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夜更けにトイレットペーパーを買いに行く(コネコとシイナさんと生活といううすのろより)

生活といううすのろは、夜が更けてからやってくる。

ある晩のこと。
「シイナさん、トイレの紙がもうないにゃー」
なんということ。お夕飯も食べ、食器洗いも終わり、残りご飯でおにぎりを握って、あとはお風呂に入って寝るばかりという時刻です。
「らすいちだったのにゃ」
「えー」
こればかりは無いと困りますので、アジア風に水と手で洗うというのも気が進まないので、シイナさんはしぶしぶ靴を履いてトイレットペーパーを調達しにでかけます。
頼んだわけではないけれど、コネコもシイナさんのあとに続きます。

月の大きな夜です。十三夜くらいでしょうか。
今夜はもう遅いので、隣駅の一晩中やっている大きなスーパーへ向かうしかありません。普段は歩かない道を、コネコとシイナさんは黙って歩きます。
「夜だとなんだか遠いような気がしますにゃ」
「じっさい、遠いんだよ」
暗くて、夜で、遠くて、ふだんは行かないスーパーなのです。気が重いのになぜか少し、わくわくするような感じもあります。
「お刺身、はんがくになってないかにゃ」
「さっきお夕飯食べたよね?」
「でも…はんがくだったら…なやむにゃ」
「まあ、半額なら、考えようか」
黒くてつやつやとしたアスファルトがふたりの足音を吸い込んでいきます。
スーパーまではまだ、道半ばです。
〈了〉

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