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りんごにたくさん助けてもらっているお話

「早く収穫しなきゃなぁ…なんで私は早く収穫してあげなかったのだろう…。」
11月中旬、収穫が終わらず、とってもモヤモヤしていました。苛立ちをかかえながら畑に行くと、鈴生りの千雪が語りかけてきました。
「台風の被害もなくてよかったよ。畑を持って1年目。慣れない中、よく頑張ったんじゃない?」

「千雪」は”ちゆき”と読みます。「切っても茶色くなりにくい」特徴のあるりんごです。香りも素晴らしく、爽やかな甘味を感じ、飽きのこない食味を持ちます。

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「畑を一人でやるのは大変じゃない?なんでそんなことしているの?」

そんな風に聞かれることはしばしば。どう答えれば良いのか、毎回言葉に詰まります。もちろん大変だなぁとは感じます。でも、大変でくるくる目が回るような日々の中にも、キラキラした宝物が急に顔を出すこともあるのです。

5月には可愛らしいピンク色の花が咲きます。7月には「ぷんとした」(私の大好きな津軽弁)実がたわわに生ります。10月には「早く収穫して。」とりんごたちから急かされます。千雪の特徴でもある"濃い赤"で畑がいっぱいになり、りんごのふんわりした香りに包まれます。大変な中でも、時間の経過と共に成長を感じさせてくれる千雪には、本当に励まされましたし、救われました。いつもいつも、背中を押してもらっているような感覚です。

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当初、「りんご農家になろうとしている人たちがぶつかる壁がなんなのか。」を知るために畑を始めました。しかし今では、畑は自分の生活の一部となっています。りんごがそばにいてほしいものになるなんて、自分でも思ってもみませんでした。


「りんごプロジェクト」という文字が、私の名刺には書かれています。地域おこし協力隊として青森に移住し、「りんご農家の減少が課題である」という認識のもと、りんご農家になりたい人のための受け皿を作るために動いていました。しかし移住して半年後、課題に対し違和感を覚えたのです。


農林業センサスを参照するとりんご農家の数は年々減少している一方、りんごの生産量は増加しており、販売額も輸出の後押しで増加傾向にあります。耕作放棄地は微増傾向にありますが、これは山地などの条件のよくない農地を手放す人が増えているためです。平地の好条件の農地は、若手の農家を中心に獲得競争が見られます。2020年版の農林業センサスの詳細な数値が発表されたら、もしかしたらこの仮説も変わるもしれません。しかし、現状の数値的な事実を見ると、むしろりんご産業は「生産」の分野では農地の集約化、栽培の効率化が進んでいるとも言えるのではないでしょうか。

そんな風に考えつつ、色々と活動してみて、私がりんご産業において何と向き合っていきたいと考えているのかをまとめました。大きく3つあります。①りんごに関する文化財の保存、②多様なりんご農家のあり方に目を向ける、③情報の見える化、です。


① “りんご”そのものを楽しみたい
移住してから2年弱。「りんご」について「栽培する」「食べる」ことばかりに目が向いていたように思えます。しかし調べてみると、先人たちが積み上げてきたものの中には「栽培する」「食べる」以外の魅力もあるんじゃないかと思うようになりました。例を挙げると、「根曲り竹の竹籠」「はしご」「剪定鋏」「刷り版」「もつ焼き」「畑での過ごし方」「前掛け」「ぽんぽん」などなど。これらは青森に根付く文化財としての価値があると感じるのです。先日、りんごの木箱に品種や数量などを印字するために使われていた「刷り版」(=ステンシル)の展示、ワークショップを行いました。noteなどでの地道な発信もあったからか、「刷り版」に関する記事が2020年の記事の中でもトップ10に入っていました。りんご農家が減っている事実がある中、文化財を意識して残していく動きが必要であると感じています。


② いろんなりんご農家がいて良い
「女ひとりじゃ厳しいよ。」「スプレーヤーが無いとやっていけないんじゃない?」「栽培知識も技術もないんだから無理でしょ?」などなど、そんなお話をいただくことがありました。畑を持つことに対して否定的な言葉をいただくこともありました。しかし、畑をやってみて分かったのは、助けてくれる人がいるという事実です。特に、偶然出会ったりんごの師匠には「大怪我をしないならOK」という考えのもと、自由にやらせてもらいました。助けてくださる方々に共通しているのは「あなたは何がしたいの?」と、やりたいことを尊重してくださる点です。

この経験が大きかったように思えます。この経験のおかげで、自分のように外から来た人がりんご産業に入りやすい状況を作る一歩目として、「旅するりんご農家」という団体を作り活動をスタートさせることができました。

それぞれが持つ「りんご農家像」を尊重することが考え方のベースにあります。りんご畑に興味がある人から問い合わせをいただくなど、輪が広がってきました。また、りんご畑を手放したいと考えている方からも連絡をもらうことも出てきました。双方をつなぐ取り組みが増えていくかもしれません。


③ りんごと暮らすってどんな感じなのか

「りんご農家さんの暮らしって、どんな感じなんだろう。」と思い、移住前に調べたことがありました。この時、ネット上における情報の少なさにめちゃくちゃ困りました。他の地域と比較すると極端に少なく、不安感を覚えました。それをどうにかしたいと重い、2020年から積極的に取り組んでいるのが、ネットでの情報発信です。畑の様子やりんごに関する記事をnoteへアップしています。他愛のない内容で、畑でお弁当を食べたとか、初めて草刈りしたとか、畑の端に植えたカボチャが元気そうだとか、自分が体験したことを飾らず紹介しています。2020年2月17日からスタートし、よく見られていた記事については以下でオープンにしています。

また、オンラインイベントへも取り組み始めました。「お花見茶会」、「りんごの食べ比べツアー」などなど。発信先の方々の興味が少しずつわかってきたので、アップデートした内容でさらにいろんなことに挑戦したいと考えています。

永井個人としてりんごと向き合う
今回記事を書いていて感じたのが、たった2年弱でりんごに何度も助けられてきた、ということです。当初、協力隊として「やらなきゃ」という思いが強かったのですが、今となってはりんごがあって、畑を運営することができて本当によかったと感じています。どんな形かはそれぞれですが、私と同じようにりんごに救われる人がいるかもしれないなと思います。そんな人のために、りんごと生きる道を整え、私が経験したことと同じ壁にぶつからないよう、階段を積み上げていきたい。そうすれば、自分が気づかなかったりんごの楽しさを一緒に体験できるかもしれません。結果として地域へも資源として何かを残していけたら、もっとハッピーだなと思います。

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