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杳として知れず

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*この話はフィクションです。
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2023年11月の記事一覧

杳として知れず ⑫ 二年の月日

杳として知れず ⑫ 二年の月日

 僕が自分を再び取り戻してからは、失われたものを取り戻すかのような怒涛の日々が駆け抜けていった。再び学校へ登校すると、かつて僕を痛めつけるものも存在が見えないかように知らぬフリをするものも、"君は僕たちの仲間だ!"とばかりに善意のお膳立てキャンペーンをするほどの過剰な歓迎ムードで迎え入れられた。

 僕はその行為に潜む、あらゆる人々の統一された思惑が透けて見え、ひたすら人類皆、友達ブームが過ぎ去る

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杳として知れず ⑪ 夢のあと

杳として知れず ⑪ 夢のあと

 彼女の作り込んだ夢の世界は役目を終え、崩壊が始まる。それは現実で引き起こした完全犯罪の証拠を抹消する行為だ。だが現行の法律で裁かれることはない、立証しようのない証拠なのだ。今の法律が定める想定を超える技術が使われ、立証が難しい犯罪。これは自分の取り巻く世界を壊された少女による、我が身を賭けた復讐劇でもある。

「僕も、君にターゲットにされた一人ですか?」

 それに彼女は少し、しおらしく申し訳な

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杳として知れず ⑩ 夢の街の正体

杳として知れず ⑩ 夢の街の正体

 大声を出せば反響もするが、答えてくれるものは何もない夢の中の無人街は、ただそこにあり備え付けられたシステム通りに機能している。まるで僕の方が、ある一定の場所にしか留まれない幽霊のように思えてきた。

 ひとりだけ取り残される孤立した世界にいて、ずっと戸惑いながら彷徨い続けている。現実でも夢でも、結局のところ答えは自分で探すしかない。

 声がする場所には物影一つ見当たらない。さっきから物音はする

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杳として知れず ⑨ 再会再度、夢の街へ

杳として知れず ⑨ 再会再度、夢の街へ

 依然、僕は彼女の体に入ったまま睡眠を取っても、夢の世界へ戻ることはできなかった。ならば今、出来ることは彼女の体の回復を最優先にするしかない。

 彼女を通して何度か見る医者としての姿は、僕の知っている父とは違って見えた。相手が知人の娘だということもあり多少の遠慮はあるだろうが、もし娘なら、または若き日の母とはこうだったのかな、という想像を膨らませた。
 なにしろここは母と濃い時間を過ごした、出会

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杳として知れず ⑧ 秘め事

杳として知れず ⑧ 秘め事

 それは僕も気付かぬうちに起こった、一瞬のことだった。

 今までを振り返ると知人による暴力行為を目撃した僕は、その被害者となる彼女と知り合った。その後、彼女が転落する事故に遭遇、共に落下の衝撃を受けた僕は意識を失い以来、倒れる症状が頻発し、同時期に知人からの学校内外でのいじめ被害にも苦しんでいた。

 意識を失っている間、僕はいつも同じ夢を見るようになる。それは転落事故や暴力行為を目撃した場所で

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杳として知れず ⑦ あれから一週間

杳として知れず ⑦ あれから一週間

「なあ、一体どうした?もしかして気が変わったのか?」

 VIPエリアの病室での担当医とのカウンセリングは、個人情報を扱うということもあり、いつも二人きりになる。このところは毎日で、しかも時間外だ。担当医は距離を縮め、手の甲で体の外のラインを撫でて離さない。見る目は熱を帯び、高揚している。

「カウンセリングって、・・・こんな時間に今日も?」

「君は慎重なのはわかってる。だが心配しないでいい、こ

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杳として知れず ⑥ 夢と現実の再会

杳として知れず ⑥ 夢と現実の再会

 音も人もなく匂いもしない、完全に遮断される管理された夢の中の無人の街。繰り返す時間は短く、終わりはすぐに訪れ、再度また束の間の生を繰り返す。儚さを感じさせる間も無く、そのループの輪に捉えられれば逃れられず、ここでは自死することが軽く思えるほど、安直に死と再生は巻き戻されている。
 次第に意識下で慣れきった死は、いつか戻れるようになった現実においても、同じように繰り返せるものだと緩慢に思うかもしれ

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