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寿都町「核のゴミ」問題をめぐる周辺自治体の苦悩

前回の投稿では、寿都町だけにフォーカスして「核のゴミ」問題を考察しましたが、この問題が影響を及ぼす地域は、もちろん寿都町だけにとどまりません。

そこで今回は、黒松内町、蘭越町、島牧村、岩内町という周辺町村に思いを寄せて、この「核のゴミ」問題を、少し別の角度から考察してみようと思います。

交付金配分の仕組みと受け取り状況


「核のゴミ」文献調査受入れに伴って国から地域に支払われる交付金は、制度上、調査対象自治体に5割以上、残りは地域の実情に応じて配分されることとされている。つまり、制度設計上、調査対象自治体が地域内で孤立しないよう、周辺自治体をカネで買収する、もとい、説得する仕組みをあらかじめ備えているということだ。

新聞報道によると、当初寿都町は、国から支給される令和3年度の交付金
10億円のうち、道に1億円、近隣4町村の黒松内町、蘭越町、島牧村、岩内町にそれぞれ7500万円ずつ配分することを予定していたらしい。すなわち寿都町は、国の制度設計に従い、カネの力を利用して道や周辺町村を取り込もうとしていたのである。

もうこの段階まで来ると、「寿都町も、国の制度の被害者だ」などという感情も徐々に薄れてゆく。隣接する自治体の反対の声に耳を貸すことなく、寿都町独自の判断で文献調査への応募を決めておきながら、「なんなら、おカネ分けてあげますけど……」ときたのだから、黒松内町、蘭越町、島牧村の住民からしたら、そりゃたまったもんじゃない。虎の威を借る"隣人"に対し、「寿都町さんよ!今度はあなたが私たちの頬を札束で叩くのですか!」と、地域住民に怒りの感情が湧き上がってきても、なんら不思議はないようにも思える。

結局、道、黒松内町、蘭越町、島牧村の各自治体は、「核のゴミ」文献調査受入れに伴う交付金の受入れを辞退。寿都町から配分を受けて交付金を受け取るとの意思表示をしたのは、岩内町のみにとどまることとなったのである。

2町1村と岩内町の対応が分かれた訳


道の対応はさておくとして、ではなぜ、受け取り辞退を決めた2町1村と受け取る決定をした岩内町との間で、対応方向に差を生じることとなったのだろうか。

地理的に見ると、黒松内町、蘭越町、島牧村は、寿都町との間に境界を持つ、いわば「お隣さん」。一方で岩内町は、直接寿都町と隣接しているわけではない。すなわち、こうした地理的側面が、交付金配分の打診に対する対応が分かれた理由のひとつには挙げられるだろう。

ただし、これは必ずしも主たる理由にはならない。核心は、もっと別のところにあると考えていいのではないだろうか。


実のところ、周辺自治体の対応が分かれた核心的な理由は、非常にシンプルに説明できるだろう。

すでに泊原発関連の交付金を長期にわたって国から受け取っている岩内町に対し、人口減少が加速する中、収入の確保に苦労しながらも地道な努力を愚直に重ね、汗をかきながら地域づくりを進めてきたのが受取り辞退を決めた各自治体。2町1村と岩内町の間には、こうした明確なバックボーンの違いが存在するのだ。

そう、そこにあるのは、すでに"麻薬"に手を染めてしまっているかどうかの違い。この観点から言えば、岩内町が寿都町から配分される交付金を受け取らない理由は、最初から存在しえなかったと言ってもいいのだろう。


ひとつ、岩内町の名誉のために補足しておくが、同町には、国からの交付金を原資として、町内への企業誘致を積極的に行うなど、新たな地域づくりの取組を積極的に行ってきたという歴史があり、こうした側面に関してだけ言えば、"麻薬"依存という表現は必ずしも適切とは言えない。

なぜなら、町民の生活インフラに関連した経費に交付金を充当するのとは性格が異なり、ものすごく乱暴に言うと、企業誘致の取組なら、交付金が無くなったらいつでもやめられるとも言えるのだから。

また、新聞報道によると、岩内町議会の議論において、交付金受取りに反対する意見も一部出されたようだ。少数意見の域を出ないのは確かだが、それでも、こうした意見が出ること自体は好意的に受け止めてもいいように思っている。

