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ブロックチェーンという究極の中央集権型システム(後編) ガバナンスとは何か

みなさん、お久しぶりです。なまはげです。最近は外に出るとき、2/3の確率でマスクを忘れたことに気づいて慌てて家に戻っています。マスクをしていると少なくとも石を投げられることはないのでいいですね。安心です。

前回の投稿見ていただき本当にありがとうございます。忙しくて更新遅れてしまいました。

今回は「ガバナンス」ということについてお話ししようと思います。僕は一般的に言われているガバナンストークンと呼ばれるものは総じて嫌いなのですが、その理由もブロックチェーンというシステムを権力のスコープから見つつ明らかにしていきます。

前編の要点 〜なぜブロックチェーンは中央集権型システムなのか〜

前編ではブロックチェーンは非中央集権ではなく、これ以上ない中央集権システムであるというお話をしました。なぜならブロックチェーンは「参加者の持ちうる権力全てを投げ出し、プロトコルに全てを委ねる」という性格においてプロトコルそのものが強大な権力を握っているからです。

フーコーは権力と支配という二つの概念を明確にわけ、権力というゲームにおいて参加者全てがお互いに権力を及ぼしあう状態を正常とし、一部の参加者以外が権力を全く行使できない状態を「支配」と呼びました。(そしてフーコーは支配に陥らないように抵抗することを主張する)

ブロックチェーンにおいてはプロトコルが参加者を「支配」しています。しかし、ブロックチェーンの世界ではプロトコルは挙動が決まってますから、複雑な権力ゲームが展開されている現実社会が提供することが決して叶わない「一種の安心感」を得ることができます。(ちょっと思いつきなのですが、DeFiの悪い資金効率はこうした「安心感」へのプレミアムだとも考えられますね)

ガバナンスの目的とは何か

さて、以上の話は「プロトコルが完成しており、誰もプロトコルに手を出せない状態」に対して成り立つ、いわば理想的なブロックチェーンを仮定した話です。

しかし、こんな状態はなかなか生まれません。現実にプロトコルを設計・開発するのは人間ですし、実行するのも人間が持っているGPUやASICです。なのでそのあたりの「プロトコルに影響を及ぼす人間」の権力をうまく無効化してあげないと人間とプロトコルで権力が分散した「悪いブロックチェーン」が生まれてしまいます(権力の分散化がなぜ悪いのかは前編参照)

かといって一度作ったものに一切手出しができないとそれはそれで完成度の低いプロトコルが生まれてしまいます。よって理想のブロックチェーンを志向するならばガバナンスの目的は

プロトコルの完成度を高めつつ、プロトコルに影響を与える人間の影響力を最大限無効化する努力

と定義できます。

(あくまでプロトコルに支配され、安心感という価値を手に入れられる「理想のブロックチェーン」を目指す場合ですが)

「悪い分権化」を生み出す4つの権力

では、ガバナンスに際して「プロトコルに影響を与える人間」にはどのような類型があり、どのような特徴を持っているのでしょうか。ここでは4つの分類を提案しようと思います。

1. 開発者・設計者

これはもう仕方がないです。プロトコルは作らなきゃ何にもならないんですから。大事なのは作ったあと、開発者がどのような権力を持っているかです。開発が完了しておらず未熟(と少なくとも開発者が考えている)プロトコルでは改善のため開発者がある程度権力を握っておく必要があります。しかしその一方で「安心感」は損なわれます。

そうした中でも最大限の安心感を提供するには「ロードマップ」をできる限り明確にして開発者があたかも機械であるかのような振る舞いを見せることが重要です。

ただ、ブロックチェーンでは仕組み上、開発力だけではチェーンの仕組みを覆すことは不可能なので一旦プロトコルが出来上がって仕舞えば、開発者の持つ権力は非常に小さいと言えます。

2. プロトコルの実行者

これはマイナーなどと呼ばれるコードを実際に実行している人たちです。マイナーは基本的にプロトコルを忠実に実行することを求められるのであまり権力はありません。

しかし、マイナーに明らかに不利な変更などが発生した場合など複数のマイナーが一気に行動を変更する場合非常に大きな権力を持ち得ます。それが発生しないためにはある程度マイナーの中での権力が分散している必要があります。

つまりマイナーの権力はマイナー間でどれだけ分散しているかに依存します。

3. 金を出す人(ホルダー)

