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考現学とは何か

今年の4月から立ち上げました「考現学勉強会」
先日1回目が無事終了し、今後はメンバーの方々と輪読や調査を進めていきます。メンバーの専攻は建築学、地理学、社会学と多岐にわたっており、学際的な学問である考現学に相応しい構成となったと感じております。

さて、第一回では今和次郎『考現学入門』から「考現学とは何か」「考現学総論」「「考現学」が破門のもと」「解説 正しい考現学」を読み、考現学とはどういったものかについてのレクチャーならびにディスカッションを行いました。今回はその中で説明した考現学についてのレクチャーを一部公開します。

1.考現学とは

・今和次郎(1888~1973)が提唱。(建築家、柳田國男の弟子)
東京美術大学図按科(現:東京芸術大学美術学部)でデッサンを学び、その後早稲田大学で教鞭を取る。柳田國男の調査に同行、民家のスケッチ等で補佐。
・1923年関東大震災を経験し、焼野と化した東京がどのように建て直されるのだろうと感心を持つのが考現学の萌芽と述べている。
・考現学とは「現代風俗あるいは現代世相研究にたいしてとりつつある態度およびそしてその仕事全体」とし、考現学というネーミングには「考古学に対立したいという意識(現代のものの研究を科学的にやってみる)」がある。
・「考現学=社会学の補助学」と位置付けている。(一方で今は考古学を史学の補助学と位置付けており、史学と交渉してはじめて価値が発揮されるとしている。)
・路上観察学は考現学からの分派であり、赤瀬川原平らが提唱した。考現学が「現在われわれが眼前にみるもの」すべてを対象とするのに対して、街を歩き、物件の観察に絞った(主とした)もの。路上観察学会(パロディ的な学会)がある。

2.ほかの学問との比較

(図1)ほかの学問との比較(筆者作成)

今は『考現学入門』で考現学について他の学問と比較しながら説明していく。本の中でも断りを入れているが、これらの学問の解釈はあくまで今にとっての学問に対する捉え方であり、実際に学問に関わっている人の中には異議を唱えたくなる人もいるかもしれない。しかし、だからこそ今の思う考現学の立ち位置が分かってくる。
今は「考現学は時間的には考古学と対立し、空間的には民族学と対立するものであって、もっぱら現代の文化人の生活を対象として研究せんとするものである」としている。図にするとおおよそ、上のようになるかと思う。つまり考現学は街を主なフィールドとしていて、現在のものを対象とする学問である。

3.考現学の研究態度

今はこれから考現学をやっていこうとする人たちへ、調査を通じて得られた研究態度(心構え)について指南してくれている。

①観察、筆記、スケッチ、写真などで材料の採集をする
②多面的な考査をていねいに、ストックを作っておく
「すべての風俗は分析され比較されてはじめてそれぞれの意義がはっきりする(時間と空間で比較考査する)」
③客観視する
「現代人の生活ぶりを動物の行動や習性を注意する観点と同じ立場からみる」「生活とりが生活に」なってしまうことに注意。
④予備調査をする
調べをやるために予備調査が必要。分析され集計されなければいけないので、カテゴリ分けが必要なため。
⑤採集を紹介するときには「説述」をつける
※「説述」…採取時の感想および、振り返ったことの報告書のようなもの
⑥実験的態度は不可
(実験すると研究対象を非生活態化してしまう)

これらは他のフィールドワークにもあてはまることが多いと思うが、調査が核となる考現学にとっては特に心に留めて置かなければならないことばかりといえよう。

4.考現学の意義

ところで、そもそもなぜ考現学が必要なのか。


(図2)考現学がおこる時代背景(筆者作成)

今は上の図のように、時代を原始社会、現代、未来と分けて、現代を迷信と科学の混ざった混乱の時代としている。そして、これらはその時代を生きる人々の生活にも適用される。今は現代までの移り変わりを以下のとおり、解説している。
①18C以前「慣習的生活の時代」
 封建社会。王の影響が強く、生活についても王独自のスタイル(一王一王
 スタイル)の影響を受ける。ロココ、バロック等々。
②19C「流行的生活の時代」
 ナポレオンの登場。王の影響が薄れ、代わりに考古学者が活躍したことに
 よる中世やルネサンスなど過去のスタイルのリバイバルが起こる。
③20C「合理的生活の時代」
 科学の進歩、一代を風靡する生活スタイルが破産。
 慣習的生活をする人も、流行的生活をする人もいて、それらを組み合わせ
 る人もいる。
 
つまり『考現学入門』が書かれた20世紀現在は時代を席巻するような生活スタイルがなく、説明しづらい、一目では分かりづらい生活スタイルとなっている。だからこそ考現学を用いて「混沌としているところの現代生活の場面全域を観察」する必要性がある、としている。
考現学でどのくらい慣習的生活をしている人がいるか、流行的生活をしている人がいるかを調査することで、現在が図2のどこに位置しているか分かってくるのである。また、そのような調査を行うことで未来を予測することも可能になってくる。

5.おわりに

最後に、今がこれから考現学をやっていこうとする我々に向けて送ってくれたエールともいえるような一節を紹介したい。

「広く各地方のものをわれわれの方法で収集したものができるならば、それが積まれるならば、それぞれの地方生活の状態が手に取るように明らかにされるであろう」

今回の勉強会が立ち上がったように、今の提唱した考現学という学問に対して賛同し研究をしている人は、今までもこれからも少なくなかっただろうと思う。しかし、現状「それぞれの地方生活の状態が手に取るように明らかにされる」ような資料はなかなかお目にかかれないと思う。
もちろんそれらは、それぞれの地域にある市町村史がある程度の役目を果たしているといえ、郷土史家と呼ばれる方々が心血を注いで地域の生活を残そうと取り組んでいる。
しかしこういった、その時その場所にしかない、意識的に残そうとしないと失われていってしまうような生活を記録していく取り組みはいくらやってもやりすぎということはないと思う。

今回の勉強会では『考現学入門』『路上観察学入門』を読み、その後はそれぞれのメンバーに、それぞれに心惹かれる場所や生活についての記録をしてもらおうと思っている。
このレクチャーは元々勉強会用に作成したものであるが、勉強会に参加されていない方がこの文章を読まれ、生活の記録をしようと思ってくださる方が少しでも生まれればいいな…と思い、公開することにした。この文章がそれぞれの地域のそれぞれの記録が生まれる、その一助になることを願っている。


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