsのコンピレーション・アルバム『???』への参加や、imai「MONSTERS (feat. 七尾旅人)」のRemixを手掛けるなど精力的に活動している。

実は前回のhirihiriへのインタビュー時、「あの人はどうやって音を作ってるのか、本当にわからないです」と困惑気味に語られたのがウ山あまねだった。

持ち前のポップネスに落とし込まれるアヴァンギャルドなサウンドは、一体どのように生まれているのか。楽曲に現れる独自の世界観の源泉を辿りながら、制作への取り組み方、そしてアーティストとしてのマインドにまで踏み込んだ話を聞いた。


デスボが出せないフロントマン

―まず、音楽を始めたきっかけを教えてください。

小さい頃にピアノ教室に通ったことはあったんですけど、全然続きませんでした。それから中学生になってギターを始めるのですが、きっかけはASIAN KUNG-FU GENERATIONの「惑星」という曲を聞いたことです。あまりにかっこよすぎて、「これになりたい」と思ったんです。

―最初の関心はバンドだったんですね。

高校生になるとポスト・ハードコアをよく聞いていました。日本だったらPay money To my Painやcoldrain、海外だとMemphis May Fire、Asking Alexandriaなど。時代的にこのあたりのジャンルが盛り上がっていたんですよね。それで自分でもバンドを組んで、スクリーモっぽい曲をやっていました。

―その時はギターを?

ボーカルもやっていたんですけど、グロウル(デスヴォイス)というテクニックがどうしても出来なくて挫折したという……いくら練習してもダメで。いまだに練習するんですけどね(笑)。

―ウ山あまねさんの破壊的なサウンドのルーツは少しだけ掴めたかもしれません。しかしユニット(神様クラブ)の頃の楽曲は暴力性というものとはかけ離れているように思います。

激しい音楽も好きでしたけど、一方でCorneliusとかCymbalsとか、渋谷系みたいなバンドも好きでよく聞いていました。スクリーモから神様クラブの間には、渋谷系に近いバンドもやっていて。それを辞めてから、ポップな方向性でやってみようということで神様クラブを結成したんです。

「なんでもありサウンド大会」なhyperpopシーン

―2019年にはソロ活動を始めていますが、これまでロック畑にいたウ山さんがエクスペリメンタルな音作りに注力したきっかけはなんだったのでしょうか?

以前からDAWで作曲していたので、サウンド・デザインにはずっと興味があったんですよね。BattlesやAnimal Collective、SOPHIEなど、ジャンルを問わず「聞いたことのない音が出る音楽」には前から惹かれていました。

その中でも自分のトリガーとなったのは、hyperpopシーンで注目されたloginというアーティストでした。初めて聞いた時から「どうなってんの?!」と衝撃的で。めちゃくちゃな音作りをしているのに必然性があるというか、暴力的で破壊的なのに理にかなっているというか。「これ、自分がやらなきゃいけない音楽じゃん!」って思っちゃったんですよね。

ちょうどその頃、A.G.Cookの『7G』や100 gecsのリミックスアルバムが出たり、SoundCloudを中心に「Abletonだからできる音」みたいな曲を作るアーティストがたくさん現れて、その空気感がすごく楽しかったんですよ。hyperpopの一面には、「なんでもありサウンド大会」みたいなムーブメントがあったと思うのですが、自分もその流れに入ってみようと。

ポップスの文脈で一般的ではなかった音が「アリ」になったタイミングだったんですよね。FROMTHEHEART、folie、umruとか、日本でもhirihiriくんやphritzさんなど、聞いたことのない音を聞くたびに「すげえ」と同時に「うわー、悔しいな」と思いました。

もともと変な音が好きだった僕にとっては「ここならやっていけるかも」と思ったし、自分がやるべきことが明確になった感覚がありました。

―ちなみに、ウ山さんはhyperpopシーンのアーティストとして紹介されることがよくあると思うのですが、それについてはどのように考えていますか?

