【毎週ショートショートnote】スナイパーの使い方

私は幼少期より、人を殺すための技術を叩き込まれた。
物心つく前に棄てられたので、本当の親は顔すら知らない。
代わりに私を育ててくれたのは、スラム街で偶然私を拾ってくれた男だった。
彼の職業は殺し屋で、私にその技術を教えてくれた。
金も知恵もないところで生きてきた私たちには、これしか生きるすべがなかった。

私が16の時、彼は殺された。
それからは代わりに仕事を継いでいる。
依頼料は一律3000万円。
今まで仕留めた要人は100人以上だ。
金さえ払えば依頼は受ける。
そこにポリシーなどはない。

私は深呼吸を一つすると、双眼鏡を除いて内部の状況を確認した。

ターゲットの周りには屈強な黒服が群れており、周囲に警戒を示している。
アレを掻い潜ってターゲットを狙撃するのは至難の業だろう。

壇上のターゲットにスポットライトが当たり、音楽が流れ出した。
観客の目がターゲットに集まり、警戒が緩む。
落ち着け、チャンスは一瞬だ。

ターゲットの動きを観察し、動線にスコープの真ん中を合わせる。
重要なのはタイミングだ。
よーく狙って……今だ!

引き金に力を込めると、火薬の乾いた音が聞こえた。
次いで、弾丸がターゲットに向かう。
感触はパーフェクト。
後は邪魔が入らなければ……。

――――刹那。
黒服のひとりが身をかがめたかと思うと、射線に飛びついた。
なんだと!
弾丸が黒服の肩に刺さる。

「敵襲だ!防御を固めろ!攻撃部隊は向こうのビルへ向かえ!殺して構わん!」

リーダーらしき人物の一声で数人がこちらのビルへ向かい、他の数人はターゲットを囲んだ。

失敗か。
絶望する私の視線の先で、ターゲットは構わず仕事を続ける。
ろうとの上で回っていたビー玉が、落ちた先のドミノを崩して、順調に進んでいく。
完成を止められなかった無念を噛み締めながら、私はターゲットに背中を向けた。

仕掛けた盗聴器に繋がるイヤホンから会場の音が聞こえてきた。

沸き起こる拍手を背にして、必死に逃走する。
後ろからは銃声の雨。

そのうちの一つがどこかしらで跳弾して、鉄骨のネジを撃ち壊したようで、私に鉄骨が降った。
イヤホンがピタゴラスイッチ♪と鳴るのが聞こえた。

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