最後の砦は蘭越町


今回、寿都町が「核のゴミ」文献調査受入れに伴う交付金を受け取ったこと踏まえ、あらためて後志地域の地図(北海道後志総合振興局のサイトにリンク)を見てみると、あることに気づく。そう、蘭越町は、いよいよ"麻薬"に依存する自治体に周囲を取り囲まれてしまったのである。

もし今回、蘭越町が交付金の受取りを決めていたら、"麻薬依存地域"が点から線となり、やがて面となってつながっていった可能性が否定できない。いや~、これは考えただけでも恐ろしいことだ。

なぜこれが恐ろしいことなのかと言えば、地域が一旦カネで買収されてしまうと、後々、国は「カネの持ち逃げだけは絶対に許しませんよ!」と該当地域に迫ってくることはほぼ間違いない。そうすると、最悪のケースを想定するならば、後志地域の日本海側一帯が、将来的に「日本の核のゴミ捨て場」にされてしまう可能性だって、絶対にないとは言えないのである。

今は、「文献調査だけで手を下ろすこともできますよ!」などと、担当大臣が甘い言葉で財政がひっ迫する地方の自治体を誘惑しているが、現実は、そう甘くはないだろう。なんたって、地域にばらまくカネの原資は、国民の税金。いざとなれば世論を味方につけ、該当地域に圧力をかけてくることは明白だ。そう、かつて炭鉱の町夕張が、国策に振り回された挙句、半ば見せしめのような形で利用されてしまったように……。

その意味では、後志地域へのさらなる"麻薬"汚染拡大を食い止めるための最後の砦が、蘭越町であるとも言えるのだろう。

本来、国家的レベルでの解決が必要な問題に関連し、蘭越町という一自治体に重い課題を突き付けるのは、もちろんフェアなことではない。だが、現状、期せずして蘭越町が重い課題を突き付けられているのは、客観的な事実であるといえよう。今後、蘭越町が「核のゴミ」問題に対しどのように対応していくのか、俄然、目が離せなくなったのは確かなのである。

交付金の配分という「踏み絵」


蘭越町に限らず、今回、寿都町から交付金配分の打診を受けた各自治体は、いわば「踏み絵」を強制的に目の前に突きつけられたことになる。

さて、それはなぜか。

今後の見込みとして、この先、国は、交付金の受取りを辞退した黒松内町、蘭越町、島牧村に対して、財政的な締め付けを徐々に強めていくも予想される。つまり、「踏み絵」を踏まないという形で国に抵抗した自治体に対しては、「あなた方は、交付金なしでも財政的に問題ないという意思を示しましたよね!」と。

なんとも理不尽な話ではあるが、これが霞が関の常識的なやり方。こうした姿勢から、財政難にあえぐ地方の自治体に国が本気で寄り添う姿勢など、微塵も感じ取ることはできないのだが、少なくとも現状は、こうした現実が目の前に横たわっていることから、決して私たちは目を背けてはならない。


「踏み絵」を強制的に突きつけられた2町1村にしてみれば、とんだ"とばっちり"もいいところ。今年度は、交付金を受け取らないと判断したものの、各自治体内の議論においては、当然、異論もあったのではなかろうか。つまり周辺市町村も、降って湧いた「核のゴミ」問題に引きずられる形で、にわかに分断の危機に直面しているとも言えなくもないのだ。

「核のゴミ」問題は、一年、二年という短期的なスパンで解決するような問題ではなく、その着地点が見えるまで、おそらく最低でも十年、いやそれ以上の時間がかかるだろう。

だとすれば、その間、周辺の各自治体においても、首長選挙や議会議員選挙が行われることとなる。当然、こうした過程の中において、「このまま国の方針に逆らい続けたら、このまちに未来はないんじゃないか?」というような"麻薬"依存を肯定的に捉える主張も出てくるに違いない。

要するに、周辺自治体からすれば、突如、お隣さんから手りゅう弾を投げ込まれたようなもの。とても迷惑な話ではあるが、こうした現実から目を背けることが許されない厳しい状況に置かれていることだけは、どうやら間違いなさそうだ。

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※ 次回の投稿では、この「核のゴミ」問題に対し、今、私たちができることについて考えていきたいと思います。

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