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出会うし、別れるし、寂しい

19時を回るころ、遠くでドン、ドン…と試し打ちの音が聞こえてくる。窓の外に出てみると、それぞれが屋上でバーベキューをしていたりざわざわとはしゃいでいて。いつもの小道は花火の見物客でいっぱい。

角部屋に住む友達は第一会場も第二会場の花火もどちらも見ることができる贅沢な物件にすんでいて。逸る気持ちで嬉しそうに料理の手をふるっている。

私と言えば、なんだかいらいらしていた。

前日に仕事でミスをして、でも不可抗力でもあって、反省はしてこれ以上くよくよしないことに決めた。花火大会の日の朝一番で、仕事を終えた友達と大きなスーパーに行って5人で観る花火のつまみを揃える。

一旦帰宅した私は熱いシャワーが浴びたくて、蛇口をひねった。…なのに全くお湯がでない。―――給湯機の故障に遭遇した。前々からお湯が出なくなったり、出たりと不安定だなとは思っていたけど。なんだか本気で全くでなくなったらしい。真夏とはいえ、流石に冷水シャワーはつらいものがある。

この家に引っ越してきて不具合が4件あった。もう堪らなくって不動産会社に電話すると自分でオーナーに電話を、と電話を切られ。オーナーに電話するも自分で修理の手配を、と。みんな花火大会の準備にいそしんでいる雰囲気満々だった。

何のために管理費を払っているんだ!!!

頭にきてしょうがなくて、だけど頭にきている自分がなんだか悪いような気もして…。修理の手配をしているとあれは違う、別の電話番号へとたらいまわしにされ、そうすると時間は刻々と過ぎていく。そして自分がやりたかった用件をひとつも済ますことができずに、花火大会の集合時間が迫った。


🔪🔪🔪

私は友達と料理の準備を早めからすることになっていて(といっても、料理上手の友達がさみしいから隣にいてというだけ)、シャワーを浴びることができないままべたべたの体で友達宅へと向かった。

『なんだかこんな具合でいらいらしています。』

友達に愚痴を言うと、「それは蓮は悪くないんじゃない。賃貸なんだからそれやるのは管理会社とかオーナーの仕事でしょ。」と言ってくれた。だけどなんだか腹の虫がおさまらなくて。あの時電話で文句の一つでも言えばよかったと、激しく後悔をし始めた。

そうしていると、3人目が早めに到着した。2Lのコーラとお酒を私に託すと、突然生理が始まったと言って、グロッキーに床に伏せる。料理担当はもくもくと料理をこなしていた。

生理痛に苦しむ友達を介抱しながら料理をつまむ私は、なかなかお腹がいっぱいになっていて。眠たくもあるし、給湯器の件のイライラが頭から離れない。


間も無くして花火大会開始前に4人目が集合した。「コンビニ難民でさあ、アイスを買うのに一苦労しちゃって!」と爽やかな笑顔で登場した。

最後の5人目は交通規制に行く手を阻まれ、最短ルートをそれて迂回しているので先に始めていてくれと電話越しに半泣きで。

そんななか私たちの納涼会が始まった。

手巻き寿司の海苔が湿気ていて巻く気にならなかったり、気合を入れて6合炊いた米が全然減らなかったり、日ごろの鬱憤でその場が淀んだり。花火打ち上げ終了30分前に滑り込んで登場する5人目の友達。

元同僚の5人の私たちは色んな思い出や今の現状への不満や愚痴を思いのままに語る。

部屋の中、涼しいところで花火を観るなんて贅沢を初めてした。



***

明日が早いからそろそろ帰るよ、と一人が重い腰を上げるけど。『まだアイス食べてないけど!』という誰かの声に反応して全員がぱんぱんのお腹にアイスをかきこんだ。おいしいんだな、これが。

3人を見送ったあと、料理人の友達と私が残って片づけをした。

『蓮が6合とか炊こうって言うからさ!こんなに余っちゃってもう~~~』

『うるっさいな、全部持って帰るからそこ置いといてよ』

小競り合いをしながら眠たい目をこすって片づけをする。

そのあと2人で駆け足で銭湯に向かった。――だってうちの給湯器は壊れているので…。

いつも熱い湯を浴びたり浸かったりすると、とても気持ちがよくて嫌なことをわすれるんだけど…。なんだか今日はそういかなくて…。花火はとてもきれいだったし、ごはんも最高に美味しくて、みんなに久しぶりに会えてうれしくて、さあこれからどうしようってちょっと不安に思ったりもして、だけどまあみんなぼちぼちに頑張ろうよって感じだった。

帰り際にとぼとぼ歩いていると、料理上手な友達がぼそっと「いい部屋に住んだなあ~」と呟いた。

『ねえ、また来年もみんなで花火を観ようよ。』

その言葉を聞いて、『そうだね』と笑顔で返すだけじゃなくて。

なんだか心からとびっきり寂しい気持ちになったのだった。



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