あるシステムから発行されたトークンを持っている人です。こいつは基本的には権力を持ちませんが、開発者やマイナーなどに対して外的に圧力をかけることができます。開発者と違い、買い集めたり取引所になることで少なくとも市場に出回っている分の権力を手に入れることができます。

ホルダーにプロトコルに対する影響力を与えることは基本的に危険です。何故ならばブロックチェーンが隔絶しようとした外部社会の権力ゲームが資本主義の論理によってこの上なく単純化されて持ち込まれるという事態が発生するのです。

これは決定的にまずい状況です。何故ならば外部の権力ゲームと隔絶した誰にも依存しない確定的な挙動による安心感こそブロックチェーンが現実社会のどのエンティティもなし得ない価値であり、市場における売買という外的権力とプロトコルへの影響力が直結することはプロトコルの価値の毀損に他ならないからです。この状況下では、プロトコル内の資産よりも素直に国の規制が入っている金融商品の方が安心できるかと思います。

ホルダーは権力を手に入れる手段がプロトコルの外部にあるため、プロトコルによる制御を行うことが非常に難しい相手です。なので彼らに権力を与える時は細心の注意が必要になります。

4. 利用する人(ユーザー)

利用することによって支持・不支持を表明し、権力を与えることのできる主体です。ユーザーが集まらなければ価値は生まれないのである意味当然と言えます。

ここで本当に大事なことは、ユーザーとホルダーは違うということです。金を持っているからといって本当にそのユーザーである訳ではありません。(a16zがMakerDAOのヘビーユーザーではないですし、投票にもあまり参加しません)ユーザーの利益とホルダーの利益が相反する場合だってたくさんあります。(簡単な例ではETHが上がった時のgas代)

ユーザーが持つ権力が自然なものだからと言って、トークン所有者に権力を渡す、つまりホルダーに権力を渡すことは自然とは限らないということです。

様々なガバナンス方式を比較してみる

1. Bitcoin

Bitcoinの特徴はホルダーおよびユーザーに特別な権力を与える仕組みがなく、アップデートもソフトフォークに限定されているという点です。ソフトフォークに限定されていることで開発者にも権力が行き渡らないようになっています。

これはある意味でプロトコルとして完成していることを意味します。これは必ずしもBitcoinが素晴らしいという訳ではなく、プロトコルが完成していると「みなす」ことで理想のブロックチェーンに近づけようという考え方です。(進歩を放棄しているとも捉えることができる)

マイナー間での権力さえ分散していれば、限りなく「理想のブロックチェーン」に近いと言えます。

2. Ethereum

こちらは逆にETH2.0が控えているため開発チームの権力が非常に大きいです。そのためETH2.0がローンチされた後にどのような立ち位置に開発チームがいるかによって非常に評価が分かれます。

また、後述するPoSの仕組みによっても評価は分かれます。

3. PoS

これは非常に便利ではありますが、ホルダーにプロトコルの実行者としての権力を渡す行為です。前述の通り、ホルダーはプロトコルでは規制しようがないため、工夫しなければかなり危険な行為であると考えられます。

ここで絶対に陥ってはいけない思考は「ホルダーの意思はユーザーの総意なのだからホルダーの意思の合計こそがプロトコルの意思である」という考え方です。

これは明らかにホルダーとユーザーを混乱して考えています。ユーザーはあくまでもプロトコル内部に生まれるものなので制御が可能です。一方でホルダーは制御できない存在であり、彼らにプロトコルの権限を渡すことは一種の「悪魔の契約」であり、きちんとした設計が必要です(便利ではあるので有用な仕組みではあります)

現実的な工夫として、

a. 開き直って一部のホルダーに大きな権力をわたし、彼らに責任と透明性を要求する(EOSなどのDPoSと呼ばれる仕組み)

b. 誰でも簡単にノードになれるように促し、分散性を獲得しようとする(Tezosのベーキング)

c. ホルダーであってもなるべく忠実なプロトコルの実行者になるように強制する(ETH2.0のslashing)

4. PoI

NEMが採用しているPoIも面白い仕組みです。これはホルダーとユーザーを明確に分けてユーザーに権力を与えようとする仕組みです。

わかりにくいのが難点ですが、「ユーザーがつかなければプロトコルに価値などないのだからユーザーに権力があるべきである」という考え方をするならばPoSよりもPoSらしいと言えるでしょう。

