うろろんと夜逃げ

　夜逃げっていうのは、夜中にこっそりお引越しすること。借金とかストーカーとか、きっといろんな事情があるのです。だから誰にもばれないように、大事なものだけ厳選して右手と左手とふたつのカバンに詰め込んで、迎えにきた車にそっと乗り込みます。
「うろろん」
「うろろん？」
　うろろんたちが、気がついて家の中から出てきました。あふれ出るうろんを吸い込んで、いっぴきのうろろんは迎えにきたバンタイプのクルマの後部座席に乗り込みます。かばん、うろろん、ニンゲン、かばん。シートベルトを締めて。大家さんの迷惑が少しでも減るように、家の鍵をキーホルダーから外して、車に乗り込まなかったうろろんに渡しました。玄関の棚か、ポストにでも入れておいてね。
「うろろん！」
　うろんをしゅっ、と吸い込むと途端にスライドドアが閉まりました。ぼんやり光るうろろんたちに見送られて、ハイエースは真夜中の国道を走ります。夜明けまでには県境を越えるでしょう。