あえてhyperpopをジャンルとするなら、自分よりふさわしい人はたくさんいると思うので代表格というノリで紹介されるのは違和感がありますよね。でも、根本的には僕自身をどのように括ってもらっても構わなくて。例えば僕の音楽性を「演歌」と呼ばれてもいいというか……。解釈した末に何かが「演歌」と繋がったんだとしたら、それはそれでいいかな、と。以前「平沢進に似ている」と言われたことがあって。「なんで?!」と思ったんですけど、きっとその人なりの思考プロセスがあるわけじゃないですか。そもそもリスナーが想像力を働かせて聞いてくれたこと自体が嬉しいです。そんな感じなので、自分では「シンガーソングライター」と自称しています。

―先ほどloginの話が出ていましたが、あの人もSoundCloudに「#digicore」とか「#hyperpop」のタグではなく「#folk & singer-songwriter」というタグを付けていますよね。ウ山あまねさんがloginに感銘を受けたというのは非常に納得感があるというか、スタンスが似ているのかもしれませんね。

そうそう、そうなんですよ。loginは日記のように曲を投稿していて、ジャンルを考えて作っているというより、肉体的に作っているんじゃないかと思います。肉体的っていうのはポテンシャルがヤバいということなんですけど……そういう姿には憧れますね。

ウ山式「スネア金属化」レシピ

―具体的なサウンド・デザインについて伺っていきます。「MONSTERS」の金属がぶつかったような音や、「セロテープデート」の何かが吸い込まれていくような音、「リモデラ」冒頭の針が巻かれるような音など、一口にエクスペリメンタルと言っても様々なサウンドの引き出しがありますが、どのような意識でこれらの音を作っていますか?

聞いた時に「制御が効いていないように聞こえる」ことをよく考えます。音作りの段階でコントロールできない部分を残したり、物によっては書き出さないとどんな音が鳴っているか分からないようにすることもあります。例えば、「リモデラ」の「チキチキチキ…」という音は、入るタイミングと終わるタイミングだけをグリッドに設定して、始点と終点以外の音はグリッドに合わなくてもOK、みたいな。

―それは何かを参照しながら作るんですか?

何も参照せずに作るときもありますし、毎回リファレンスをいくつか用意するので、その曲の音作りを参考にすることもあります。しかし目標の音に近づくように作っていっても、ほとんどの場合うまくいかないので、他のエフェクターをつっこんでみるなど実験を繰り返す中で、当初目指した音じゃなくても納得できたものを採用することが多いです。

―実際の音作りの工程も教えていただけますか?

はい。金属みたいな音の作り方はよく聞かれるのですが、実はかなり簡単に作れます。

―よろしくお願いします。

まず、普通のスネアの音を用意します。808でもなんでも大丈夫です。そこに「Serum FX」という強烈にエフェクトがかかるプラグインがあるので、それのフランジャーを2、3段くらいかけるんですよ。細かく説明すると、1段目は「パンッ」って音が「パルルルゥ」って音になるように調整するんです。リリースにちょっと余韻が生まれる感じ。ここは単純にショートディレイを使うこともあります。

次のフランジャーで、高音のピークを狙ってレゾナンスを全開でかけると、「パルルルゥ」「コインッ↑」って音になるんです。Serum FXには多彩なフィルターがあるので、欲しい音によってコムフィルターやオールパスフィルターなどを使うこともあります。また、ここで「Valhalla Space Modulator」や「Eventide Instant Flanger MKII」などのプラグインからフランジャーをかけると音色や広がりを調整できます。

最後に、高音が大げさになるようなディストーションをかけてあげると、いよいよ金属っぽい音が鳴ります……こんな感じなんですけど、口頭じゃ謎すぎるのでDAWを立ち上げて聞いてみますか?

―いいんですか。ぜひお願いします。

ちょっと待ってくださいね……。

↑ウ山さんご自身が詳細な音の変化など、詳しく説明してくださいました。

今回使ったSerum FXの金属化プリセット。2段インサートするとより金属音に近づくとのこと

サウンド・デザインとサンプルパック

―今見せていただいたような自作のプリセットはどれくらいの数があるんですか?

ベーシックに使うものだけしか保存していなくて、2、30個くらいですかね。たぶん他のアーティストと比べてかなり少ないと思います。

―それは、音は水モノじゃないと駄目だ、というようなこだわりがあるということですか?

ただ単に、作ったらすぐ保存するということができなくて、「あの音ってどうやって作ったんだっけ?」というのが多々あります。自分でもマジで効率悪いと思っていて……。でもポジティブに考えると、たとえばスネアを金属化しようと思った時、808以外を使ったら全く音色も変わってくるし、効率化していないことで新しくできる音もありますね。それに、作ること自体を楽しめないと自分が苦しくなるかもしれません。

―ちなみに、『Komonzo』をリリースした際にはサンプルパックを公開していましたね。あれはどういう意図だったんですか?