5. ガバナンストークン

投票によって仕組みを(事後的に)決めてしまおうという考え方です。開発者の権限は縮小されますが、その代わりにホルダーに大きな権力を与えます。ユーザーとホルダーは違うのでユーザーにとってもっとも良い決定がなされるとは限りませんし、プロトコルとしての安定性が大きく損なわれます。(ガバナンスで決定される事項は絶対的な正解が存在しない事項なのでSlashingによる強制は不可能)

ホルダーについてプロトコル内で制御ができない以上、ガバナンストークンの裁量の大きさによっては「将来のプロトコルの挙動が全く予想できない」という全く安定性のない仕組みになってしまい「理想のブロックチェーン」的状態からもっともかけ離れた状態になり、ブロックチェーンがブロックチェーンである価値が失われます。

ただし、どうしてもこうした事後的なガバナンスが必要な場合というものは存在するでしょう。その場合、ガバナンスが発生する条件についてあらかじめ指針を作り、最小限の範囲でガバナンスを行うことが必要であり、また、表の与え方や意思決定についてきちんと定めておくことが重要でしょう。

(ダメ、ゼッタイ お気持ちガバナンス)

(まだコロナ前後の日銀のオペレーションの方が圧倒的に信頼できる)

ガバナンスで重要なこと(再掲)

繰り返しになりますが、ガバナンスで重要なことは

プロトコルの完成度を高めつつ、プロトコルに影響を与える人間の影響力を最大限無効化する努力

であり、「プロトコルの完成度を高めること」と「人間の影響力を無効化すること」の二つの軸が重要になります。このことから二つの結論が考えられます

結論1: プロトコルはシンプルで説明可能でなければならない

「プロトコルの完成度を高めること」に関する結論です。

複雑なプロトコルは複雑すぎるといつまでたっても完成せずガバナンスという補助輪からいつまでたっても卒業できません。Bitcoinはそうしたことに対する一つの解決策で、現状のプロトコルを「完成」と捉えてソフトフォークに頼ることで運営されています。

もちろん複雑なものが全てダメ、というわけではなくETH2.0のように複雑だがそれ以上に社会的インパクトの大きいものも存在しており、目的が明確で目的に対して過度に複雑すぎてはいけない、くらいのニュアンスです。

一番良くないものはプロトコルの目的と関係ない、あるいはそれを阻害する悪性の複雑さであり、これはガバナンスへの依存を決定的に高め、決して安定的な挙動を示さないプロトコルになります。プロトコルには、こうした「悪性の複雑さ」が発生しないようなシンプルさが求められます。(例:危機的状況下でボラティリティが高まる仕組みが組み込まれている「ステーブルコイン」)

結論2: ガバナンスはプロトコルを代替しない

「人間の影響力を無効化すること」に関する結論です。

ブロックチェーンの本源的価値はプロトコルによる支配、そしてそこから生まれる安定性です。そのためには人間の影響を無効化、あるいはそれすらもプロトコルで制御可能にする必要があります。そうして初めて外部世界では手に入らない安定性・ブロックチェーンの唯一無二の価値が生まれます。

このブロックチェーンの本源的な価値を頭に入れて考えると、事後的なガバナンスはプロトコルを代替せずむしろ毀損することがすんなりわかると思います。

アニメ・サイコパスの第20話でこの世界を支配するシステムであるシビュラシステムは主人公である朱にこう語りかけます。

「無謬で完璧なシステムなど存在しない。しかし運営の過程でイレギュラーを許容し共存することでシステムは完璧を獲得する。」

これはブロックチェーンには当てはまりません。ブロックチェーンにおいて運営による事後的なガバナンスはプロトコルの矛盾を補完しないのです。それがプロトコルが支配し得ないホルダーによるものならなおさらです。

ブロックチェーンは最初から無謬で完璧であることが求められます。外部の権力ゲームと隔絶した無謬のシステムによる完璧な支配こそが我々がブロックチェーンに求めるものだからです。

従ってどうしてもガバナンスが必要な場合においてもガバナンスというものがどのように発動してどのようにプロトコルの安定性が保持されるのか、ガバナンスそのものをプロトコルでラップしてあげることが必要でしょう。

であればこそシステムはシンプルで説明可能に、事後的なガバナンスは最小限あるいは試用期間のみ(Ethereumのように)とするのが価値あるブロックチェーンとしての在り方なのではないでしょうか。






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