もともと作る予定はなかったんですけど、サウンド・デザインにこだわったEPだったのでプロモーションの一環と考えて無料で公開しました。あと、自分の音が他人の曲で使われているというのを聞いてみたかったんですよね。自分が他の部分にも存在している、というのに憧れがあったというか。

―ご自身のnoteでは「最適化をしていないから使いづらいと思う」と書いていましたが、それはどういう意味なんでしょうか?

Spliceとかで売られているようなサンプルパックって、誰もが使いやすいようにギリギリまでマキシマイザーをかけたベタっとしたものが多いと思うんですけど、僕の作る音だと、ダイナミクスを失った状態だと面白くならないんですよね。

だから、個性をどこまで残すかという部分ですごく悩みました。hirihiriさんでいう「社会性」みたいなものですけど、サンプルパックにおける使いやすさって、楽曲内のそれとは別に考えなければいけないことがあるんだな、と思いましたね。

パッションのある音楽オタク

―最近ではどんな音楽を聞いていますか?

日本だったらvoboqさん(現:vq)が最近めちゃくちゃヤバいです。

あと、現代音楽に詳しい方に知られたら恥ずかしいくらい古典的な人なんですけど、Trevor Wishartっていうミュージック・コンクレートの文脈のアーティストをよく聞いています。

―それはどうして興味を持ったのですか?

長谷川白紙さんに教えてもらったManuella Blackburnというアーティストがきっかけになったんですよね。現代音楽の一種でエレクトロ・アコースティックというものがあるのですが、この人がかっこいいよと教えていただいたんです。ビートは無いにしても、ピークの部分とオフの部分があるから不思議と聞きやすくて。陳腐な言い方でちょっと嫌なんですけど、マジでめっちゃかっこいいんですよ。

―サウンド・デザインを追求していった先には現代音楽の取り組みがあるのかもしれませんね。アジカンに始まりポスト・ハードコア、渋谷系、hyperpop、現代音楽と様々な音楽を渡り歩いていると思いますが、ウ山あまねさんがよく言及するAnimal Collectiveからの影響についても伺いたいです。

Animal Collectiveですか。めちゃくちゃ影響を受けていますね……。たぶん、彼らもめちゃくちゃリスナー気質で、音楽オタクの集まりみたいな感じだと思うんですよ。しかも、パッションのある音楽オタクなんです。今でこそサイケなことをやっていますけど、皆でギター弾いて叫びまくっていた時代もあって(笑)。

あの映像の当時のパッショネートな部分って今も残っていると思うし、パッションに基づいて進化しているように思うんですよね。例えば、高く評価されている『Merriweather Post Pavilion』って難解なイメージを持たれていますけど、僕はあまりそう思わないんです。やりたいことを忠実にやっていった結果、できることが増えて、表現としては複雑になっちゃっているだけというか。

一貫した情熱があって、何でもかんでも吸収した音楽を武器にして、「この情熱を伝えるにはこれしかないんだ!」という風にアウトプットしているところに、アーティストとしての憧れがあります。

―ウ山さんの音楽の縦横無尽なあり方は、こうしたアーティストからインスパイアされているのですね。今後の展望についても教えていただけますか?

自分の作品をメインにリリースしていきたいというのはもちろんですが、リミックスなどで僕の要素を使いたいという人には積極的に携わっていきたいです。RostamやA.G.Cookみたいな、アーティストの地続きにプロデュース業があるような活動ができればいいなと思います。

―プロデュース業にも関心があるんですね。

そうですね。正直に言うと、みんなが自分の歌を口ずさんでもらえるくらい爆売れしたいですよね。例えば、あいみょんくらい。

―今後のご活躍を楽しみにしています!

ウ山あまね プロフィール

2020年10月、ネット・レーベルのMaltine Recordsによるコンピレーション・アルバム『???』に参加。その直後にデビューEP『Komonzo』をリリース。2021年にはシングル「hiuchiishi」「来る蜂」「siriasu」をリリース。

取材・文:namahoge
ツイッター(新:X)ブログ最近気になっている肉屋


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